126 新しい出会い、友達?
ヒルデガルドに伝えても人の話を聞きそうにないので、教師の方に連絡を入れた。
どうして分かったのか聞かれても答えられないので、
「探知魔道具を乗せた鳥を放ってますので」
偶然知ったということにして、適当に答えた。
レオンには、そこが今のところ安全だから暫く立てこもっていてほしいと伝えた。
魔獣の群れが幾つか発生し始めていて、洞穴を出ると追いつかれる可能性があるのだ。
不安にさせるだけなので、そんなことは言わなかったけれど。
「捜索隊がすぐに出るから今日一日ぐらいテントを張ってのんびり待ってるといいよ。僕も周辺を調べつつ戻るから」
と、できるだけのんびり聞こえるように伝えた。
レオンも冷静で、こちらは任せておけと返してきた。
暫く火口を見ていたら、決着が付き始めていた。
雄が残り三頭にまでなったのだ。
その時また通信が入った。
「(ガルエラドだ。雄は一頭になるまでどうしようもない。一頭になったら、収まるだろう。外へは行かないということだが任せても構わないのか? こちらはエルノワ山脈におり、飛竜を捕まえられないでいるから今すぐには行けそうにない)」
そうか、竜語を扱えるのだし、飛竜を捕まえたら飛んでこられるのだ。
しかし、下位の通信魔法なのに早く伝わるものだと感心した。意外と自分の魔法も、ガルエラドもだが、高い能力なのかもしれない。
「(ガル、こっちはもう大丈夫だと思う。あ、ちょうど最後の一頭になった。雌も問題なさそう。これなら結界を解いてもいいかな。あと、死んだ竜はもらってもいいもの? この後、竜たちの餌になるなら置いとくけど)」
と伝え終わった頃、勝ち誇った雄に、雌が覆いかぶさっていた。
おー、満身創痍の雄相手にすごいなあと、観察する。
フェレスは暇なのか、寝る体勢に入ってしまった。先ほどまでは興奮して戦いを見ていたのに、現金なものだ。
フェレスには繁殖期はまだ来ないので全く興味がないのだろう。
ぼんやり眺めていたら、森の中で何かを探知した。
フェレスには寝ていていいよと頭を撫でてから、そこまで転移する。
「カッ」
と慌てたような声がした。
「誰かいるの?」
人ではないことは確かだ。
魔獣でもない。
だけど、なんだろう。
片っ端から鑑定をかけていたら、ヒットした。
「あ、希少獣なんだね」
「……カ……」
茂みに隠れたコルニクスという鴉型希少獣だった。
希少獣の中では下位とされる部類で、普通の鴉よりもふた回りほど大きく鷲のようにも見える。
「どうしたの? 何か用だった?」
コルニクスは茂みに隠れたまま、しばらく思案していたが、そっと出てきた。
「カーカカカー」
なんとなくだが、お前何者だと、聞いているような気がした。
「僕はシウ、シウ=アクィラだよ。人間で十二歳の、ええと、魔法使いかな? 初めまして」
「……カー、カカカーカーカー」
少し驚かれたようだ。それから、自分には名前はないと言った。なんとなく、偉そうな感じがして、歳も取っているような気がする。
それよりも。
「ねえ、その背中にいるのは何?」
「……カーカーカーカーカー」
何で分かるんだと言われた。シウは首を傾げつつ、魔法使いだからと答えたら、コルニクスはフンッと鼻で息をした。いや、本当に。
思わずブハッと笑いをもらすと、彼、たぶん彼だろうコルニクスが、胸を反らせて鳴いた。
「カーカーカカカ、カーカーカー」
わしの言葉は分からんくせに、といった感じだろうか。
「そうだよねえ、正確には分からないんだ。喋ってみたいのに。調教魔法があればなあ。残念」
「カー?」
「ていうか、話を誤魔化したね。君、賢いねえ」
「カーカーカーカー!」
「馬鹿にしてないよ。鳥でも賢いのはいるんでしょう?」
「カッ」
妙に人間臭い態度をする。今、コルニクスはペッと唾を吐くような真似をしたのだ。
面白い。もしかしたら人間に飼われていたのかもしれない。
「その子は友達?」
突こうとしたら、コルニクスは慌てて飛び退った。その時に、彼が怪我をして飛べないことを知った。
