266 魔獣狩りと冬の食べ物




 風の日、シウは冒険者ギルドから頼まれていたので魔獣狩りに出かけた。

 場所は王都から三つ目となる森だ。近いところはランクの下の冒険者に任せたいと言われ、すでに実力があると認められているシウは遠い場所をお願いされた。

 冒険者ギルドの職員らも連日出払っているので疲れが溜まっているようだった。

 ポーションを大量に持っているので売ろうかと聞いてみたら、即答で欲しいと言われて納品もした。

 ポーションも品薄になってきているようだったので、魔獣狩りのついでに採取して、平日の間に作っておきましょうかと言うと泣いて喜ばれた。

 本当は空間庫に在庫があるのだが、あまり大量に渡すのもいろいろばれそうなので自重したのだ。

 他の人たちはチームを作って行くそうだが、シウは騎獣持ちで、かつ個人での行動に慣れているので一人での討伐を許可された。

 王都の内門からなら騎獣に乗っていいそうなので、早速フェレスに乗って向かった。

 上空から見ると、畑も半分は雪に埋もれており、外周壁まで人の姿はほとんど見かけなかった。農作業するとしてももっと温度の上がる昼ごろになるのだろう。そうした景色を眺めながら王都外へと向かった。


 全方位探索で手前の森から確認しつつ、三つ目の森に到着した。

 他の人が来る前に数を減らしておこうと、順番に倒し始める。フェレスに競争しようと持ちかけたら、喜んで飛び回っていた。

 フェレスは前回の失敗を挽回すべく考えて狩っているようだった。

 この森では岩猪が多く、ルプスと岩熊が次点で多かった。残りは飛兎などの小さめ魔獣だ。冬だろうと関係なく動きが活発なのが魔獣の特性らしくて、狩る側からすれば大変だ。

「にゃ、にゃにゃっ」

 狩った後、フェレスがせっせと回収用の穴に持って来る。

 岩猪以外はまとめて処分しようと思って、あらかじめ穴を掘っていたのだ。

 シウは岩猪をメインに狩る。討伐部位は適当なところで取るのを止めた。一々面倒だし、あまり多いとまた何か言われそうなので誤魔化すつもりだった。

 魔法を使って狩るので、昏倒させて血抜きをし、殺して解体するという手順が一瞬で済む。どうかすると目の前にいなくともできてしまうので気を付けないといけない。

 岩猪のつもりでいて、違っていたら怖いからだ。

 全方位探索で間違えたことはまだないが、間違った時が恐ろしいからちゃんと目で見て確認してから全自動解体は行うことにしている。

 そんな面倒なやり方でも、一日で森の魔獣はほぼ狩り尽くした。

 いずれ元に戻るかもしれないが、これでかなりマシになるはずだ。

 ただ、空間庫にまた大量の岩猪が増えてしまった。在庫が増えすぎて困るがそう簡単に大量に市場に回せないので困る。

 フェレスが狩ったもので死んでいなかったものは解体して空間庫に保存した。

 魔核を取ってから、残りは全部焼いてしまう。

 フェレスは一頭で、フェーレースとしては上々の狩りをした。岩熊が八匹、飛兎とルプスが各数十匹だった。

 さすがに疲れたようで帰路はへろへろになって飛んでいた。

 ポーションを飲ませようか悩んだものの、騎獣の回復力を信じて我慢した。


 冒険者ギルドではフェレスも狩ったことを申告した。

 討伐部位は面倒だったので切り取っていないことも併せて伝えた。

 数は言わなかったが、ルランドには事情が分かっているようだった。

 二つ目の森を担当した冒険者が夕方確認に来ていたので、彼等から聞いたのだろう。

 報酬はギルド口座に入れてもらって帰宅した。




 翌日は解体した岩猪などの部位ごとへの選別や、料理の作り置きなどを一日かけて行った。コンソメスープの素など、あると便利なものを一気に作る。

 ルシエラの市場で手に入れた大豆もあるので、大豆料理や調味料なども作ってみた。ロワルで手に入れたものともまた違った味がして楽しかった。

 ところで昨日の魔獣狩りでは泥の沼を発見し、そこにハスの痕跡があったため、泥の下からレンコンを採取していた。これも使いやすいように処理してまた空間庫へ保管する。

 レンコンは前世で好きな食べ物のひとつだったから、嬉しい。

 早速、レンコンを擂って餅団子を作る。これを味噌汁に入れて飲むのが好きだった。

 歯が丈夫な今となっては煮物も良いだろうし、挽き肉などを使ったはさみ揚げというのも作ってみたい。酢漬けや、きんぴらも良いなあと、考えるだけで楽しかった。

 醤油も屋敷内では普及していたので、こうした煮物やきんぴらも受け入れられるかもしれない。またこっそり、お裾分けを置いておこうとにんまり笑った。

 どうせならと、思いついた冬の定番、茶わん蒸しも作った。ユリ根はイオタ山脈で見付けたものが在庫にあるし、鶏肉や戻した干し椎茸、三つ葉などを入れてみよう。

 残念ながら銀杏はない。あれこそ定番中の定番なのだが、まだ採取したことがないのだ。あるのは知っているし、うろ覚えながらも下処理の方法は覚えているのだが、いかんせん、臭いのだ。

