114 森での合宿二日目特訓




 翌朝も早くに起き、テントを片付けてから野営地を後にした。騎獣も一緒だ。荷物の半分は彼等に持ってもらう。半分は、はぐれた時に困るので最低限必要なものは背負ったままだ。これは昨日の狩りでも同じようにしていた。

「今日はそれぞれ武器の訓練を兼ねて移動するから、最初から魔力をケチらないで行くよ」

「「「はい」」」「「おう」」

 探索をかけつつ、ヴィクトルにも探知をイメージさせる。レオンには無属性がないけれど、気配を探知するのは山で暮らす狩人ならば誰もが使えるものなので練習を続けさせる。斥候はフェレスを先に行かせて、しんがりは騎獣たちに任せた。


 一時間ほど進むと高低差が激しくなって歩きづらくなってきた。

 これまでは平坦な場所を選んでいたので、子供でも歩きやすかったが、森の大変さを分かってもらうためにわざと疲れる場所を選んだ。

 皆が無言になり、俯いて歩く者も出始めた。

「視線は前に、下だけを向いていたらだめだよ。気配を感じる練習も続けて。今はパーティーとして動いているから、右側の人は右方向中心に神経を集中させていればいいから。後方は難しいけど、時折振り向くことで覚えていってね」

「分かった!」

 皆、疲れながらも一生懸命に付いてきていた。

 やがて目指していた場所に到着する。

 ちょっとした広場になっており、ぽっかりと森に穴が開いたような場所だ。大昔に魔獣が暴れたところだろう。薙ぎ倒された木々もすでにない。

「こういったところは狙われやすいから気を付けて。この先に飛兎が集団でいるから、武器を使って狩る。いい?」

 気を引き締めたところで、慎重に、だが素早く展開した。

 フェレスはすでに草原の周囲を回って斥候役をきちんとこなしていた。

 今は反対側の森の木の上で見張っている。

 飛兎達も気付いたのか、警戒して固まり始めた。様子を見ているのだろう。

 互いにギャギャッと鳴き声で合図してから、人間に気付いたのか、こちらに向かってきた。

 リグドールはすぐさまアントニーたち後衛の為に土壁を作り、自らは茨の蔓を利用して飛び越えてきた時の為に罠を張る。

 アントニーは土壁の内側から、飛兎をばらけさせないよう、水を嫌う習性を利用して囲い込むように水を放出する。圧縮して細く、連続して細かに出すことで魔力量を節約している。効果は普通に水を出すのと替わりない。

 ヴィクトルは空気砲を構えながら、前衛として走って向かう。

 レオンも同じく前衛として走った。得意の雷撃魔法は、獲物の肉を傷つけるので使えない。だが、方向を変えさせるのには使える。小さな威力で地面に雷撃を放つ。

「《天からの光を地に落とせ、雷撃》」

 まだ無詠唱や古代語による詠唱はできないが、慣れた詠唱句を使えばその後は二度三度と続けざまに使えるようになった。杖での指示はいるが、その分命中率も高く、剣を持つよりも良いのではないかとシウのみならず本人も気付いたようだ。

 レオンは驚きつつも、杖を振ってヴィクトルの方に飛兎を向かわせた。

 待ち構えていたヴィクトルが空気砲で次々と撃っていくと、飛兎は簡単に倒れて行った。

 見逃した飛兎も、土壁を飛んで越えたところで呆気なくリグドールの罠にかかって掴まっていた。

「あー、僕の矢は全然違うところに飛んで行ったよ……」

 アレストロだけが上手くいかなかったようで、残念そうに落ち込んでいた。


 アレストロは自分で作った弓を持ってきたのだが、弓自体がまだ初心者の作で、ましてや引きの力が弱く、思うように矢を放てなかったようだ。

 それでも矢が好きらしくて、シウは洋弓銃の仕組みを説明しつつ慰めてあげた。


 解体はその場で行うことにし、不要となった血はその場で燃やしてもらう。内臓はまた騎獣たちに食べさせた。フェレスがちょっと興味深そうに見ていたので、先輩騎獣の言うことをよく聞いて食べるんだよと言ったら、神妙な顔をして彼等に近付いて行った。

 なんだ若造、といった態度で返されたようだが、食べたいなーと可愛く? おねだりしていたら諦めてくれたようで柔らかそうな部位を口移しでもらっていた。

 意外と上手くやっているようで安心したシウだ。


 皆に解体を任せている間、シウはリグドールと一緒に塊射機の実射訓練を始めた。リグドールが実際に撃つのは初めてだ。シウは横で見守りつつ動きを再確認する。弾は引き金を引けば簡単に発射する。引き金はてこの原理を使い、また軽くなるようゴムとスライムを混ぜた緩衝材を挟んでいる。おかげで引きやすくなっていた。

 このゴムとスライムを思いついたのは画期的だったと思っている。粘弾性物質と粘弾性生物を合わせるなど普通は考え付かない、そう言ったのはアグリコラだった。消耗品になるが、持ちはいい。何よりも原材料が安いということが一番だ。白乳の木とスライム、どちらも手に入りやすい。シウは、これらも緩衝材として商人ギルドに特許申請していた。

