300 リュカとの休日、女性に鈍感
光の日は、ほぼ一日をリュカの為に使って過ごそうと思い、空けていた。
学校だったり冒険者ギルドでの仕事だったりと、出掛けてばかりだったから寂しかろうと思ってのことだ。
今日はずっと一緒に遊ぼうねと言うと、リュカも嬉しそうにしてくれた。
「お仕事はいいの?」
と健気なことも言うので、ほろりとしてしまった。
父親にもそうして気遣ってきたのだろう。
朝から、スサとやっているお勉強タイムを眺めたり、一緒におやつを作ったりと楽しく過ごした。
シウが作業するのを見たいようだったので、庭に作った鍛冶室にも入れてあげた。
午後からは屋敷内を探検した。まだ体力がそれほど戻っているわけではないので、フェレスに乗せての探検だ。
とても喜んで、行き合うメイドたちとも笑顔で挨拶していた。
リュカはおやつを食べ終わると眠くなったようなので、遅い時間ではあったがお昼寝タイムにした。普段は昼ご飯のあとにお昼寝しているそうだが、シウがいたのではしゃいで起きていたようだ。
暫くは寝ているだろうとスサが言うので、その間に急いで商人ギルドへ顔を出した。
久しぶりだったが受付の女性には覚えられており、何も言わずにシェイラのところへ案内された。
相変わらず忙しそうだったが、シウを招き入れると笑顔になった。
「ちょうど休憩しようと思っていたの」
どうやら差し入れを待っているようだと気付いて、シウは魔法袋から作ったばかりの大学芋と生姜飴を渡した。飴の方は可愛らしくピンクの小瓶に入れている。丸みを帯びた瓢箪型に蔓草と花を描いてみた。午前中に作ったのだが、最初は兎をデフォルメしたものだった。それがスサたちメイドに不人気だったので、作り直したのだ。
「まあ、綺麗!」
これはなんとか喜んでもらえたようだ。
ちなみに兎型は空気を読んだらしいリュカが欲しいと言って、受け取ってくれた。
「ところで、このお菓子、これは芋なの?」
「ジャガイモじゃなくて、サツマイモという種類です。デルフ国で見付けて、大量に仕入れていたんです。すごく栄養価があって、女性にとってもお勧めの食材なんですよ」
「え、そうなの」
目が輝いた。
「ビタミンCやカルシウム、食物繊維がいっぱいあるんです」
首を傾げられたので、慌てて言い直した。
「えーと、壊血病予防、美容にも良くて特にシミ対策など、あ、あとは女性特有の鉄分欠乏対策、風邪予防にも良いです」
「良いことだらけね」
「野菜の中では優秀ですね。女性は便秘が多いのでお勧めです。その代わり、おならが普段より出ますけど、それはイモ類と同じ事ですね」
にこにこ笑って話していると、シェイラの顔が段々と曇っていった。
「どうか、しました?」
「……シウ君、あなた、まだ女の子とお付き合いしたことないでしょう?」
「はい?」
「いるのよね、あなたみたいな研究バカ」
「シェイラ様」
秘書が注意していたが、彼女は止まらなかった。
「今から教えてあげないと、この子大変なことになるわよ? いいこと、シウ君」
「あ、はい」
真剣な表情で見つめられる。
「女性の前で、シミだとかって話までは良いとしても、便秘だとかおならだなんて言ってはいけないわ」
「はあ……」
「それから、意味は分からなかったんだけど、てつぶん? 欠乏っていうのも、もしかしたら説明してはダメな部分だと思うわ。女性特有って言ったわよね?」
「……えっと、そうです。女性しかない――」
「中止! それ以上、男の子がそういったことは言わないの!」
「はいっ!」
秘書は少しだけ笑って、シェイラに睨まれたので慌てて表情を戻していた。
「とにかく、そういう時は適当に、嘘も方便と言うでしょう? それなりのことを言っておけば良いのよ。分かったわね?」
「はあ」
「女の子の気持ちをよく考えなさい。医者でもそこまではっきり言わないのに」
「……医者なら、僕よりもっとはっきり言うべきなのに」
つい、むくれ顔になってしまった。
その唇を、つと、綺麗に手入れされた人差し指で押された。
「だから、女性の医者が増えたらいいな、とは思うわね」
「薬師も男性が多いですしね」
「そうなの。でも、魔女もいるのよ。それが老婆だと何故だか安心するのよね。腕が立つという思い込みかしら」
シェイラの言葉に笑った。絵物語でも魔女の話はよく出てくるが、大抵は老婆だ。
こちらの世界で魔女と言うと、魔法を使う薬師を指すことが多い。
