292 ブラード家へ報告、魔道具作成




 午後の授業の後は、真っ直ぐ屋敷へ戻った。

 リュカは起きて待っており、スサたちに遊んでもらっていた。

「おやつは食べた?」

「おいしかった!」

 右手を挙げて、まるで報告するかのように教えてくれた。

「固形物も食べられるようになりました。ね、リュカ君」

「うん」

 昼ご飯の時は、念のためにとまだ柔らかいものばかり別に作って出していたのだが、シウたちが食べているものを見て興味津々だったため、おやつは一緒のものにしたらしい。

「起きていられるようになったので、お勉強もしたんですよ」

「偉いねえ」

 褒めると、リュカが頬を赤くして照れ笑いした。

 そのまま晩ご飯までリュカは起きていて、賄い室でメイドたちと一緒に食べた。


 晩ご飯の後はリュカを寝かしつけてから、隣室を片付けたりした。倉庫代わりにしていたのだが、昼のうちにリコたちが空けてくれたそうなので、魔法で無音状態にしてから模様替えを行った。

 いずれ雇われの身になるかもしれないので、贅沢な暮らしをさせて勘違いさせるのも可哀想だから、部屋を間仕切って小部屋に分けた。

 ロランドが家僕を数人増やしたいとも言っていたので、年齢の近い子が入れば隣室にしてもいいと思って同じような間取りにする。

 家具はとりあえず、リュカの分だけ作った。ベッドも作り付け、一通りできたので終了した。


 まだ寝る時間でもなかったので、遊戯室へお邪魔することにした。

 カスパルはのんびりお酒を嗜みながら相変わらず古書本を読んでいる。

 シウは護衛リーダーのルフィノを見付けて、先日からのことを詳しく説明した。

 ロランドには掻い摘んで話していたし、その時々で護衛の誰かはいたが詳細は省いていたからだ。

 話を聞き終えて、ルフィノは眉を顰めた。

「そんなことになっていたのか」

 深刻な顔をするルフィノに、ダンやモイセスが近寄ってきて口々にこの国について語り合った。

「宮廷魔術師は一体何を考えているんだろうな」

「シュタイバーンほど権限がないのかもしれないぞ」

「国王が留めていると?」

「この国では貴族の方が強いらしい」

 デルフ国でも貴族の力は大きかった。王政にもいろいろあるのだろう。

「しかし、ニクスルプスの群れをほぼ討伐できたのは良かったな」

 シウに向かって言われたので、頷いて答えた。

「殲滅はできていないけど、そこそこ脅威は去ったと思う。けど、アイスベルク方面の大型魔獣が気になるかなあ。時間がなくてそこまで索敵に行けなかったのが心残りで」

「それは、お前さんの仕事じゃないし、逆にやっちゃいけない部分でもあるよ」

 モイセスに注意された。シウもそのことが頭を過ぎって行かなかった。視覚転移しなかったのも、見れば行くだろうことが分かっているからだ。

「この国のことは、できるだけこの国の人間がやるべきだ。もしシウが手伝うのなら、それは正当な報酬をもらうと契約してからだぞ」

「分かった」

 ルフィノに言われて素直に頷いたら、頭を撫でられた。

 シウがリュカを可愛いと思うように、彼等にとったらシウはまだまだ子供で、こうして頭を撫でられる存在なのだ。そう思うと妙に気恥ずかしかった。

「それにしても、腰の重い国だ。ギルド長も胃の痛いことだろう」

「大体、これは国家レベルの案件だ。一ギルドに投げっぱなしなど、おかしい」

「俺たちも常に情報を仕入れておかないとな。いざとなれば、若様を連れて逃げなければならない」

「ああ。もう一度、逃げる際の模擬訓練を行うべきだな」

「僕も手伝うからね」

「ああ、期待してる。正直、シウの防御能力には目を見張るものがあるし、頼みにしてるんだ。前に貰った防御用ピンチだったか? あれも役立っているしな」

「え、襲われたりしたの?」

 驚いて声を上げたが、ルフィノが慌てて手を振った。

「違う違う、訓練の時に外すのを忘れて使ったんだ。そうしたら、まったく怪我を負わなくてな」

「なんだ、びっくりしたー」

 ははは、と皆が笑った。

「新しく作った魔道具も、使い方を詳しく書いて詰所に置いといてくれるだろう? 護衛たちで訓練にも使うんだが便利で助かってる。若様にも防御用の指輪などを持ってもらっているが、何重にも気を付けておくに越したことはないからな」

