122 演習での初めての狩り




 森へ分け入るとヴィクトルが斥候、レオンは他の生徒たちが少なくて注意が手薄となる左手を、警戒しながら進んだ。

 レオンもかなり気配を読むのが上手くなってきているようだ。

 このメンバーで唯一と言っていい攻撃力を持っているので期待されている。

 次に、リグドールが前衛として続く。本来ならば後衛向きなのだが、塊射機を持っているので担当してもらうことにした。そのすぐ後ろをシウとクリストフが進む。

 中盤にアントニーを置いて、アリスとコーラとヴィヴィは一緒にいてもらい、最後にアレストロを置いた。

 弓を持つアレストロは後衛向きで、かつ男子ということもあって女子の守りに徹してもらう。

 それに当てにはしていないが、万が一のことがあっても後方からついてくる護衛のスタンたちが守りやすいだろうということも計算していた。

 騎士見習いのラヴェルは前衛の右手を、残り二人は中盤に配置した。


 シウの全方位探索では、辺り一面生徒だらけで面白くないのだが、少し先に行けば地形が乱れるので生徒もばらけていくと予想された。

 その先に、飛兎という、立派な魔獣もいる。もっと先には岩猪がいて、兎を追いかけているのが分かった。

「……シウ君、あの合図はどういう意味が?」

 暫く歩くと、少し前を歩いていたラヴェルが話しかけてきた。

 ヴィクトルが時折、指で合図をしてくるので気になったようだ。

 シウが、冒険者などがよく使う指での合図だと教えると、興味を持ったようだ。

 まだあちこちに他の生徒たちが見える安全地帯なので、シウは説明してあげた。

 そうしているうちに、起伏の激しい場所に入った。

 一度ヴィクトルが振り返ったけれど、シウは頷いて先へ進むよう合図した。

 彼が安心して進めるのは、シウが大丈夫と言っているからだけでなく、その先をフェレスが行っているからだ。

 足音をさせないために、若干浮かせた状態で、彼の苦手なゆっくりとした飛行で進んでいる。これも訓練のひとつで、けれど訓練だというと途端に苦手意識が出てくるフェレスのために、遊びと称して進ませていた。

「足跡を付けずに僕らを誘導できたら、フェレスの勝ちね。その代わり、僕らの見えないところに行ったり、足跡を付けたらフェレスの負けだから、ええとー何してもらおうかなー」

