064 木属性魔法
リグドールは徐々に水と土を扱うコツを覚え始めた。
さすがに一度に泥だまりを作ることはできなかったが、イメージは掴めたようだった。
次は木属性について話し合った。
「本で読んだんだけど、木って汎用性が高すぎて逆にどうしていいか分からないんだよね」
「あ、俺も。成長させるにしてもレベル四ないとダメだし」
「レベルが二だと、なんだろう。あ、抽出できるね」
「抽出、何を?」
シウの生まれ育ったアガタ村の周辺にはカエデがあったのでメープルも採れたのだが、その頃はまだ魔法を上手に使っていなかったから手作業だった。
「樹液とか、水分もできるよね」
「……水分か。そうだ、それなら枯れさせることはできないかな」
「あ! それいいね」
レベル五があるシウは、木属性魔法の使い方が大物ばかりで、レベル二のことを考えたことがなかった。
樵の子として生きていた頃に気付いていればもっとたくさん役に立っただろうに。
「でも、枯れさせて、それが何に使えるのかが分かんないなあ」
「枯れ木は暖を取るのに役立つよ。あと、試してみないと分からないけど、使い道あるかも」
「うん?」
実験してみることにした。
近くに生えている木の枝を切り取り、リグドールに水分を抽出してもらう。
それから少しして、水属性で水分を注入する。
「あっ、元に戻った!」
「すごい」
大発見したかのような気分で、二人、笑いあう。
「ちょっと、いろいろやってみようよ」
「おお。やるやる。時間が経ったらどうなるのか、大きさはどこまでいけるか」
二人で嬉々として実験を始めた。
時間をおいての実験だから、その間に茨を使った実験も行う。
それにしても魔力量が多いというのは便利だ。これだけ行使しても、リグドールにはまだ魔力が残っている。
人物鑑定でも分かっていたが、今回リグドールには魔力量計測器を貸しているので、本人にも残数が分かっていた。
「これ、便利だよなあ。親父が言ってたけど、食品だけじゃなくて魔道具にも商機があったとか言って、残念がってた」
「あー、まあね」
「ガルン家が一手に引き受けたんだろ?」
「うん。大掛かりになるから、道具屋程度じゃ流通させるのは無理だろうって」
特許登録してすぐに、シトロエ=ガルンという商人が使用許可を取って作り始めた。
後からスタン爺さんの知り合いだと分かったが、そういったことは一切出さずに取引を始めたのだ。
今は試作品を経て、最初の商品がギルドに納品されている。
個人で買う人もいるだろうが、節約した魔術式が付与されているとはいえまだ高い魔道具だから、ギルドでの貸し出しをメインにしているようだった。
シウがリグドールに貸したのは、試作品のひとつだ。
「あ、あと、親父が怒ってたよ。特許料が安すぎるって」
「そう?」
「これだけで一財産作れたのに勿体無い! だってさ」
「うーん。でも便利なものにお金とるのもなあ」
「シウはこれだから」
「お金は、あるところから貰うよ」
「お。そういうのいいな」
「無駄なお金、持ってる人いっぱいいそうだし」
笑うと、リグドールも笑った。
大商人の息子だが、意外と庶民的なことも知っていて、始末するところもある。
高価なローブを何枚も作ってくれる親だが、お金の使い方をよく教えているのだろう。
「悪い貴族とか商人なんかから分捕ったら楽しいだろーなー」
「それ、どこの【鼠小僧】だよ」
「ん?」
「あー、いや、ほら、茨の蔓、すごいよ」
話を無理やり変えた。
実験の結果、茨の蔓程度なら自在に動かせることが分かった。
たとえば根付きで持っていて、伸ばして使うことも可能だった。挿し木もできそうな気はしたが、この日は時間がなかったので後日とした。
午後も実験を続けながら魔法の勉強だ。
分かったことは、水分の抽出をしてから半日ぐらいなら後で水を戻せば木も元に戻るということだった。
半日を過ぎれば、徐々に不安定になった。最後まで確認していないので不明だが、一日過ぎれば完全に枯れ木状態だろう。
これが何に役立つかというと、運搬が楽になるということだ。
