195 魔道具と武器屋廻り




 パーセヴァルクが案内してくれた魔道具の店は、個性的な商品が山のように積まれた古い店で、出店ではなかった。

 他にもお勧めの出店はあるが、まずはここだと連れてきてくれたのがこの店舗だ。

「古い店構えで品も山と積んであるがな、面白いものが多い。お前さんみたいな奴には気に入るんじゃないか」

「うん、面白そう。見てくる!」

 フェレスは店の通路に入るだけで品が落ちてきそうで、不満そうだったが外で待っていてもらった。パーセヴァルクが紹介だけすると、すぐに店を出ていってフェレスの遊び相手になったので機嫌はすぐに治っていたけれど。

「なあ、シウ、これなんだろう」

「うーん、あ、魔力を溜めておけるんだ」

 指輪型の魔道具で、ワゴンセールのようにごちゃまぜの箱の中に入っていた。ひとつでデリタ銀貨六枚。高いのか安いのか判断がつかない。

「魔力を溜めるのか。どれぐらいだろう」

「ええとねえ……魔力量が五、だね」

 魔術式を読みとって教えると、二人してガクッときた。

「要らねえ」

「だよね。レオンは魔力量多いし」

「そうなんだよな。あ、でも、シウには良いんじゃないのか?」

「溜めるのに専用魔道具が必要なんだよ」

「……要らねえ」

「だよね」

 友達とああでもないこうでもないと見て回るのは楽しかった。

 ラエティティアは気儘に見て回っているし、店主も口を出してこない。不思議な空間だった。


 中には変わったものもあった。パーセヴァルクがシウにと紹介したのも頷けるような、魔道具が置いてある。

「ねえ、これって、呪術返しの魔道具よ」

「シウ、猫を呼ぶ魔道具もある」

「あら、通信魔法から逃れる魔道具もあるわ」

「こっちは犬を呼ぶ笛だって」

 それぞれが見付けてはシウに持って来る。

「みんな、自分のを見てね?」

 と言うと、そう? と不思議そうな顔をして散り散りになり、そしてまた変なものを見付けては見せに来ていた。

「盗聴妨害魔道具ですって。デリタ金貨で三十枚ですってよ」

「ティアさん、こっちは金貨五十四枚。なんと、盗聴妨害を妨害する魔道具」

「やだあ!」

「シウ、この店、盗聴関係が多いぞ」

「……うん。分かった。だから、それ、戻してきてね」

 二人とも意外に楽しんでいるようで、良かった。

 シウはこの店の魔道具の、発想力に驚いていた。隙間産業というのか、思いついたものをことごとく魔道具にするあたりが面白い。生活に根ざしたものも多くて、話が合いそうだ。

「店主さん、この迷子首輪って、犬用?」

「ああ、そうだよ。飼い主から一定距離離れると、居場所が分かるように音が出るんだ。ま、その前に覚え込ませないといけないから面倒なんだがね」

「あはは」

「ここには、新人が作ったものもたくさん置いているからね。変わったのが多いだろう?」

「はい。面白いです」

「ま、じっくり見ていってくれや」

 はーい、と返事をしてまた店内をうろついた。

 そうこうしているうちにレオンとラエティティアが掘り出し物を発見したと興奮して集まってきた。

 レオンは、ガラス製の燈器具でごく小さな魔力だけで点灯が楽にできるものだった。養護施設のお土産にするそうだ。お値段はデリタ銀貨で九枚。なかなかのお値打ち品だ。

 ラエティティアは指輪型魔道具で、体力増強用。魔核の容量から逆算して二十回ぐらいは使える代物のようだ。彼女らしいチョイスだと思う。

 シウは結局何も買わずに店を出たが、いろいろなものが見られて良かった。


 次にパーセヴァルクの勧めてくれた出店を冷やかす。

 どこの店も偽物は置いていなかった。周辺のものを鑑定するとあちこちで偽物が出ていたので、パーセヴァルクの目利きが良いことも分かった。

 ここでも多量に買い物をしたのはラエティティアで、女性の購買力というのは侮れないと感じた。

 レオンは時折、どうしてそんなものをというものに手を出そうとするので、ちょっと危なっかしくて困った。

「妖精が閉じ込められていて、声が聞こえるらしいんだけど」

「ダメだよ。それ、詐欺だから」

 というようなやり取りが何度かあった。目を離すとパーセヴァルクの勧めてくれた店とは違う店からの勧誘につられてふらふら歩いていくし、彼の新たな一面はシウを少しばかり不安にさせた。

