290 群れの討伐
お昼ご飯を食べに屋敷へ戻り、リュカと少し遊んでから、また冒険者ギルドへ向かった。
今が大変な時だとリュカも分かっているようで、今度は自分から「がんばってね」と手を振ってきた。
スサやロランドたちにも軽く話してあったので、皆心配そうにしながらも見送ってくれた。
冒険者ギルドでまた荷物を受け取ると、フェレスに乗って飛ぶ。
その際にもまた人が増えていて、今度は名前を呼んで見送ってくれた。
「フェレ坊、頑張れよー!」
「可愛いなあ、フェレスちゃん」
「シウも気を付けろよ」
野太い声での応援だった。フェレスはやっぱりツンとおすまし顔になっていた。尻尾が盛大に振られていたので台無しだったけれど。
宿営地に到着すると、リエトたちが戻っていた。
ちょうどいいのでギルド長との話や、宮廷魔術師の気配は感じられなかったことなどを伝えた。もちろん、大型魔獣についてもだ。
リエトは渋い顔をして、天を仰いだ。
「ニクスルプスの群れを確認してきたが、あれを討伐するにはもっと人出がいる。ましてや岩猪たちの小規模な群れもいて、人を割けない。宮廷魔術師を当てにしていたから、困ったな」
「……リエトさんたちでも、難しいんですか?」
「奴等、賢いからな。的確に死角を狙ってくるんだ。あいつ等を仕留めるには、一網打尽でないと無理がある。それには人海戦術が一番なんだがなあ」
腕を組んで思案顔になった。
シウも少し考えて、口を開いた。
「たとえば、分散してしまえたら? 個別撃破ならどうでしょうか」
「十匹ぐらいの群れなら対処できるが……何か考えがあるのか?」
シウの顔色を見て、真剣な表情になった。
「……あります。えっと、ですね」
その場に、魔法袋から魔道具の数々を取り出した。
「今のところ僕しかできないです。空から、この《使い捨て爆弾》を使用します。足止め用なので威力はないですが、分散できます」
「これは?」
「超粘性ゲルです。かぶると身動き取れません。えーと、スライムに閉じ込められた虫を見たことあります?」
「あ、ああ、あれが……まさか?」
「そうです。ねちゃっとしてまとわりついて相当つらいです。一応、人間がかかった時のために解除液もありますが」
「……なんつうものを作ったんだ」
「あと《四隅結界》です。これもゲルでできてるので上空から落とせば楽に設置できます」
段々と皆の目の色が変わってきた。
「《防火壁》もあるので、火で攻撃される方に渡しておきます。これだと思う存分燃やせます」
「すごいな!」
「あと、一人ぐらいなら乗せられるので、リーダーを倒す時に上空から炎撃とか雷撃を使えば」
「そうか、それで散り散りになったところを、狩れるな」
「僕には塊射機という武器もあるので、五十匹ぐらいなら受け持てます」
「は?」
「岩猪など、周辺のも狩れます。順番としては百匹から始めて次へ、それから周辺の魔獣で大丈夫ですか?」
リエトやジャンニがまじまじとシウを見た。
「凄まじいな……」
畏怖するような口調だったので、肩を竦めた。
「騎獣がいるから戦闘力が高いんです。逆に言えば、騎獣もなしで戦えるリエトさんたちの方がすごいし、冒険者が騎獣を持てないこの国がおかしいんです」
「……そりゃまあ、改めて言われると、そうかもしれんが」
「ずっとこれできてるからなあ」
「騎獣を囲い込んでるくせに、それを使いもしないでまだ来てくれない宮廷魔術師とか! ありえないですよ」
「お、おう……」
「お前、怒ってたのか。全然顔色変わらないから、気付かなかったぞ」
まあまあと肩を叩かれた。
「なので、ここにいる人たちで魔獣を倒して、その報酬をせいぜい吹っかけてやりましょう!」
「おっ、それはいいな」
「冒険者らしい考えだ。ははは」
笑ったことで、皆の肩から力が抜けた。もちろん、怒っていたシウもだ。
全員で打ち合わせをして、それぞれに魔道具と懐炉を持って持ち場に向かった。
シウは頭上から分散する係で、かつ、連絡係でもあった。
通信魔法を使えると言ったらそうしたこともできると組み込まれたのだ。補助のつもりだったが、きっちり討伐隊に入れられてしまった。
まず、百匹の群れに向かったが、ゲルで足止めされたニクスルプスたちは三級や四級の冒険者には相手にもならなかった。