 爺様は絶対にそんなもの食べないと言い張っていたし、亡くなってからは思い出してしまうので脳裏から追いやっていた。去年の秋になって、そういえばもう食べても良いのだと気付いて取りに行ったら、今度はフェレスに思い切り嫌な顔をされた。

 猫型騎獣の顔の顰め方は強烈で、逆に面白すぎて困ってしまった。

 おかげで、まあ銀杏ひとつぐらい食べられなくても良いか、と思ったほどだ。

 ただ、銀杏には薬としての効能もあるので、取り扱う治癒師も多い。薬草学でも習うものだから割とポピュラーな素材だ。今度はそうした取扱い店で手に入れてみよう。

 残念なことに銀杏の木がこのあたりでは見かけないので、売っていないだろうが。


 レンコンも効能が高いので、薬として扱えるのだが、薬草学の本には載っていなかった。牛蒡と同じぐらい、この世界ではまだ食べたりしないもののようだ。

 大量に摂ってきたので、レンコンの喉飴も作った。

 摩り下ろしてできた水分も風邪の予防薬や、風邪自体にも効くので、密封して保管した。ビタミンCが壊れないよう、完全に空気を抜いて飲むポーションとして青いガラス瓶に保存し、薬箱に入れておく。

 多種多様なものを揃え、万が一合わないことがあっても違うもので補えるようにした。


 美容にも良いという話をしたせいか、メイドたちはレンコンの料理を喜んで食べてくれた。料理人たちも歯応えが良いと、物珍しそうに全部平らげていた。

 天ぷらはここでも大人気で、護衛たちもレンコンのはさみ揚げ天ぷらは喜んでいた。しかし、餅団子にした味噌汁は評価が分かれた。そもそも、味噌汁が合わないということで、独特の風味に慣れないようだ。

 納豆なんか出したら絶対に引かれるだろう。

 まだ糠床など作っていないが、あれの匂いも強烈なのでフェレスから抗議されるかもしれない。納豆までは許されているので、どのあたりが際どいラインか今度探ってみたいところだった。



 翌日、朝から授業などなかったが、いつも通りに一時限目に間に合う時間で登校した。

 レンコンが嬉しかったのでお弁当まで作ってきた。

 おにぎりに煮物という定番メニューだ。肉は岩猪を消化するべく、生姜焼きにしてみた。もちろん、大量の岩猪は屋敷の冷蔵庫にも保管している。熟成場所も作っているので、後日焼き肉パーティーをするつもりだ。

 実は、市場近くの行きつけの店に持っていったら、もう足りてるぞ、と苦笑されてしまったのだ。当然、市場にも下ろしたが、まだまだ余っているので地道に消費する努力をしている。

 朝一番でロッカーを確認するとアラリコからのメッセージが入っていた。

 講義取得の件で話があるので、朝一番なら空いているから来てほしいとのことだった。

 彼の執務室へ向かうと、秘書が出迎えてくれ、紅茶が出てきた。大学の教授室のような雰囲気だ。

「ああ、もう来ていたのか。待たせたかな」

「いいえ」

「うむ。では、結果だが。あ、試験を受けたものはすべて飛び級だ。それは、もう聞いているね?」

「はい」

「で、空いた時間が多すぎるのでどうしようかということだったが、特例として専門科目だけでなく研究科目からも取得して良いということになった」

「あ、そうですか」

「ただし、そんなことは認められん、という教師もいて、選べるのはこの中からだが」

 紙をテーブルに乗せ、指差して説明された。

「戦略指揮と戦術戦士がぜひ来てほしいということだが」

「あ、お断りします」

「……即答だね。だが、君はロワル魔法学院では戦略を学んでいたのでは? 兵站もやっていたと聞くが」

「他になくて、先生に頼まれたので取得しただけで」

「なんとまあ」

「戦士になるつもりもないので、良いです」

「戦術ならば、魔法使いとして後方に立つ場合、役立つと思うがね。特に君は冒険者でもあるのだろう?」

「うーん、それなら魔獣魔物生態研究科の方がためになります」

「……人相手にしないということかね」

「それもそうですし、あと、過去の戦術論に関する本を読んでいたら、大抵のことは理解できるといいますか」

「膨大な量の本があるがね」

 確かに。

 そして、その中には意味不明で無駄な内容の本もある。

「ロワルでは禁書庫扱いの本が、この学校では普通に棚に並んでましたね」

「……もう入り浸っているのか」

「速読できるので、結構読みました」

「ふむ」

 顎に手をやり、考える仕草だ。

 それから小さく溜息を吐いて、ではこれはどうだ、と紙を指差す。

 魔道具開発科だった。

「君、商人ギルドに大量の特許を出しているとか。ロワルでは魔道具開発の天才だと言われていたそうだが」

「えっ、そんな恥ずかしいこと言われてません!」

 やめてくれ、と慌てて手を振った。

「幾つか作っただけで、元々あるものをこねくりまわしただけのものです。本物の天才は何もないところから初めて作る人のことを言うんです!」

 顔から火が出そうだ。わーっとなって、何度も首を横に振った。

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