「剣が上手くなる籠手らしいんだが」

「レオン、それ魔術式が書かれてない。ていうか、魔核もない。粗悪品とか以前の問題だよ」

「そうなのか……」

 といったことを何度も繰り返した。

 レオンはもしかすると、贋作の骨董品を掴まされるタイプの人ではないだろうか。

 心配になったが、最終的にはパーセヴァルクに説教されていたので良しとした。

 遺跡探検の大先輩冒険者に叱られたので、レオンは魔道具を見るのを止めた。

 その横で、ラエティティアは大人買いをしていた。



 お昼頃にパーセヴァルクと別れ、シウたちは闘技場前の広場に集まった。

 そこで待っていると一人二人と現れる。

「グラディウスはどうだったの?」

「勝ち抜いた。午後はなしだから、付いて行こうと思う」

「そっか。おめでとう」

 褒めると、頬を染めて照れ臭そうに頭を掻いていた。

 それから皆でぞろぞろと歩いて、イエナの店に行く。

「あら、いらっしゃい! また来てくれたんだ」

「はい。あ、それと、赤いも、おかげさまで仕入れられました。ありがとうございます」

「いいえー。そんなに喜んでもらえると、あたしも嬉しいわ」

 キアヒたちは小さな食堂でも特に気にすることなく、壁のメニューを眺めて注文していた。グラディウスは三人前頼んでいる。

 食事の間は闘技大会の話になり、順調に勝ち進んでいることや、他の出場者の話題で尽きなかった。

「風の日から本戦か。じゃあ明日は闘技場に詰めて、事前調査しておかないとな」

 レオンが腕を組んで言う。それに対してリグドールが得意げに返した。

「俺のお勧めポイントとか教えてやるよ。な、デジレ。俺たち良いところ見付けたんだもんな」

「うん。迫力あるよね」

「俺も迷ったんだけどな。闘技大会の予選も勉強になるだろうし」

「そうだよ、レオンは剣を使うだろ。絶対予選も見ると思ってたのに」

「ギルドの様子が知りたかったんだ。それに今日は魔道具めぐりをするというし」

「いいのあった?」

「いや、それがな」

 と、今日の出来事を報告している。パーセヴァルクに怒られたことまできっちり話していて面白かった。

 デジレは聞き役に徹していることが多く、少年組の中では一番年上なので、しっかりしていた。


 食事を終えると皆でぞろぞろと武器の出店があるエリアまで歩いていく。

 武器の出店自体は闘技場の周辺に多く集まっている。

 闘技大会を見て、血沸き肉躍るというのか、興奮した勢いで買う人も多いようだ。

 ようするにカモになっていた。

 アグリコラの情報によると、ちゃんとした武器や掘り出し物が見てみたいならやはり少し裏通りへ入った方が良いようだ。そうした店主は、闘技場近くの大通りには面倒臭がって場所取りをしないらしい。

「あまり良い剣はないな!」

「兄貴、声が大きいです」

 いつの間にやら弟分になったらしいリグドールがグラディウスを注意していた。

「リグドールはこうした武器は使わないのか?」

「あ、俺はこれがあるんで」

 と言って腰帯に挟んだ塊射機を叩く。常に取り出せるよう身に着けているのは良いことだ。シウは空間庫に保管していて、腰帯には旋棍警棒しか武器らしきものは携帯していない。

「シウが作った武器だと言っていたな」

「うん、そうだね」

「それじゃあ、剣を使うのはレオンだけか」

「はい」

「一緒に見て回るか?」

「はい!」

 紅潮した頬を隠しもせずに、レオンはグラディウスに付いて行った。リグドールといい、グラディウスは少年に人気だ。

「あそこ、仲良いね」

「精神年齢が合うんじゃないか?」

「またそんな。相変わらずグラディウスの扱いがひどいなあ」

「あら、シウの方がひどいわよ。それって、どっちの意味に受け取るかで変わってくるもの」

「あ、これがキアヒの魔法か」

「ばーか、精神魔法なんて使ってねえよ」

 そう言って、シウの頭をぐしゃぐしゃにした。横でフェレスが、にゃっ、と鳴いて牽制するので独占欲はまだ続いているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る