183 旅行のお誘いと家の管理




 夏休みの予定を聞こうと、翌日アドリッド家に行ってみた。

 すると、闘技大会の話をしたら、リグドールは舞い上がって喜んでしまった。

「一応、キリク様が何もかも面倒は見てくださるって言ってくれてるけど、ルオニールさんに了承をもらってね」

「うん!! シウ、大好き!!」

 きゃっほう! と飛び上がっていたら、何事かとロッドが覗きに来て、事情を聞くと呆れたような、それでいてやはり嬉しそうな顔をしていた。

 商人の家では忙しいと休暇に連れ出してあげることもできないらしく、子供だけというのは問題があるから、いつもは近くのシルラル湖の別荘地で数日過ごして終わりとなるらしい。

 ロッドはたぶん大丈夫だろうと言って、リグドールを更に喜ばせていた。

 今後のやりとりはオスカリウス家と直接しても構わないと聞いていたので、その旨を伝えて、シウはアドリッド家を後にした。


 その他、仲良しの友人達を訪ね歩いたが、アントニーはすでに母親達と共に避暑地へ出かけており、帰りは3週間後ということだった。

 アレストロはとても残念がっていたけれど、こちらも避暑地に行くことが決まっており、そこで課題をやると言って断ってきた。ヴィクトルも右に同じくだ。

 アリス達にも一応聞いてみたが、やはり避暑地組で無理のようだった。

 意外と避暑地へ行くものなんだなと暑い中を歩き回って、それもそうかと納得した。


 さらに翌日、風の日に西中地区まで赴いて、レオンとヴィヴィに聞いてみた。

 ヴィヴィは行きたそうな素振りだったが、父親があの騒ぎ以来心配性になったらしく、可哀想だから今回は止めておくわと返された。

 こうなるとレオンにも断られるかなと思っていたが、意外にも、すんなり行くと返ってきた。

「あ、そうなんだ」

「なんだ、その返事は。来たら困るのか」

「ううん。ここまでリグ以外、全員に断られていたからちょっと」

「なんだ、そんなことか」

 ふん、と鼻息荒く返事をされてしまった。

「独り立ちの資金を稼ごうと思っていたが、闘技大会なんて実のあるものなら行っておくべきだと思う。それにようやく見習いから本会員に上がれそうなんだ」

「え、すごい」

「あちらで、ギルドの仕事を見てみるのも面白そうだろ? 滞在費用は辺境伯が見てくれるなら、余分な金もかからないし」

「……しっかりしてるね」

「当たり前だ」

 キリクのことだから、言えばお小遣いまでくれそうな気がする。

 まあ、貴族が誘った相手に不自由させるなんてことはないだろう。

 とにかくも、これでようやく2人の仲間をゲットすることができた。


 この話に一番乗り気だったのはエミナだったが、案の定スタン爺さんから小言を貰っていた。

 店の仕事もまだ完璧に覚えていないのに、店を休んでまで行くのかと。

 更にドミトルの仕事も立て込んでいて一緒に休めないのに、妻だけふらふらと遊びまわるのはいかがなものかと説教されていた。

 店のことは、エミナがやると言い出して跡を継がせることになったので、雇われ気分でいたらダメだと教えたかったようだ。もう少し本人に自覚があって、ドミトルも休みが取れるのであったら許していたと、後でスタン爺さんが教えてくれた。


 次にアグリコラへも話を持って行った。

 すると、工房の皆と一緒に行くことが決まっているそうで、馬車を借りて来週にはもう出発するとか。シウにもその挨拶に行こうと思っていたと、驚かれた。

「馬車だと1週間かかるんだねえ」

「そうだす。それでもリーノケロースを使うので早い方だすが」

「じゃあ、向こうで会おうね。通信、入れても良い?」

「もちろんだす。わしも面白いものを見付けたら、教えるだ」

 工房の世界でも、この闘技大会は面白いらしい。

 あらゆる武器を持った武人達が出てくるので、当然武器屋は来るし、出店にも有名な工房の者達が集まってくるそうだ。

 そう聞くと楽しそうではある。

 武器には興味はないが、アグリコラが行くなら自分もちょっと見て回ろうと、シウは心に決めた。




 というわけで、デルフ国へ行くまで7日以上もあるので、その間に溜まっているやりたいことを片付けていくことにした。

 まずは、爺様の家に戻る。

 春先にメープルシロップを収穫したカエデの木々の様子を確認したり、若木の点検、森の中の下草を刈ったりなどで時間を過ごした。

 フェレスは、森の中で遊んでおいでと言ったら弾丸のように飛び出していき、縦横無尽に遊びまわっている。時折魔獣を見付けては倒し、一箇所に集めているのだが、どうする気だろうか。