「最初の頃よりずっと軽い。動きやすいし、防御にもなっていいな」

「旋棍のように振り回せないけど腕は守れるからね」

「シウはどっちで撃つつもりだ?」

「左。利き手が右よりだから、右に旋棍警棒を持つよ」

「俺もその方が楽だな。これ、利き手の逆で持つのがやっぱり使いやすいな。慣れるまで最初は大変かもしれないけどさ」

「だよね。弾倉の入れ替えは利き手側の方が楽だし、利き手を空けておく方が僕もいいと思う」

「でもできるだけ弾倉の入れ替えは現場でやりたくないなあ。今のところ、全弾で五十発かあ」

「重くなっていいなら、もう少し改良の余地はあるよ。僕はこれぐらいに収めて、弾倉入れ替えを勧めるけどね。振り回すにはやっぱり重いもの」

 そうかあ、と納得している。

「塊射機の大きさをこのままにして、弾を小さくしたら増やせるだろうけど、人に当たった場合の威力が高すぎるしねー」

 幾重にも掛けた安全装置とはいえ、小さい弾の勢いはすごくなる。

「そっちの問題か。そうだよなあ。あと、大きい弾の方が対魔獣戦だと威力発揮するもんな」

 それにゴム弾が当たったという感覚が伝わりやすいこともある。闇雲に撃たないための安全対策だ。たとえ死なないとはいえ、周囲の人間を巻き込みたくない。

「ほぼ、完成かな?」

「うん、俺はいい感じだと思う。動く的にも当てられそう。こればっかりは練習あるのみだと思うけどさー」

 重さに拘らなければ小盾も付けられるようにはしていた。ただ、まだ少年の体の二人だから、盾は付けない。

「リグは利き手で、杖を持つの?」

「うーん、杖を持ちながらだと実戦では大変そうなんだよね」

「魔法使いは接近戦はほぼ、ないんだよね?」

「でもほら、いきなり魔獣に襲われる可能性も、考えないとだめだろ?」

「だよねえ」

 リグドールは伸びをして、それから右手に持っていた小さな杖を背中の袋に差し込んだ。

「杖なしで、頑張ってみようかな」

 確かに、杖を持つと森の中では片手が塞がるので厳しい。

 世の魔法使いの大半は杖を持つが、持たなくたって魔法は使える。ようするに思い込みからくる、ただの見せかけ、パフォーマンスに近い。

 だけど、それが大事でもある。

 魔法は思い込み、イメージが大事だからだ。

「リグは、茨を使ったりできるし、木の蔓から作った鞭なんかも武器にいいんじゃない?」

「鞭?」

「そう。使い慣れるとかなり便利みたいだし、中接近戦向きだよ。塊射機も中接近戦用だけどさ、鞭は汎用性あるからいいかもね」

 リグドールには土や水属性もあるので、泥水などの罠を張れるし、土壁などの防御にも使えてかなり使い勝手の良い魔法を持っている。

「鞭かあ。なんか悪の親玉が使いそうな印象があるけどなー。でも、先生も、手元に引き寄せることができるし木に巻きつけて移動もできるって言ってたし……」

 段々とリグドールの顔がにやにやしだした。

 この年の少年の考えることは大抵同じだ。きっとターザンごっこ(この世界にターザンの知識はないので猿の移動だろうか)を想像しているのだろう。

 シウは肩を竦めて、次の実射訓練に移った。


 的になる魔獣が来てくれるわけもなく、シウが土くれを飛ばす。

 それをリグドールが撃っていく。

 解体を終えた皆も思い思いの訓練を始めた。

 アレストロは塊射機に興味津々だったが、持つのは諦めたようだ。持たせてみたが、安定しないのだと言う。

 弓のような大きなものの方が彼には合うらしい。

 先ほどの洋弓銃に興味があるようなので更に詳しく説明したりした。

 アントニーは水を細かく使えるよう、練習している。先ほどの狩りでは手応えを感じて、何事にも通用するだろうと意識を集中させていた。

 ヴィクトルも空気砲をもっと節約しながら使えないか、考えながら練習を繰り返していた。

 レオンは、雷撃魔法が意外と使い道を狭めることに改めて落ち込んでいた。

 討伐すべき魔獣を相手にすれば良い攻撃魔法となるが、狩りをするとなると対象物を壊してしまいかねない。

 なので、先ほどのように細かく小さく撃っていくという嫌な作業を繰り返していた。

 可哀想になってシウはこっそり彼に耳打ちした。

「感電させたらどうかな? これなら雷撃ほど損傷もひどくならないし、焦げも抑えられるよ」

「感電? とは?」

 あれ、この世界では知られていないのだろうか。

 シウは首を傾げつつ、水属性も持つレオンに、詳しい説明をした。

 レオンが訝しげにしていたので、仕方なく実演することになった。

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