273 ギルドにケーキ、森へ魔獣狩り




 戦術戦士科の濃い授業が終わった後は、学校を探検して時間を潰し、昼ご飯を食堂でディーノたちと取った後は大図書館で過ごした。

 記録庫に本は写してあるものの、実際に手に取って読むのも好きなので、大好きな空間で光を浴びつつ読んでいく。もちろん、少しずつ地下への探知を行うのも忘れていない。

 小さな穴からすり抜けていくのはわくわくドキドキして楽しいものがあった。


 図書館には教師もよく出入りしており、複写魔法を持つ者などはささっと写して戻って行ったりしていた。

 生徒は真面目にこつこつと紙に書いている。

 シウは、顔見知りになった生徒で、属性が合うような人には自動書記の複数属性魔法を教えてあげたりした。

 ロワルの魔法学校と違ってシーカーには多数属性の持ち手が多く、知らないのは損だと思ってのことだ。

 そうすると、相手もいろいろ親切にしてくれて、学校のことなど、授業では得られないような情報も教えてくれた。

 たとえば、学校内のどこがお昼寝に相応しいか、本を読むのに最適な場所、入ると便利な部活に、近付いては行けないグループなどなど。

 特に貴族専用サロンには絶対行かないよう釘を刺されたりした。もちろん、行くつもりはない。

 この国のことについても教えてくれ、仲良くなると親切な人が多かった。

 最初は冷たい印象のあった人たちも、ただ生真面目なだけだということが分かった。

 図書館友達もでき、職員とも気楽な挨拶ができるほどにシウは馴染んでいた。




 翌日は朝から干し柿を使ったパイケーキと、リンゴのパイケーキを作った。

 しっとりタイプにして、外側はサクサクのパイ生地だ。

 お裾分けに賄い室に置いて、食べる時は温めて熱々で、と注意書きを残して屋敷を出た。

 冒険者ギルドに入ると、まだ閑散とした様子で、雪崩対策が終わっていないことを教えてくれた。

 受付の人たちも疲れた顔をしている。

「お疲れ様です」

「あ、シウ君。もしかしてポーションを持ってきてくれたのかしら?」

 顔馴染みとなったカナリアが嬉しそうに声を上げた。

「はい。頼まれていた分より多めに持ってきてます」

「すぐに買取の、タウロスがいるはずだから呼んでくるわ」

 立ち上がったが、彼女の隣で暇そうにしていたユリアナが、行ってきますと走って行った。仕事がないので、そうしたことでもやりたかったのだろう。

「あ、そうだ。これ、お裾分けです。温めて、熱々にして食べると美味しい、はずです」

「……!! もしかして、手作り? ケーキ? きゃあ!!」

 箱を取り出してみせたら、思いの外喜ばれた。

 騒がしかったので、他の職員もやってきて、覗きこんでいる。

「うわー、良い匂いがする」

「美味しそうっ!」

 やっぱり、相当疲れているに違いない。甘いお菓子を見て、男性までもが喜んでいる。渡したポーションも自分たちではなく、冒険者に渡しているのだろう。

 そこにタウロスとルランド、クラルがやってきた。

「シウ! 来てくれたんだ」

「うん。魔法の勉強、進んでる?」

「少しずつね。今は忙しいのもあって、実践できないんだ。本はちゃんと読んでるけど」

「大変だもんね、今」

 クラルと話していたら、タウロスがポーションの買取値段を計算して、書類を出してくれた。

「……あれ? 高いですよ」

「いや、いいんだ。あの後、冒険者たちに使ってもらったら、効能が高くてな。等級が違うって話になったんだよ」

「え、でも」

「調合が上手いと、普通よりも効き目が良くなるようだ。お前さん、生産持ちだったか?」

「はい」

「それでか。いや、他にも薬草の質が良いとか、条件はあるんだろうがな。とにかく、これは正規の値段だ。ちゃんと受け取ってくれ」

「……はい」

 そこにルランドが声を掛けてきた。

「お裾分けまで持ってきてくれたんだな。ありがとう。職員も忙しくて疲れていたから皆、喜んでいるよ」

「そうだろうと思って、甘いものにしました」

 ありがとうと、肩をポンポンと叩かれた。それから、ふと首を傾げてシウを見た。

「学校はどうした? 今日はまだ学校じゃないのか」

「あ、飛び級になったんで土の日は完全に空いちゃったんです。それで、様子を見に来ました。もし早めに魔獣狩りが必要ならと思って」

「おー。助かるなあ。シーカーの生徒には積極的に参加してほしくて声を掛けているんだが、来てくれるのは第一から第三の魔法学校の生徒なんだよな」

「そうなんですか?」