 家は常に見回っているせいか綺麗なものだ。補修する場所もなく、風通しをよくして軽く掃除をするだけで良かった。

 畑の草抜きをしたり、井戸の掃除も済ませてしまうとやることがなくなってしまった。

 特に最近は魔法が使えるのであっという間だ。

 小さい頃はどれもこれも大変だった。

 大変だったけれど、楽しかった気もする。あの頃は健康であることがとにかく嬉しくて、体を動かして限界まで試した。爺様も元気なシウをいつも笑って見ていたものだ。

「さて、と。あとは夏に収穫できる木の実や、薬草の採取だけかな。間引いた木も全部処理して空間庫に入れたし、新たに見つけた地下鉱脈も結界を張ったし」

 魔獣の異常発生などは見当たらないが、念のためあちこちに結界を張ってみた。異常があったらシウに連絡が入る仕組みとなっている。


 一通りの用事は終わったので、シウはフェレスの場所を確認して、転移してみた。かなり奥まで来ているようで、手入れの行き届かない鬱蒼とした山中へと到着する。

「にゃ!」

 きたのー! と喜んで飛びついてきた。

「わ、こら」

 大きな体躯となっても、気持ちはまだ子供のように無邪気で、こうしてじゃれつかれる。結局覆い被されて、その場に倒れ込んだ。下草があるから良いものの、岩場だったらどうするんだと苦笑する。

「ところで、フェレス、さっきから魔獣を集めて何してるの?」

「にゃ。にゃにゃにゃー、にゃにゃ」

「宝物? ダメだよ、腐っちゃうだろ。ちゃんと処分しないと」

「にゃー」

 せめて魔核を取って地面に埋めるなどしてくれないと困る。アンデッドになりやすい土地ではないので大丈夫だろうが、死骸は処分するのが基本だ。

「燃やすよ?」

 魔核を転移で取り出すと、そう聞いた。

 フェレスは、首を傾げつつ、いいよと鳴いた。

 空間壁で囲んでから高温の火で一気に焼きつくし、灰となったものを地面に埋めた。

「魔核はどうするの? 使う?」

「にゃ?」

 わかんない、だそうだ。

「宝物入れ作ってあげようか? そこに、フェレスの好きなものを入れたら良いよ」

「にゃ!!」

 尻尾がピーンと立った。どうやら嬉しい提案らしい。

 よく考えたらこれまでフェレスには個人的なものを用意してあげなかった。つい自分の所有物のようにしていたけれど、フェレスだってやりたいことやしたいこと、欲しいものもあるだろう。

「何か希望があったら言うんだよ? フェレスは自由でいいんだからね」

「みゃ。みゃみゃみゃ」

 可愛い声になった。てれてれと前足で顔を洗うように何度も拭いて、ぐねぐねと体を揺らす。言葉にすると「えへ、えへへへへ」といった感じだろうか。

「どうしたの?」

 と聞くと、フェレスは何度も頭をシウの胸に擦り付けた。

「にゃにゃにゃー」

 シウがすきー、だそうだ。

「にゃにゃにゃ? にゃにゃにゃ」

「うーん、それは困るかなあ」

 宝物入れに、シウを入れてもいいか? といったようなことを伝えてきたので、可愛いなあと思いつつも断った。

 しかし。フェレスはちょっと、いや、もしかしてかなり、おバカなのではないだろうか。

 いやいや。そうだとしても可愛いから、良いか。

「じゃ、爺様の家に戻って、フェレス用の入れ物作るね。そこに、こういうの、入れておこうか」

 と、先程取り出した魔核などを見せる。もう興味はなさそうだが、戦利品には違いない。時折、光る石や、動物の牙などを咥えて持って帰ることもあるのでそれらを入れておくのにもちょうど良い。

 シウは、フェレスと共に転移して家に戻った。


 宝物入れは首輪に引っ掛けられるよう、スカーフ型の鞄にした。

 前掛けのように、少々だらんとした印象もあるが、概ね可愛くできたと思う。

 自らの前足で袋を開けられるように、袋の口はずらして段差を作った。爪で軽く引っ掛けたら中が開けられる仕組みだ。そのため、入り口部分は爪でも破れないよう竜の革などを使って補強した。使用者権限はフェレスとシウのみにしている。

「はい、これ入れるからね。出してみて」

「にゃ?」

「さっきここに入れた魔核を、出すの。さっきの魔核のこと考えて、ぽいって目の前に取り出すことを考えよう」

「にゃ」

 何度かやりとりしていて、ようやく出てきた時は嬉しくなった。

「玩具も入れておけるよ。遊びたい時に使えるから、練習しようね」

「にゃ、にゃー」

 おもちゃ! やるー、と元気よく返事をして、早速朝のうちに持ってきていた木の枝を出し入れしようとしていた。

 本人の自由だから構わないのだが、木の枝が宝物なのかあと、思わず笑ってしまったシウだ。

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