274 魔獣狩りと薬草師の護衛




 それからも助っ人に入ったり、こっそり魔獣を狩ったりして二つ目の森も綺麗にした。

 怪我をした人たちのために、荷車も作った。部品などは魔法袋に入れてあるので、その場で木を切り倒して荷台だけ用意し、組み立ててしまう。

 サスペンションを入れているので馬車と同程度には楽だと思う。

 そこに貧血状態の女性や、魔力が切れかかっている者などを乗せて、ポーションで体力を取り戻した男性たちが交替で曳いて行った。

「軽いなあ、人を三人乗せているとは思えないぞ」

「ああ。荷物も載せられて助かるよ」

 お昼ご飯も食べずに駆け回っていたので、シウはフェレスに乗ったままパンを食べていた。フェレスは途中で魔獣の内臓をつまみ食いしていたので文句は言わない。

「それに、このパンも美味しいし」

 皆に浄化をかけてあげて、ついでに仕舞いこんでいたサンドイッチをあげた。

「アイテムボックス、便利だなあ」

 羨ましそうに言われた。

「荷車を入れておけるのは良いよな」

「でも、荷台部分なんかは現地調達だろ? 俺たちには難しいよ」

「魔法使いにもいろいろあるからなあ」

「うちの後衛は攻撃に特化してるし」

 などとぼやいている。

「でも一番は、騎獣だよな」

「シウだったか? お前さん、この国の人間じゃないんだろ?」

「はい」

「やっぱりな。庶民で騎獣は持てないもんなあ」

「馬でも良いんだが、魔獣に襲われる危険性もあるから心配だし、何より冬は役に立たないからなあ」

「難しいぜ」

 冒険者たちの愚痴を聞きながら、この国のどこか歪んだ在り方に考えさせられた。


 歩いて帰ったため、夕方遅くにギルドへ到着した。

 荷車はギルドへ貸すことにした。解体できるので便利だろうと思ってだ。

 計算をしてもらってる間、ルランドからはお礼を言われた。

「命が危ないところだった。冒険者を守ってくれてありがとう。しかも、ポーションまで提供してくれたとか。怪我人にも的確な対応をしてもらったようで、治癒師も感謝していたよ」

「いいえ」

「また、彼等からもお礼はあると思うけど、ギルドからも上乗せしておくから」

「お互い様だから、いいですよ」

「まあま、そういう形にしておくのが大事なんだよ」

 金額はそのまま口座に入れておいてもらった。

 しかし、お金を使う機会がなくて、全然減らない。せいぜい市場で大量買いするぐらいだが、それも魔獣狩りで得た魔核を売り捌けば、お釣りがくる。

 ブラード家ではただで下宿させてもらっているし、学校でも学費は先払いしているので他にかからない。

 溜まる一方だった。




 翌日は商人ギルドに呼ばれていたので顔を出した。

 シェイラから前回提出した魔道具についての使い勝手を聞き、おおむね問題なさそうなので特許申請に回したと報告を受けた。

 ついでなので使い捨て爆弾の魔道具について、新たに提出した。泥タイプ、粘土タイプ、超粘性ゲルタイプと三種類作った。爆弾と銘打っているが、主に動きを止めるためのものだ。魔獣や人相手に使う。超粘性ゲルについては溶かすための解除液もセットで作っている。

 危なくないのに、足止めができる、というのはシウの研究成果でもあった。

 一般市民には良いのではないだろうか。

 シェイラも変わった道具に喜んでいた。

「一応、魔獣狩りのついでに使ってみましたが、良かったです。動きを止められるので、その後の血抜きがしやすくて。肉が美味しくなるんですよね」

「ああ、殺してからだと上手くできないという話よね」

「そうです。三目熊までは試してみました」

「……すごいわね」

「間違って人に当たっても、死なないと思いますし。あー、ピンポイントで口に入ったら窒息しますけど」

「それを言いだしたら、どんな魔道具でも使い方次第で死ぬわよ。それこそ、どんな転び方をしても死ぬ時は死ぬもの」

「そうですね」

「安全対策をきっちりしたい気持ちは分かるけれど。あなたは若いのに、そうしたところは本当にしっかりしてるわね。世の発明家に聞かせてあげたいわ」

「あはは」

 彼女とは要点のみ話をして、別れた。相変わらず忙しそうだった。

 秘書の顔が危険だったので、こっそりいちごミルク味の柔らかい飴をあげた。可愛らしいピンクの小さな小瓶に詰めたものだ。ブラード家のメイドには好評だったので、女性へのお土産にはいいかと思って渡した。

