136 飛竜の上から攻撃を
上空で、通信による簡単な自己紹介をしてもらう。護衛としてリリアナとマカレナという女性竜騎士が、シウと行動を共にすることになった。
それぞれの竜の上に乗って、時にフェレスを利用して移動を繰り返す。
小物の殲滅は他の騎士たちが担うこととなった。
この場のリーダーはキリクだ。王命を受けているらしく、王所属の竜騎士団もこの決定に反対するものはなかった。
ただ、半信半疑だっただけのようだ。
竜化という話も、そしてそれを狙える腕があるということも。
シウがリリアナの竜の上に飛び降りると、彼女は笑顔で出迎えてくれた。
「よろしくね。さっきも挨拶したけど、リリアナよ。フェレス君もよろしくね」
「にゃ!」
フェレスを休ませる目的もあったので、シウは彼から降りている。フェレスは興味深そうに飛竜の上を飛んだり跳ねたり、嗅いだりして遊んでいた。やっぱり状況を分かっていないような気がしたが、飛竜もリリアナも怒ったりはしなかった。
「まだ成獣になりたて?」
「はい。すみません。昨日から魔獣と対峙し続けていて、興奮してるのかも」
「そうよね。最初の戦いって、誰でも興奮するから。じゃ、連絡が入るまではあたしが見張りをしているから、体を休ませてて。マカレナと交代でやるから、気にしないでいいわよ」
「ありがとうございます。遠慮せずに、休ませてもらいますね」
「まあ! ……聞いていたけれど、本当に礼儀正しい子ねえ。お姉さん嬉しいわ」
ふふ、と笑って、彼女は飛竜の頭部先端まで歩いていき、その上に立った。
頭の上に立たれて嫌がられないのだろうかと思ったが、信頼関係があるのか、飛竜は何も言わず、仕事に徹しているようだ。
また、頭部という、安定しない場所でも彼女は堂々としている。さすが竜騎士といったところで、感心した。
そうして、本当に座って休んでいたのだが、三十分ほどでそれも終わってしまった。
最初の、竜化へ進化中のハイオークを発見したのだ。
撃ちやすいようにと、シウも飛竜の頭の上へ座らせてもらうことになった。
「ごめんね、よろしくね」
頭を撫でると、いいのよと返事が返ってきた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「いえ、あの、声が聞こえた気がして」
「あら。調教魔法を持っているの?」
「いえ」
「ふうん。確かにこの子は比較的人間好きだけど、聞こえるものなのねえ」
と、特に気にすることもなく、飛竜に指示を出している。
「撃ちやすいように、頭を下げてね。慣れたら、シウ君の呼吸に合わせてやっていいから。分かった? よしよし。じゃあ、あたしは後方にいるわ。さすがに二人も乗ったんじゃ、重いでしょ」
あっさりと場所を譲ってくれて、リリアナは飛竜の背中にある騎乗帯を結わえた鞍に座った。
シウは、前を向いて、旋回しながら敵に近付く飛竜と呼吸を合わせた。
「ちょっとびっくりするかもしれないけど、決して君を撃ったりしないからね」
「ギャ」
「……良い子だね。じゃあ、撃つよ」
そう言って、こちらに気付いて何らかの攻撃を放とうとしているハイオークに向かって、塊射機で鉛弾を撃ち放った。
ドガンッと凄まじい音がして、ハイオークが弾け飛ぶ。
後方からは、
「ひゃーっ!! 何あれ」
と驚いた声。そして周囲の飛竜たちのざわめきが聞こえてきた。
「落ち着け、落ち着くんだ」
近くから騎士たちの怒鳴り声が聞こえてきたが、すぐさま、次の目標を見付けたシウは、二射目を撃った。
「(キリク様、奴等、相当巧妙に隠れてます! 指示を待たずに撃ちます)」
「(しようがねえなあ。分かった。重複するかもしれんが、構わずにやってくれ)」
「(了解です。撃ち漏らした場合は連絡入れます)」
返事をしつつ、隠れているオーガを撃つ。
「な、なんで、分かるの!? 今の絶対見えてなかったじゃない!」
後方からまた驚いた声が聞こえたけれど、無視する。
集中していないと、見逃してしまいそうな気がした。
案の定、ゴブリンやコボルトに紛れて、上位種が移動していた。
全方位探索に、彼等を認識させてみると、ものすごい量のピンが立った。これまでそんなことをしたら疲れるだけなので最初の練習時ぐらいしかほとんど使ったことはなかったが、そのままの状態で慣らすことにした。
物凄い集中力を維持し、鑑定と共に合わせて見付けては撃っていると、やがて、種族ごとにピンを分けられるような気がしてきた。
(《種族別表示》)
体色に合わせたのか、次々とピンの色が変わっていく。ついでに、識別した者にだけマーカーが付けられるのではないかと思って、イメージを強めてみた。
(《指標》)
