272 杖なしは多数派、無詠唱は少数派
レイナルドが、先ほどの試合について解説し始めた。
早すぎて見逃した生徒もいたようで、懇切丁寧に話すからシウは恥ずかしかった。
あれは解説するような試合ではない。
「剣を習ってきた者からすれば、泥臭い戦い方だと思うだろう。だが、俺たちが戦士として戦う相手は何も剣を扱う礼儀正しい剣士ばかりではない。むしろ、その反対だ。ほとんどが魔獣であったり、人間ならばごろつき、盗賊どもだ。魔獣の動きは分かり辛く、想定外を行く。盗賊達は我流で武器を使う。我流だが、そのことにのみ特化しているので意外と強い者も多い。つまり、お前たちの習ってきた由緒正しい流派の剣は、ある意味邪魔となるんだ。分かるな?」
「はい!」
「これまで、魔法を使った武器との融合で、技を磨いてきた。だが、これからはもっと複雑になっていく。ちょうどよく、シウという面白い人材も入ったことだ。組んで戦うにはとても勉強になるから頑張ろう」
「えっ」
また的になるのか、と思って声が飛び出てしまった。
レイナルドは、わははと笑ってシウの肩を叩いた。
「頼むぞ!」
「えー。じゃあ、僕は何を勉強すればいいんですか」
「そりゃあ、由緒正しい剣を使う奴等との、戦い方だよ。面白いぞ」
「……はあ」
「それに、いろいろな武器を持つ人間や、魔法戦士との戦いにも慣れておくべきだ」
人相手に戦いたくはないのだが、確かに言わんとすることは分かる。
いざという時に、シウが負けてしまったらどうなるのか。
ふと、残されてしまうフェレスのことを考え、可哀想になった。きっと悲しむだろう。
やはり生きなければならない。
その為にも、不安な要素は取り除く。
「分かりました」
「よし。では、皆の武器などを紹介していこう」
生徒を紹介するのではなく、武器を紹介ときた。
さすがは戦術戦士科の教師だ。やっぱりこの人は脳筋だな、と心の中で決定した。
生徒たちはもう少しまともだった。
ちゃんと自己紹介してくれて、ついでに得意な武器も紹介してくれた。
クラスリーダーはラニエロ=バルバートという青年で、剣持ちだ。サリオ=ボネッティは弓、ウベルト=バルビエリは重戦士タイプで全身鎧と長槍に剣を持っている。当然がたいは大きくしっかりしており、とてもまだ二十歳の青年とは思えない体格だった。シウが前に立つと大人と小人である。
他に、ヴェネリオ=アルファノは商人の子で、武器らしきものは持っていなかった。何を持つか悩んでいると言っていたが、一応短剣を背に隠し持っているそうだ。彼の場合は無手でもなんとかなる戦い方ができるので逆に悩んでしまうのだろう。影身魔法と隠密魔法がそれぞれレベル二あって、忍者そのものだ。
女性もいた。クラリーサ=ヴァーデンフェという十八歳で、領伯の第五子だそうだ。剣を持っているが、スキルは精神魔法レベル三だった。彼女の私設騎士で、同じく授業を受けているのがダリラ=バルベリーニ、こちらも女性で二十歳。同じ騎士で男性のルイジ=アゴストがいた。二人とも剣を使う。
彼女には更に護衛がいて、こちらは後方で見守っているが男性が短槍を、女性従者二人は鞭などを手にしていた。もしかしたら授業に参加しているのかもしれなかった。
生徒が少ないのでそうしたこともあるのだろう。
ただ、エドガールの私設騎士や護衛たちは後方できちんと待機していたけれど。
レイナルドの説明通り、剣を持つ者が多かった。
レイナルド自身は大盾を持ち、武器は手にしていないそうだ。魔法の方が早いということだった。
実際、彼も無詠唱派だ。素早く魔法を起動させることができた。
もちろん、杖なしでもある。
シーカーには杖なしが多く、シウのスタイルも目立たないで良い。さすがに無詠唱まで行くと珍しいようだが、それでも有り難いことである。
レイナルドは、上級生たちには復習させ、課題を出してからシウとエドガールにこれまでの授業内容をザッと教えてくれた。
分からなければ補講にも付き合うと言って、説明していく。
意外とというと失礼だが、分かり易い授業内容だった。
次回から上級生と合流して授業をするので、今までの魔法と融合した技というのを聞いた。
たとえば剣に沿わせて水撃を打つ、といったことだ。
盾持ちだと、耐える力を増幅させるために魔法を掛ける。
重戦士タイプのウベルトなどは土属性持ちなので、盾に土属性魔法を添わせて地面と合体させ、耐えるという手法を取るそうだ。
弓には風属性など、個人それぞれに合った方法を先生と一緒になって考え、身につけて行く。
なかなか良い授業だった。