悪い意味ではないが、なんとなく恐いイメージはある。
「とにかく、もう少し女の子、女性の気持ちを考えてみてね。あんまり突っ込んだことは言わないのよ。庶民であっても奥ゆかしくて気恥ずかしい気持ちは持っているのだから」
「はい。無神経でした。すみません」
素直に謝ると、シェイラはふふふと楽しそうに笑った。
「まあでも、あなたのはいやらしく聞こえないから、得よねえ」
「そうですか」
「きっと大人になっても、許されそうな雰囲気の持ち主だわ。これがユーリやアケイラの発言だったら、女子たちから総スカンを食うわね」
ははは、と乾いた笑みを漏らしてしまった。
ユーリは女性にもてそうなタイプなのだが、それであっても言われるのだ。
シウが許されそうだなんて言っているが、お世辞だろうから真に受けてはいけない。
相手のことを思っての発言でも、言っていいことと悪いことがある。
特にこの世界では女性の考え方は保守的なのだと悟った。
前世ではテレビからいつも、生理用品やら便秘のコマーシャルが流れており、ドラマでも平気でそうした話が出ていたので慣らされてしまっていた。
考えてみれば戦時中や戦後のあたりはもっと女性は慎ましやかだった。
そんなことも忘れていたのだなあと、自分の鈍感さに呆れてしまう。
反省しきりで自戒した。
ところで、シェイラには試作機の飛行板を見せにきた。
見せただけで、特許については保留だ。
冒険者仕様の飛行板を作ることと、その目的について相談したかった。その為に試作機を持ってきたのだ。
「なるほどね、騎獣が持てないこの国の冒険者にとって、飛べるアイテムというのは画期的だと思うわ。その重要性もね」
「いろいろ問題があるかもしれないと思って、思案中です。けど、その前に話を聞いてもらおうと思って」
「ええ。事前に知っておくのと、突然知らされるのとでは雲泥の差よ。とても有り難いわ。しかも、これはとても重要なものとなるわね」
「そうなんですよね。新たな仕組みが必要になるかもしれないし、安全対策だってもっと考えないといけない。作るのは簡単でも、その後を考えると大変です」
「……これを簡単と言ってしまえるシウ君がすごいのだけれど、そうね、後の整備が大変なのも本当ね。任せてもらえるなら、ある程度素案は整えるわよ? むしろ、商人ギルドの力をあてにしてもらった方が良いと思うわ」
魅力的な笑顔で、ウインクされた。
元より、そうした意味もあって相談したので、シウはお願いすることにした。
「このまま、冒険者仕様のものも作る予定ですが、さっきも説明した通り『敢えて冒険者にしか使えない』よう、一定の身体能力を必要とした造りにします」
「考えてるわねえ。ちょっと惜しい気もするけれど、あなたの言うことも理解できるから、しようがないわね」
「シェイラさんでも乗りたいと思うんですか?」
「そりゃあ! 空を飛ぶなんて夢みたいな話よ」
両の手のひらを合わせて、まるで少女のような笑みで嬉しそうに口角を上げていた。
帰宅後、まだリュカが眠っていたので、その横で冒険者仕様の飛行板を作った。
作ること自体は以前から考えていたので、出来上がりは早かった。
問題は安全対策だ。
空を飛ぶということは、落ちる可能性だってあるということ。
騎獣ならば安定しているし、万が一落ちても助けに来てくれるだろう。また、中途半端な高さで間に合わなかったとしても、それぐらいならポーションがあればなんとかなる程度の怪我で済む。
しかし、飛行板はただの物体だ。落ちたって何にもしてくれない。いくら魔道具は自己責任で使うものだと言っても、そうしたところを疎かにはできなかった。
とはいえ、どんな商品にも安全対策を施していたらとてもではないが普通に買えるような値段にはならない。それでなくとも手が出ない魔道具は多いのだ。
節約好きのシウからすれば、できるだけのことはしたかった。
かといって、余計なお世話になってもいけない。
たとえば安全対策用スキルを持った人にはその分勿体無い話になる。
というわけで、オプション、あるいは別個にお勧めして買ってもらえる仕組みが必要だった。
「そうなると、高いところから落ちても大丈夫な、仕組みにすればいいのかあ」
うーんと悩んでいたらリュカが起きた。
そのため作業を中止して、リュカと晩ご飯まで一緒に遊んだのだった。
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