次々と止めを刺していくので、気持ち良いほどだ。剣があれほど切れるものだとは思わなかった。
ヒエムスグランデルプスの首を落とすのに手間をかけたことを思うと、嘘みたいだ。
リーダーを上から倒すという案も、必要なかった。結界で充分取り囲めたからだ。
結界を外した瞬間にドメニカという女性が氷撃魔法で撃ち抜いた時には、皆がワーッと歓声を上げた。
それから、意外と早く片付けられたこともあり、また二五〇匹の群れがこちらへ向かっていたので、一気に殲滅することになった。
数は多いが、足止めできるので流れ作業で仕留めることができた。
途中、ジャンニを乗せてリーダーを倒したが、それさえも全く問題なく終えることができた。間近で見た雷撃魔法はそれこそ凄まじく、彼等がシウを持ち上げてくれたのは完全にお世辞だったと思えるほどだった。
「騎獣の上から攻撃できるのが、これほど楽だとは思わなかったよ。フェレスも、重いのにありがとうな」
そう言って優しくフェレスを撫でていた。
さすがに殲滅はできないまま日が暮れてしまったので、一旦引き上げることにした。
「掃討戦は明日からでもいいだろう。暗い中動くのは危険だし、寒さもある」
「と言っても、この懐炉のおかげで、全然違ったけどな」
「すごいわよ。あたし、腰痛が楽になったもの」
「腰痛って、おい」
皆、疲れた顔をしていたものの、笑顔だった。
「一日でこんなに首を落としたのは初めてだぜ。腕が痛いよ」
「はは! そりゃそうだ。俺は肉屋にいたから慣れてるけどな」
「お前はそもそも斧使いだろうが。腕に覚えがあるんだろ」
「うるせー」
守備班が晩ご飯を作って皆に振る舞っていたが、シウは断った。
「だが――」
「このままちょっと岩猪を狩ってきます。今回は王宮に報酬をもらうために殺したまま置いておきます。アンデッド化しないと思うけど、いいですよね?」
「ああ、この土地だと大丈夫だろう。だが、今から行くのか? 明日でも」
「明日から学校なんです。ちょこっと狩ったら、そのまま戻ります。一応心配かけちゃ悪いので終わる時に通信で連絡しますね」
屋敷ではリュカも待っているし、今日中には帰りたいと思って話もそこそこにフェレスへ飛び乗った。
「おい!」
「明日からの掃討戦お任せします! 頑張ってくださいねー」
手を振って、飛んで行った。
夕闇迫る暗い森で、後々のことを考えて魔獣は塊射機で仕留めて行った。
圧縮したり魔核だけ取るという方法は、解体された時にバレる可能性もあるので、一番早くマシな倒し方として塊射機を選んだ。
一時間ほどである程度間引けたので、そのまま王都に向かった。
通信は途中で入れた。
リエトたちに通信魔法の持ち主はいなかったし魔道具も持っていなかったので返事はこなかったが、感覚転移していたので届いたのは分かった。
そのまま、途中ちょっとだけ転移してズルをしつつ、王都に辿り着いた。
冒険者ギルドに顔を出して、アドラルを探したがまだ王宮から戻っていないということだった。
そのため、ルランドに状況を説明して、ぜひとも王宮から報酬を分捕ってほしいと頼んだ。
魔獣をほぼ討伐し終えたと聞いて驚いていたルランドだが、シウたちの企みには喜んで了承してくれた。
せいぜい吹っかけてやろうぜ、とノリノリだ。
ただ、バラバラになって逃げだした魔獣もまだいるので、掃討戦には時間がかかるだろうことも伝えた。
雪崩を起こした街道の整備にもまだ手を付けられないから、先は長いなと溜息を吐くのも忘れなかった。
屋敷に戻ると、リュカが寝ないで待っていてくれた。
スサたちもだ。
お疲れ様と言ってくれ、リュカは走って抱き着いてきた。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん」
何度も首を横に振るが、リュカが泣いていたのは分かった。父親のことを思い出して怖かったのだろう。シウまで死んでしまったらどうしようと不安だったのかもしれない。
可哀想なことをしたなと何度も頭を撫でてあげた。
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