樵としてでも便利だが、それよりは大規模災害などで森を切り拓く必要があった場合、切り倒した木々の再生利用が可能になるということだった。
「これ、リグの研究テーマにしてもいいぐらいだよね」
「あ、ほんとだ。すげえ」
根付きならどうなるのか。時間が経っても可能にならないのか。考えることはたくさんある。何度も何度も実験を繰り返す必要はあるが、研究するだけの価値はありそうだ。
「……俺、正直変な属性魔法しかなくてさ、意味ねーって思ってたんだけど。意味のないことなんて、ないんだな? 今日来て良かった。ありがと、シウ」
「こっちこそ。実験、楽しかった」
友人同士で思いつくことが楽しかった。
新しい発想もあった。
同年代の付き合い、学生生活というのも良いものだと思う出来事だった。
翌日からリグドールは更に魔法の勉強に身が入るようになり、実験も繰り返すようになった。
先生にも早速自分の研究テーマを話して、一年ながらもコツコツと実験結果を見せては相談したりしている。
茨の蔓を使った防御方法は次の授業で試されて、防御担当の教師アダンテからは大層褒められていた。彼は土属性を持っており、リグドールの拙い土壁についても貶すことなく熱心に教えていた。
そう、教師の中には能力が低すぎると言って貶す者もいた。
ケルビル=バッヘムという騎士位の教師だ。騎士位なのに珍しく教師をやっているのは、騎士の持ち回りのようなものらしく、嫌々やっているようだった。
彼は戦法戦術の担当で、リグドールが予習しようと思ったのも彼の態度の悪さが原因のひとつにあった。
「そのようなへっぴり腰では勝てないぞ!」
最初の頃こそ話だけで済んでいたが、実践授業が続いてくると熱が入るようになり、彼の態度は苛烈になっていった。
「たるんでいるぞ! それで戦法と言えるのか!」
まだろくな説明も受けぬまま、チームを作らせて戦わせているのだ。
しかも、生徒同士で、である。
誰かが防御も完全ではないのに危険ですと言えば、何のための防御科の授業なのだと返された。挙句には授業をちゃんと受けてないのだろうと叱責だ。
これが全員に対してならば、まだ教師の変更を求めるために一致団結といったことがあったのかもしれない。
が、ケルビルという男は、貴族、それも高位貴族に対しては「へっぴり腰」だった。
そういうわけだからチーム分けの際に、高位貴族だけのグループを作って椅子に座らせ、彼等を「試合を見る係」にしたのだ。
その言い分が素晴らしい。
「あなた方は実際には表立つことはございません。指導者としての立場から、雑兵どもを采配してください」
アレストロとアリスは困惑顔だったが、アルゲオ=ドルフガレンという侯爵家の二男は当たり前のように堂々と椅子に座っていた。
マルティナ、コーラ、クリストフ、ヴィクトルなどは戦う側のチームだが、貴族だからか纏められていた。彼等をケルビルは「人族」チームと呼んだ。
リグドールとアントニーは大商人の子弟ばかりを集めたチームで「冒険者」チーム。
残りの数少ない庶民出身者、つまりシウたちは「魔獣」チームだそうだ。
皆が、適当に渡された武器を持ちつつウロウロしていたら、へっぴり腰だのたるんでいるだのと言われていた。
ところで、シウは同じ「魔獣」チームのレオンとヴィヴィとは話すのが初めてだった。
「よろしくお願いします」
と挨拶したら、レオンからは冷たい侮蔑のような視線を向けられ、ヴィヴィには困惑した様子で見つめられただけで返事はもらえなかった。
つまり、話せなかった。
そんなものだから連携が取れるわけもなく、各個撃破されようとしていた。
まあ、所詮は水鉄砲レベルなのだが、火属性持ちなどからは炎が噴射されるので逃げ回るのに必死だ。
シウがちょこまかと逃げ回るうちに、ヴィヴィは早々に水をかぶっていた。
「よし、討伐したぞ。よくやった!」
うーん。
これって、虐めなのではないだろうか。
シウは首を傾げつつ、フェレスを連れてこなくて良かったと思った。
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