「そうだね」

「シウのおかげで、ブラード家はかなり楽させてもらってるよ」

「そうなの?」

 首を傾げたら、ダンが小突いてきた。

「何言ってんだよ。どこの屋敷に、冷蔵魔道具や風呂用魔道具が幾つも設置してあるんだ。防御用や防火壁の魔道具とか、有り得ないぐらい優遇されてる。まあ、トイレの快適さはカスパルのおかげだけどなー」

 屋敷中のトイレをカスパルが改造したので、使い勝手は良い。

 考えたら贅沢な屋敷なのだ。

 あちこちに魔道具をふんだんに使っている。

 そのほとんどが節約されているので、見た目ほど魔核や魔石を使っていないのだが、傍目には豪勢に見えるだろう。

「食生活も豊かになったし、皆、喜んでるよ」

「だったらいいんだけど。僕、結構自由気儘にやってるから」

「あー、な? そのへんは確かに自由人だよな、シウ」

 護衛たちがまた笑った。

「でもまあ、自由にやれてるのはカスパルがあれだからだよな。俺も、本当ならもっと敬わなきゃいけないわけだけど」

「敬っていないの?」

「心の中では、一応」

「一応なんだ」

 そこで同時に噴き出した。

「ま、カスパルだから、俺も従者やれてるんだよなあ」

「変人だけどね」

「……変人だな、うん」

 護衛たちは聞こえないフリをして、シウとダンは小声でカスパルのことを話し始めた。

 やれ、変人があれをしたこれをしたと。

 すると。

「君たち。僕だって、耳はあるんだ。聞こえているんだよ?」

 いつもは集中して本を読んでいるくせに、こうした時だけ聞こえているそうな。

 シウとダンは慌てて遊戯室を出て行ったのだった。




 翌日、リュカは自分の足で歩いて、シウを見送ってくれた。

 まだまだ体は細く、栄養失調なのに変わりはないが元気になってきたのがわかるほど顔色も良くなった。

 手を振って出かけ、数分で学校に到着した。

 生産の教室では早出をしている生徒も相変わらずいて、皆思い思いにやっている。

 シウも早速作業を始めた。

 先日、適当に木を切って飛行板を作ったが、魔道具にすればどうだろうと考えたのだ。

 まずは練習用として、風属性持ちを対象にした簡易版を作ろうと思った。

 木よりも安定して使えるので、金属で作ることにする。

 シウのように魔法袋持ちがいるわけでもないので、軽くて持ち運びしやすいように、軽金属を使った。

 また、当たっても怪我をしないよう、角には丸みを付けた。

 スケボーというよりはスノーボードのような形にして、進行方向側に足止めを作る。輪っかになった帯も用意した。靴ごと足を差し込む形だ。邪魔だと思う人は取り外して、足止めだけを頼りに飛ぶ。

 何度か試作を繰り返しているうちに、次々と生徒たちが教室へやってきた。

 アマリアもやってきて話しかけてきたので、少しだけ会話をしたが、彼女はシウの手元を見て作業中だと知ると、すぐに切り上げてくれた。

 そうした心配りができる人だった。

 お互いに夢中になれば作業にのめり込むタイプでもあるからだろう。

 出来上がったら教えてと言われたので、頷いてからまた作業に戻った。

 浮き上がるまでをこの飛行板にさせるので、考えていた魔術式を書きこんで魔核に付与して、取り付けた。

 その頃には授業が始まっていたのだが、教師のレグロは一切怒ることなく自由にさせてくれる。

「先生、試しに使用したいんですが、中庭の方に行って来て良いですか?」

「おう、いいぞ。あ、待て、俺も行く」

 ついてくるので、それを待って中庭に出た。少し離れたところから木々が増え、手前の校舎との間にある少しばかりの空間で、試運転をすることにした。

 地面に作ったばかりの飛行板を置き、足止め付近に取り付けた帯へ足先を入れ、ある程度固定されたら、もう片方の足も板に乗せた。

 足止めの先にオンオフのスイッチを付けたので、オンにする。

 すると、ふわっと浮き上がった。この瞬間に一番魔力が消費される。これを回避するには風属性で動かせばいい。

「おおっ」

 面白そうな顔をして目を輝かせるレグロの前で、シウは更に飛行板を上昇させ、推進力となる風属性魔法を掛けた。

 練習なのでそう早くはできないが、飛べた。

 ふらふらと、若干安定しないものの、これは慣れの問題だろうと思った。

 それと、鈍行だからだ。

 もっとスピードを上げたら、安定して飛べるはずだと踏んだ。

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