シウの場合は確立してしまっているのと、表向き無難な基礎属性全部持ちということなので、まあいいんじゃないのと流されてしまった。
生産魔法というスキルからは、特性のある武器を思いつかなかったようだ。
この学校でもステータスを誤魔化しているので、どうでもいいが、さっさと見切りを付けられたのは少々悲しいことではあった。
エドガールは水撃魔法のレベル四なので、剣に沿わせてみてはどうかと教えられていた。個別に攻撃するのではなく、杖代わりにしてしまえ、ということだ。
コントロールはすでにできているようなので、複合させるだけだからさほど難しくなくできていた。
「それにしても、旋棍を使うのか。そりゃあ武器じゃないんだがなあ」
「でもオーガまでならこれで倒せますよ」
「そうなんだよなー。よっぽど命中率が高いか、戦術も上手いんだろうな」
レイナルドはガリガリと頭を掻いて、旋棍警棒を矯めつ眇めつしていた。
「軽いし、使いやすそうだ。ただ、これは魔獣対策というよりは人間相手に考えられたんだろうな」
「そうですね。なるべくなら、人は殺したくないので。あ、魔獣対策に、もうひとつ武器は持ってます」
「おっ、そうか。見せてみろ」
そう言われて、フェレスに声を掛けた。
「フェレスー、僕の鞄持ってきてー」
「にゃっ!」
ぐでーっと寝ていたくせに飛び上がって、シウの背負い袋を優しく噛んで持ってきた。文字通り飛び跳ねて。
「にゃ」
ぽとっと落として、シウの顔を見て尻尾をふりふりしている。
「ありがとう。偉いねー」
「にゃ!」
まだ仕事ある? と期待の眼差しで見られてしまった。
「……じゃあ、的、やる?」
「にゃにゃ!」
やるー! と嬉しそうだったので、レイナルドにも了解を取って的係をやってもらうことにした。
危ないので、フェレスには騎乗帯を付けてそこに風船を伸ばして取り付けた。壊れてもまた膨らんでくるタイプのものを使う。以前、的用に作っていたものなので鞄から取り出してさっさと組み立てた。
そして塊射機を取り出す。
レイナルドが、おや、という顔をして神妙に見つめている中、さっと中身を確認して用意した。
「フェレス、頑張って逃げてね。あ、あっちはダメだよ。上級生たちが勉強しているところだから。こっち半分で移動してね」
「にゃーん」
わかったー、と返事をして素早く動いた。
「用意、始め!!」
「にゃっ!」
上下左右、勝手気儘に逃げ回るフェレスに合わせて、塊射機を撃っていく。的の風船が膨らんでは割れるの繰り返しを、五十回、時間にして三分ほどで終了した。
「そ、それは、もしや」
「塊射機です。今回は魔獣相手じゃなかったので威力も弱かったですが、魔獣だと確実に殺せます。えーと、ハイオークとか、鬼竜馬とかなら一発です」
「すごい」
エドガールが興奮したように見つめ、レイナルドは目を見開いていた。
「それが、例の武器か」
「あ、ご存知ですか」
「当然だろ。新しい武器については、好事家なら決して見逃したりはせん」
上級生たちは威力が大したことはないと知って興味を失ったらしく、最初は見ていたものの自分たちの課題に戻っていた。
この中で真に威力を理解しているのはレイナルドだけだ。
「使用者権限付きなんだろう?」
「はい。シュタイバーンでも魔獣対策などにしか使わせないようにしてますし、使用者権限は僕か、もう一人にしか付けられないようにしてます」
「……そうか、噂の開発者ってのは、やっぱりお前か」
苦笑すると、レイナルドも笑った。
「だったら、お前さんが例の功労者でもあるわけか。すごい奴だな」
「レイナルド先生?」
意味が分からないエドガールは話を聞きたそうにしていたが、レイナルドに頭を撫でられてやんわり話を終わらせられていた。
「俺も一度、見に行ってみたんだ」
「え、現地までですか?」
「そうだ。現代のサタフェスになったかもしれない跡地を見てみたかった。俺たちラトリシアの人間はな、二度目を起こさせたくないんだ。悲願なんだよ。何百年経ってもいまだに忘れられない。だから、勉強し続けてる。あの跡地を見て、俺はゾッとしたよ。今あれが来て、本当に守れるだろうかってな。……だからお前さんが来てくれて、俺は嬉しい。俺の知っていることは全部教えるから、お前もぜひ、俺を、いや俺たちを鍛えてくれ。頼む」
真面目な顔をして頭を下げられ、困惑しつつも、はいと頷いた。
意味は分からないまでもエドガールには何かが伝わったようだ。彼も神妙な顔をして話を聞いていた。
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