243 西下地区のチープな出店
広場のあちこちの屋台を制覇する勢いで、それぞれに分かれて買って来ては持ち寄って食べていると、アリスたちが到着した。少ししてアキエラとその友達も来て、大勢になったので幾つかのグループに分かれる。
リグドールはアリスの方に行きたいだろうと、シウは後押しした。
反対に、たまには男性陣と共にいたいだろうとクリストフを連れてくる。
ヴィヴィにはリグドールの補佐を頼んでおく。
彼女は任せて、と胸を叩いて請け負ってくれた。
シウたちは、お腹もいっぱいになったので、魔道具や武器などを売っているエリアへ足を運ぶことにした。
途中、学校の生徒とも顔を合わせることが多く、特に飛び級をしているシウは高学年との挨拶が増えた。
「顔が広いよね、シウは」
「この間の人工地下迷宮騒ぎで、一気に知り合いが増えたんだ」
「ああ、あれね」
クリストフが苦笑した。
「あれ、面白かったなあ。作るのも楽しかったけど、完成した後、案内してくれたでしょ? 作っておいて、度肝を抜かれたなんて、笑い話だったよ」
「そうなの?」
「予想してなかった部分とか、たくさんあったんだもんなあ。ヴィクトルたちはどうだった?」
「俺だって驚いたさ。アレストロ様は楽しんでいましたけど」
「だって楽しかったもの。ね、スタンたちも行ってみたいでしょう?」
「はい。ぜひ一度、お邪魔したいものです」
そんなことを言っているうちに、西下地区に着いた。
このへんに、掘り出し物があるらしい。
レオンが案内してくれたのだが、レオンとて前年までは一人立ち資金を稼ぐために誕生祭の時も働いていたそうだから、出店の詳しい情報までは知らない。
教えてくれたのはグラディウスたちだそうだ。キアヒなど面白がって裏情報をレオンに教え込んだとか。
「俺も道は分かるんだが、店のことは知らないからな?」
前置きしつつ、通りを抜けていく。工房の多い場所や、ところどころにある公園には屋台が並んでいる。中央地区のように整然と区別されて並んではいないが、これはこれで味があった。
チープな食べ物も多く売っており、子供たちが半銅貨を握って買いに来る。
駄菓子のようなものだ。
どこか夜店を想わせて懐かしい。
金魚売りのようなものがあったり、射的ならぬ、ゴムパチンコもあった。
見てみると、ゴムはシウの特許を利用した製品のようだった。Y字の金属に引っ掛けて丸い金属の弾を飛ばすようになっている。ほぼ、形は前世で見たものと同じだ。
感心していると、店の爺さんが若様方やるかい? と声を掛けてきた。普通の服を着ていたが質の良いものだったせいで、庶民だとは思わなかったようだが、そこは商売人だ。
「やります!!」
シウは早速銅貨を払って、パチンコを受け取った。
段々に並んでいる品々は駄菓子のようなものから、野菜、果物、玩具と多岐に渡っている。
銅貨一枚で弾は五個。小さな子には高いが、シウぐらいの年齢だと安いぐらいだ。よく考えられている。
「フェレスは欲しいのある?」
「にゃ!」
果物が良いそうだ。シウは狙いを定めて果物を狙った。
最初は外れた。Y字の金属が歪んでいるせいで、上手くいかない。
二度目も外れた。ゴムがよれているのも良くない。これも狙いのうちかしら、と思いつつ、三度目の正直で当てた。
「やった!!」
「にゃにゃ!!」
フェレスも一緒になって飛び跳ねる。店の爺さんが驚いてシウとフェレスを何度も見て、それから笑った。
「そんなに喜んでもらえると、わしも嬉しいよ」
その後、四度目に駄菓子を当てた。五度目は失敗した。
「面白かったー!」
「そうかいそうかい」
シウが楽しそうにしているのが周囲にも伝わったようで、他の子供たちも集まってきた。
アレストロがやりたそうにしていたが、本来は小さい子用の遊びなのでその場を後にする。
もちろん、当てた果物と駄菓子はもらってきている。
フェレスが喜んで食べていた。
「シウ、ああいうの、楽しいのか?」
レオンが面白そうな顔をして言うので、シウは満面の笑みで答えた。
「うん。やったことないんだもん。それに、僕の考えたゴムを使ってくれてたし。Y字金属使うのも良いよね。すごいアイディアだ。あと、わざと歪ませてたり、よれているゴムを使うなんて、高度な技だよねー」