今度は先ほどと違ってポツポツとまばらに、元のピンと同色系の濃い色に変わった。自動化されて表示されるようだ。そこだけ集中してみると、下線まで引いてあって文字通りマーカーとして印がされている。
「【検索して抽出ってやつかあ】」
竜化に進化してるか、あるいはしかかっている魔獣として区別され、脳内に浮かんだ検索結果として勝手に表示された。自分でも驚いてしまって、思わず日本語の独り言になってしまったが、小声だったのでリリアナには聞こえなかったようだ。
ホッとして、シウはまた集中に入った。
その調子で一時間、上空を飛び回りながら撃ち続けていたら、警戒したのか竜化魔獣が鳴りを潜めた。
その為、キリクから休憩に入るよう通信が入った。
リリアナも交代するということだったので、飛竜に乗ったまま岩場へと降りる。
そこには王国の竜騎士団も幾人かいた。
兵站担当の騎士もいて、シウたちにも食糧や飲み水を渡してくれる。
リリアナと共に分けてもらうと、岩の上に座って休憩した。
食べながら、クリストフに通信を入れる。
「(シウだけど、連絡遅くなってごめん。そっちはどう?)」
「(大丈夫だ。不思議なほど静かだよ。獣の気配もないって、レオンが言ってる。あと先生から通信が入って、本隊の先行部隊が一番最初の広場に到着したようだって。緊急を要する生徒だけ先に引き上げさせるけど、そのまま森まで先行部隊が来てくれるそうだから、早ければ今日中に彼等と合流すると思う)」
「(良かった。一応、場所はマット先生に伝えてるけど、細かくはスタンさんたちとやりとりしてくれるかな)」
「(分かった。こっちは、それ以外には問題ないよ)」
通信を切ってから、残りのパンを口に入れた。フェレスは一気に食べてしまって、もうないのかーと残念そうな顔をしている。
「フェレス、ほら、これあげる」
「にゃ……?」
いいの? と聞いてくるものの、目が輝いている。シウは目尻を下げつつ、手に持った燻製肉をフェレスの前に置いた。
「どうぞ。フェレス頑張ってたもんね。食べて良いよ」
「にゃ!」
わーい、と喜んで一口で食べてしまった。
そこにリリアナがやってきて、苦笑いで注意してきた。
「やだ、そんなことしたら、あなたが参っちゃうわよ」
「そうだぞ、少年。ほら、これをやるから、食べな」
更にはリリアナの言葉にかぶせるように、竜騎士団の中から一人の男性が出てきた。
「……いいんですか?」
「ああ。子供が空腹なのは、見ていられないんだ。軍隊の糧食は不味いけどな」
固焼パンを渡されて、確かにと、苦笑した。
リリアナも肩を竦めている。
「食べやすくしましょうか?」
言いながら、もらった堅焼パンに水を含ませてリフレッシュ、簡単な回復魔法をかけた。ついでに火属性魔法で温めて、ほかほかのパンにする。
「……それ、どうやったんだ?」
と言いつつ男性が片手に持ったままのパンを渡して来ようとしたので、シウは受け取って同じようにしてから、元の手へと返した。
呆然と受け取る男性に、簡単ですよと教えてあげる。
「回復魔法使うんです。ついでに火属性で温めてあげるとちょっとは美味しくなると思いますよ」
「……簡単て、おい」
「シウくーん、それ全然簡単じゃないー。あたしはできないわよ」
え、でも、と思う。二人とも光と水属性の魔法は持っているのだ。どういうわけか、竜騎士の人たちは皆、最低でもそれらを持っている。レベル一というのも多いけれど。
「あの、回復魔法は、騎士なら使えます、よね?」
「使えるけど、それ、人間に対してよ。体力を維持するのに使うんだもの」
「……体力回復までのレベルは要りませんよ? こういう、飲食に使うのは」
「そうなの?」
「面白そうな話だな。俺も混ぜてもらおう。あ、俺はランヴァルド=アルメルだ。竜騎士団の第一隊で遊撃班を担当している。よろしくな」
「あたしはリリアナよ。キリク様の竜騎士団で、特攻やってるわ」
「女で特攻とはまた、すごいな」
ヒューと口笛を吹いている。乗りの軽い騎士のようだ。他の人は休憩と言えども礼儀正しくしているし、口調も悪くないので、彼だけが型破りのようだった。
そのランヴァルドがこちらを見てきたので、シウも挨拶した。
魔法学校の一年生だと言うと、明らかに引いてしまって、それから頭を抱えていた。
彼が言うには、少しの望みを持っていたかったそうだ。
「ハーフエルフで年齢が若く見えるだけ、ってことにしておきたかったよ。……子供に戦わせるなんて、俺はほんと、嫌なんだけどなあ」
ということらしい。子供にやさしい男性のようだった。
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