「にゃにゃにゃ!!」

 まけないもん! と声を張り上げてやる気になったので、シウもホッとしたところだ。


 起伏も終わりに近付き、下り側が見えるようになった。

「(フェレス、止まって)」

 下位通信魔法で伝えると、フェレスが動きを止めて振り返った。その目がヴィクトルを見ており、彼もすぐに気付いて立ち止まった。

「(ヴィクトル、見える?)」

 少ししてからヴィクトルが頷き、手のひらを上げ、人差し指で前方斜めを示した。手のひらを広げて見せてから、拳を作って回す。

 それを見てすぐさまクリストフがコーラに通信魔法を使って伝える。

 シウは、位置的に見えていないレオンへと伝えた。

 リグドールが塊射機を構えながら、ヴィクトルに近付いて行った。

 レオンも左側から大きく回って、いつでも挟み撃ちができる位置につく。

 リグドールが振り返って、指で丸を作った。大丈夫、という意味だ。

 シウは、頷いてから指二本で前方斜めに二回振った。

 すると二人が揃って、少し拓けた日の光が落ちる窪みに向かって駆け降りる。

 レオンも大きく迂回しながらだが、逃げられないようにと向かった。

 俯瞰で見るとよく分かるが、飛兎がハッと気付いて逃げようとして、相手が人間だと気付いてからの動きの変遷がとても分かり易い。人間ならばむしろ襲えということだ。

 全部で八匹いるが、一斉に向かってきた。

 それを追いついてきたアレストロが弓で威嚇して、足並みを乱す。

「よし」

 的の中心に当てることはできない彼だが、人を当てないだけの能力はあった。

 それに、ヴィヴィが矢の一本ずつに人避けの付与を施していた。

 塊射機とは違う魔術式で、魔力量があり、かつ魔核がない生き物を避ける、とそれだけの内容しかない。

 魔術式を渡した時のヴィヴィの顔は面白かったが、彼女は付与魔法のレベルがなんと三もあるので、いろいろと手伝ってもらっている。


 弓で方向を狂わされながら、バラバラになったところをヴィクトルの空気砲、リグドールの塊射機、レオンの感電砲で仕留めていく。

 アントニーも、水属性を使った魔法で、向かってくる飛兎を撃っていた。

 あくまでも防御に徹しているが、身を守るには充分な内容だ。

 彼は後衛にまで下がって、後衛を守る盾となっている。

 クリストフも剣を抜いてアリスたちを守っていたが、そこまで飛兎を抜けさせないとばかりに前衛が頑張っていた。


 八匹全て倒すまでに三十分ほどかかってしまったが、どうにか全部を狩ることができた。

 シウも塊射機の練習がてら、追い込むのを手伝った。

 仕留めたのは前衛の三人だ。

 すぐに、後衛の数人が駆け付けて、その場で血抜きを始める。

 アリスとヴィヴィが率先して行うのを、騎士学校の生徒が驚いて見ていたが、口出しはしなかった。

 あくまでも護衛に徹するというのが騎士学校の訓練だからだ。

「コーラ、あなたは補助をお願いしますね」

「はい」

 剥いだ皮はシウが受け取ったが、解体して出た内臓はコーラに渡された。

 使える内臓と使えないものに仕分けするのだ。水はアントニーが作り出して、それで水洗いをしてから必要なものは油紙に包んで魔法袋へ仕舞っていく。

 コーラも昨日からの調理補助でかなり慣れたようだった。

 シウは皮に、

(《洗浄消臭》)

 とまとめて掛けてから、魔法袋に放り込んでいく。

 それを、騎士見習いの三人がぽかんとして見ていた。


 アントニーは水を甕に貯め終わったらすぐさま、魔獣避けの薬玉がまだ使えるか確認して回る。彼には物資の管理を担当してもらっているので、こうして使用中のものについてまで見てくれているのだ。

「トニー、こっちに予備をひとつもらえるか? やっぱり、使えないのが混ざっていた」

「あ、俺も欲しい」

「うん、了解。だけどこの調子じゃ、配給された薬玉では使えないかも。現地採取していた方がいいと思う」

「だよな」

 ヴィクトルとレオン、アントニーが相談し合っている。

 リグドールは体力に余裕もあってか、アレストロと周囲を警戒していた。

 解体はまだかかるので、シウは後をアリスたちに任せてから、レオンとクリストフを連れて採取へ行くと伝えた。

「それほど離れないけれど、通信係としてクリストフを連れて行くから。レオンには採取を覚えてもらうつもりだから、悪いんだけど代わりにヴィクトルがリーダーをやって。リグドールは遊撃として皆を見ていて。アレストロ、状況を正確に判断できるのは君だと思うから、参謀としてそれぞれに口出ししてやって。じゃあ、三十分ほど抜けてくる」

 フェレスも付いていきたいという素振りを見せたので、ここは甘えさせてやろうと呼び寄せた。

 尻尾がぶんぶん振られたので、その場にいた皆が笑顔に包まれていた。


 また森の中に入っていくと、シウは二人に指示して、採取を頼んだ。

「あのあたり、それと、こっち。授業で習った基本の薬草しかこのへんにはないね」

「あ、これか」

 レオンが早速見付けて嬉しそうだ。

「どちらか、必ず立っておくこと。しゃがんで採取は片一方だけにして、その間も周囲に気を配っておくこと」

「分かった」

「うん」

「僕は上空を確認してくる。このへんにいるけど、何かあったら、呼んで」

 二人が頷いたので、フェレスに乗って飛び上がった。

 実は先ほどから広範囲にしている全方位探索で、気になることがあった。

 俯瞰だと森の木々に阻まれて一斉に見ることができず、さりとて森の中に入れば視界が狭まって見えるので、流れ作業で見るのが大変だ。

 こういう時はやはり生身の視線で見下ろすか、その場に行ってみるのが一番だった。

 さすがに学校の行事の最中にどこに目があるか分からない状態で転移をするのは憚られたので、フェレスを使うことにした。

 フェレスには急いで飛んでと伝えたら、嬉々としてスピードを上げていた。

 やはりゆっくり飛ぶのは性に合わないようだ。


 目的地に着いて確認する。

 岩猪はそのままだったが、岩蜥蜴が多くいた。

 先ほど見た時は数匹だったのに、いつ増えたのだろうと思案した。

 降りると気付かれるので上空から隠れつつ、観察していると洞穴が見えた。

 どうやら巣になっているようだ。

 今のところ、他の生徒が到達するような場所ではないが、反対に岩猪が生徒を見付ける可能性もある。

 どうしようかなと考えていたら、それに気付いたわけではないだろうが岩猪が生徒たちとは反対の方向へと向かっている。

 何かが出たのかとも思ったが、そういうわけでもなさそうだ。

 探知には引っかからないので、シウは念のため周辺を確認してから皆のところへ戻った。



 採取組は薬玉二日分ぐらいの量を集めていた。解体も終わっており、薬草を使えるようにするためにもこのへんで野営地へ戻ろうということになった。

 戻る道すがら、食べられる野草や木の実を採取していく。

 ニールはずっと感心しきりで質問してきたが、最終的にアルヴァーから仕事中だと拳骨をもらっていた。

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