「……治すからこっち来て。それ以外の事はしないから。彼? 彼女? も突いたりしない」
「カー……」
そろそろと近付いてきて、シウの前に立った。
見てみるとかなりひどい怪我をしている。
「カーカーカーカー」
どうも、雌の竜が火口に来た際に巻き込まれてしまったようだ。あれだけ大きな獣となら、コルニクスなど相手にならないだろう。
希少獣とはいえ、コルニクスは下位種なのだから。
「じゃあ、治療するからね。はい、終わり」
「カ?」
え、と驚いている。それから羽を伸ばしたり、片足立ちをしてトトトと移動したり。
「……カーカーカーカー」
「いいえ。どういたしまして。でも災難だったね。竜の大繁殖期に巻き込まれるなんて」
「!! カーカーカーカー」
「大丈夫だよ。ようやく雄一頭になったし、今頃繁殖行動に入ってるよ。暫くはこの辺りもうるさいだろうから、離れておくのがいいんじゃない」
「カーカー」
そうすると返事を貰って、シウは立ち上がった。
すると、コルニクスがトトトと近寄ってきた。
「カーカー」
「うん? いいの?」
「カー」
「じゃあ、見せてもらうね。……ああ、エールーカか。可愛いね」
「カー?」
「別に。幻獣だし、いいんじゃないの? 可愛い友達だね」
「カーカー」
「子分? 友達じゃないの? 面白い子だねえ」
「カー!!」
「子じゃないって? でも見ても分からないんだもの」
段々と話が分かってくるようになった。
ちなみにエールーカは芋虫型の幻獣だ。魔獣とは違うらしい。
人に害を与えず、魔法を使える獣? という定義にはまっていればそうなる。
ただ、芋虫が獣に分類されるのは未だに納得できないのだけれど。
「カーカー、カーカーカーカー」
「うーん。じゃあ、名前を付けていい?」
いいぞと胸を張って頷かれたので、シウは、
「じゃあ、君はコルね。そっちの子がエル」
と名付けた。コルニクスは若干首を傾げていたが、まあいいと、ふんぞり返っていた。
エールーカはあまり分かっていなさそうな感じで頷いていた。
意思の疎通ができているのだろうか。ちょっとよく分からない。
シウとだけでなく、コルともできていないような気がする。ただ、彼の背から降りないようなので好きだという気持ちはあるのだろう。たぶん。
「じゃあ、僕らも友達だね。また何かあったら飛んでくるよ。ええと、通信は」
「カーカーカー」
「知らせられるの? よく分からないけど、まあいいか。じゃあね!」
バイバイと手を振って、フェレスの寝ている岩場まで戻った。
岩場から火口を覗くと、乱闘かと思うような行為が繰り広げられていた。
獣の番行為は時に激しく、首を噛んだまま動けないようにすることもあるが、正にあれである。
「そりゃあ、大災害にもなるなあ」
と、観察していたら、ガルエラドから通信が入った。
「(ガルエラドだ。竜は共食いはしない。死体はシウが処分すると良い。被害を食い止めたお前が受け取るべきだ。竜人族からも褒賞を与えたいが、人の欲しがるものを持っているとは思えぬ。何かあれば、考えていてくれ)」
相変わらずあっさりとした内容だったが、なんとなく考えた末の台詞だったような気がして、シウは笑った。
少しして、彼に通信を送る。
「(もし良ければだけど、いつか、竜人族の里に案内してもらえると嬉しいかな。無理ならいいよ。褒美が欲しくてやったことでもないし。気にしないでね。また今度会おうね、ガル)」
彼がどんな顔をしてこの通信を受け取るのか、考えたらちょっと楽しい気持ちになった。
「さてと」
立ち上がり、火口まで転移で飛ぶ。
番になっている二頭はともかく、他の雌も全くシウを気にしていない。
そんな中を激しく動く竜を避けながら歩いて回り、死んでしまった雄の竜を空間庫へ投げ込んでいく。
解体は後で。
まずはやるべきことがある。
全てを空間庫に入れてしまうと転移でフェレスの横に戻り、彼を起こしてから跨った。
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