「シーカーは優秀すぎてさ、やることがいっぱいあるんだろう。あと貴族の出が多いのもあってな。どうしても貴族ってのは、生活がかかってないから選り好みするんだよな」

「それはまた……」

 二人して苦笑し合った。

 とにかく、手の空いている冒険者で、近隣の森を見て回っているそうだ。

 上級ランクの冒険者がシアーナ街道の雪崩現場に出向いているせいで、下位の冒険者は数が必要となる。受け持つ区間も広くてまだまだ大変なようだった。

 しかも、もうひとつある遠回りのシアン国への街道の、護衛仕事も入ってきているから冒険者の数が足らないらしい。

 隣接する領のギルドにも応援をかけているが、この時期はどこも冒険者が欲しいのでなかなか難しいとのことだった。

「国には、宮廷魔術師を出すよう、あちこちから要請が出てるんだけどな」

「まだ了承されないんですね」

「困ったもんだ。とにかく、来てくれて助かるよ。シウは森ひとつを一人で片付けてくれるんで、他の冒険者の負担も減ってるんだ。ありがとうよ」

「いえ。じゃあ、今日も行ってきますね。前回と同じ場所でいいのかな?」

「ああ。途中、もし余裕があったら、二つ目の森も見てもらえると助かる。今、人出が少ないんだ」

「はい。もし取り残しがあっても、明日も休みなので出てきますから」

「……だが、いくらなんでもお前さんはまだ子供で、学生だ。無理はするなよ? 緊急要請の対象でもないし、義務でもないんだから」

「はい」

 にっこり笑って頷いた。


 出るのが少し遅くなったものの、シウは前回同様フェレスに乗って森へ向かった。

 三つ目の森へ到着するとすぐさまフェレスと狩りを始め、始末した。

 前回に掃討しただけあって、数は多くなかった。また小さな魔獣が多かった。

 あっという間に終わったので、ルランドの言葉通り、二つ目の森に向かった。

 全方位探索で見ると、幾つかのパーティーがバラバラに動いていた。統率が取れていないようだった。

 それに、魔獣を上手く囲い込めていないようだ。漏れがあって、そこから後ろを叩かれそうになっている。

 シウは急いでフェレスに乗って、応援に向かった。

 典型的な配置の、近接、盾、攻撃、後衛二人というパーティーがいて、その後衛がやられそうになっていた。

「助太刀します!」

 声を掛けて上から急襲した。

 怪我をして動けない後衛には結界を張り、そこに襲いかかってきた三目熊を氷刃でスッパリと首を切って落とした。

 すぐさま横から突進してきた岩猪を旋棍警棒で打って昏倒させる。もう一匹はフェレスが喉元に噛み付いて一撃必殺していた。

「大丈夫ですか?」

 地面に降り立って駆け寄ると、後衛の女性が蹲っていた。結構ひどい怪我を負っている。前方では近接と攻撃担当が岩猪を追い詰めていたが膠着状態だった。盾の男は倒れている。

「離れてください!」

 声を掛けてから、塊射機を撃った。魔核の場所を狙い撃ちしたのであっさりと倒せた。

 驚く二人に、盾の男の様子を見るよう指示する。その間に、後衛の女性の脈をとるフリをして鑑定を掛けた。

 やはり重傷だ。

 急いで中級薬を取り出して、飲ませた。上級薬の方が本来は良いのだが、ちょっとばかり効き目が良すぎるので目立ちそうだから止めた。

 実際、中級薬でも充分、怪我は治った。

「あ……動ける……?」

「でも、薬で誤魔化して治しただけなので、無理に動いてはダメです。少なくとも一週間は安静にしないと」

「そんな」

「大量の血を失ったんですよ? それだけの量の血を、元に戻すのにどれぐらいかかるか。特にあなたは女性なんだから、将来のことを考えて体を大切にしないと」

 説教すると、ようやく理解したようだった。出血量が多いことも自覚はあるようで、ゆっくり起き上がっていたが、くらっと貧血を起こしていた。

 念のため、造血効果のある薬も渡した。一度に飲んではいけないと口酸っぱく注意して、その場を離れた。

「盾の人は、どうですか」

「動けないが、命に別状はないと思う」

「見ますね?」

 鑑定していたがこちらは足を怪我して、後頭部を強打し気を失っているだけだった。

 足は骨折していないようなので、湿布を巻いて、更に木の枝で固定した。

 後頭部はたんこぶで済んでいるが、念のため医者にかかるよう伝え、目を覚ましたらポーションを飲むようにと言って渡した。

 パーティーのリーダーらしき攻撃の男がお礼を言ってきたが、他のグループが気になるので、すぐにフェレスに乗ってその場を離れた。

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