「……あれ、わざと歪ませてるわけじゃないと思うぞ?」
「えっ?」
「たぶん、そのへんの工房から失敗作をもらってきたんだと思う。ゴムも使い古したのを拾ったか、もらったか」
「そうなの!?」
「うん……。養護施設の子たちはそういうのに詳しいんだ。上のきょうだいたちから教わるんでな」
「じゃ、当てさせる気がないってこと?」
クリストフが質問すると、レオンは訳知り顔で返した。
「いや、全部外れたら可哀想だから、ある程度は譲歩してくれるみたいだけどな。それを一回分で二つも当てるもんだから、爺さんも驚いたんだろう」
「へえー」
その間、シウは恥ずかしくて落ち込んでいたのだった。
武器は、少々治安の悪いところにあったが、護衛がついているせいか絡まれることはなかった。
面白いものも多く、その発想の自由さにシウたちは驚いた。
庶民の考える武器というのは、生活に根差していて面白い。
市街戦での防衛を考えたものも多くあり、アレストロなどは真剣な顔をしていた。
「泥棒、強盗、荒くれ者、他国の侵略、魔獣など、庶民の方がよほど真面目に考えているのだな」
「そうですね」
ヴィクトルも相槌を打っていたが、目は明後日の方向を向いていたので、たぶんあまり分かっていないのだろう。
「これ、露台から落とす武器だって。よじ登られた時用? でも、鉢植え落としてもいいよね?」
「シウ、そういうことは店前で言うもんじゃない」
「あっ」
などというやりとりもありつつ、楽しく過ごした。
夕方には早い時間、また中央地区の広場で皆と合流した。
リグドールが妙に疲れていたのが不思議だったけれど、その理由を聞く前に、まずは夕飯を取ろうということで店を探すことになった。
屋台と違って普段やっている店は、この時期閉めているところも多く、探すのが大変なのだ。
手分けして良さそうな店を探し、なんとか人数分確保する。
初めて入る店だったが、ステルラの近くにあり通りがかったことがあった。
皆で順に入っていくと、シウとリグドールを見て、店の奥にいた男性が出てきた。
「もしかしてルオニール様の坊ちゃんと、ステルラのシウ殿では?」
「あ、はい。そうです。父のことを?」
「ええ、もちろん。以前お世話になっており、こうして店を開いてからもなにくれとなく気にかけてもらっております。どうぞ、よろしくお願いします」
「あ、いえ。こちらこそ、大勢で子供ばかりお邪魔してすみません」
リグドールが頭を下げると、オーナーも同じように下げている。
「失礼しました。ご友人とのお食事ですね。どうぞ、お席までご案内します」
オーナーが慌ててシウとリグドールを連れて行ってくれた。先に案内されていた皆の待つテーブルへ辿り着くと、オーナーは簡単に自分のことを説明し、挨拶してから席を離れて行った。
出てきた食事は庶民に手が届く高級レストラン風で、味もよく、ルオニールが世話をしたというのも頷けるものだった。
最後にサービスだと言ってデザートまで付けてくれた。
皆喜んでおり、リグドールが代表してお礼を言ったのだが、その顔はしっかりして大人びていた。
合流した時の疲れた顔はどこにもなかったので、シウとしてもホッとした。
三々五々に帰る途中、シウはリグドールから疲れていた理由を聞いた。
それは、アリスに話しかけようとしたらダニエルから何度も邪魔をされる、というものだった。
最初は偶然かと思っていたが、段々と故意であることが分かってきたそうだ。
それで今度は話しかけずにいたのだが、不審に思ったのか、あるいは優しいアリスのことだから、会話に交ざってこないリグドールを気にして話しかけてきた。
何度かそんな風に会話をしていたのだが、ふと、一人になる瞬間があった。
その時、いつの間にかダニエルに後ろを取られて、
「娘と仲良くしたければ、強くなりなさい」
と囁かれたとか。
「……俺もうびっくりして。後ろに立たれたことも気付かなかったし、そんなこと言われるとも思ってなかったし。心臓が縮み上がったよ」
シウは苦笑してそれを聞いた。
大人げないダニエルの行動に、笑うしかなかったのだ。
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