「お疲れ様です。これ、甘いものです。良かったらどうぞ」

 シェイラには、皆さんでどうぞと、前日作っていたパイを渡していたので依怙贔屓にならないだろう。

 秘書はぽかんとしていたが、可愛い瓶を見てホッとしたような顔をしていた。


 この日は市場で買いだめをしたり、ルシエラ王都を探検したりと充実した一日だった。

 屋台がなく、外食ができないのが残念だ。

 レストランはあるのだが、そちらは裕福な人か貴族しか入れないようだった。

 行きつけの市場近くの食堂でそんな話をしていると、おすすめの居酒屋を教えてもらった。

 夜しか開いてないが、酒を飲まずとも入れる店ばかりだ。

「昼は諦めて、うちの店に来な」

 と、店主は笑っていた。

 実際、昼に入れる食堂は市場近くにしかなく、美味しいのは彼の店ぐらいだった。

 紹介された居酒屋の中には、冒険者御用達の宿屋がやっているところもあった。

 呑兵衛もいるそうだが、宿が併設のところはそうガラも悪くないそうだ。

 今度、試しに行ってみることにした。



 三連休の最終日はまた冒険者ギルドに顔を出した。

 森は今のところ安心ということだったが、そのため薬草師が森へ直接採取に行きたいと言い出したらしく、護衛仕事が入っていた。

 シウでも受けられるそうなので、依頼書をもらって待ち合わせ場所に向かった。

 王都の正門前で薬草師ら数人が立っており、依頼書を見せるととても驚かれた。

 ギルドでも断られやしないかと不安だったらしく、推薦状を用意してくれていたので彼等に渡して見てもらった。おかげで、半信半疑ながらも交替とは言われずに済んだ。

 彼等は、シウが先日ギルドに貸していた荷車を馬に曳かせていた。

 馬車の方が良いのではないかと思ったが、荷馬車よりもサスペンションが良いとのことで、選んだそうだ。

 道中、何を採取したいのか聞いたら、ユキノシタなどを含め多くの薬草を口にしていた。それならまとめて採取できる三つ目の森がいいと教えると、少し怯んでいた。

「大丈夫です。一昨日、まとめて狩ったので。もし新しいのが来ても、すぐに狩りますから」

「そ、そうなのか?」

「はい。結界魔法も使えますから、大丈夫ですよ」

 にっこり笑うと、ようやく納得してくれた。

「……そうだよな、ギルドが嘘を言って、新人を寄越したりしないか」

「すまない。失礼な態度を取って」

「いえ。僕の見た目が若いのも、仕方のないことだし」

「君、もしかしてシーカーの生徒?」

「そうです」

「ああ、それでか。シーカーの生徒は優秀だと言うものね。でもよくこんな程度の仕事を受けてくれたね」

「仕事に、軽重はないですよ」

「……君、良い子だねえ」

 その後は緊張しつつも和気藹々として進んだ。

 話してみると、皆、やる気に満ちた人たちで、冒険者たちのためにも薬草を集めたいという気持ちで採取に来たそうだ。

 これだけ忙しいと、薬草採取の依頼を出しても難しく、それなら自分たちで採取に行った方がまだ早いだろうと言う結論になったらしい。

「誰かがポーションを大量に放出してくれたそうなんだが、それでもまだ足りないようだからね」

「でもあの放出があったから、この間の緊急要請に間に合ったんだよ。誰か知らないが、僕たちも随分助かった」

「寝てなかったからね」

 あ、それ、僕です。

 心の中で返事をして、笑った。


 森にはほとんど魔獣はいなかった。

 薬草も、シウが場所を覚えていたのでさくさくと進み、薬草師たちは想像以上にたくさん採取できたようだった。

 珍しい薬草も教えてあげると、嬉しそうに顔を綻ばせて取っていた。

「シウ君、詳しいね」

「山奥育ちで、爺様に叩きこまれましたから」

「そうか。シーカーでは薬草のことも習ってる?」

「飛び級したので習ってないんです」

「……えっ?」

「半分は本からの受け売りなんで、現場の薬草師さんには敵いませんけど」

「……いやあ、そうかあ。あ、持ち上げなくてもいいよ?」

「そうそう。第一こんな貴重な薬草をさっさと見付けられるんだ。僕らよりレベルは上だろうって思ってたよ」

 とはいえ、地元特有の薬草だってある。そうした知識を、彼等はシウにも教えてくれた。それならばとシウも、レンコンの話をした。

 興味を持ったようなので、お昼ご飯のおかずにレンコン料理を出してみたら喜ばれた。

 ついでに沼にも案内する。採取はシウが行った。泥の中は危険なので。

 それぞれに現物を渡して、ぜひ効能も確かめてほしいと伝えた。

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