038 誕生祭三日目
誕生祭の三日目も朝から晴天だった。今日は、シウも祭りを楽しむつもりだ。
フェレスには、おめかしとして首輪代わりのスカーフを付けてあげた。もちろん、シウの手作りだ。カタピロサスで作ったタグを縫いこんでいるので、そこに《浄化》を付与した。これで自動的に《浄化》される。しょっちゅう汚すフェレスにもってこいだ。
「フェレス、可愛いね~」
「みゃ!」
シウは彼を肩に乗せて離れを出たが、そこでエミナと会った。
「今日は誰かと一緒なの?」
「途中でティアたちと合流する予定だよ」
「そうなの! いいわねぇ」
また目がきらきら輝いている。会いたいのだろうかと思い、聞いてみた。
「お昼前に合流予定なんだけど、一緒に行く?」
「え、ホント? いいの?」
食い気味に答えられたので、シウは思わず何歩か後退った。
「う、うん。いいよ。ティアたちも一度ちゃんと、家主さんに挨拶したいって言ってたし。エミナさんなら家主同然だし」
「うわぁぁ! ありがとうっ、シウ君! 大好き!」
そう叫んで、更に詰め寄られ、手を握り振り回された。驚いたが、喜んでくれるならいいかと、シウは笑った。
お祭りを楽しみながら中央地区を歩いている時に、アキエラと一度すれ違った。
友人らと一緒なので、話しかけては悪いと思い、シウはそっと手を振っただけだった。彼女も目配せで返してくれた。すると、「きゃぁ~」という若い女の子特有の甲高い声が聞こえる。振り返ると少女らがこちらを見て、キャッキャッと騒いでいた。
前世で子供たちの登下校見守り隊をしていた時も思ったが、女の子というのは何気ないことが楽しいらしい。騒がしくて可愛いところは、どこの世界でも変わらないようだ。
西地区の庶民街にも興味があったので行ってみたが、スリに何度か狙われるし、フェレスも盗られそうになるわで大変だった。もちろんシウの、《全方位探索》のみならず、《人物鑑定》もフル活用していたので未然に防げた。それでも疲れてしまった。
気分を変えようと、次は商人街近くを歩く。
ついでなので、ダレルやコリンの店に寄ってみると、
「シウの後に入った店、可哀想に、売れてないぜ」
などと言ってきた。同情めいた声は小さい。
「何度もお客さんは来るんだけどさ、お前さんの店が目当てだったみたいでな」
ああ、と何とも言えない声が出た。申し訳ないという気持ちにもなる。屋台の、こういう組み合わせでは起こりうることだなあとも思う。シウのように二日だけ営業という店もあれば、一日だけという人もいて、ギルドではこうして組み合わせるようだった。 すみませんと謝りに行くのも変だし、シウは曖昧に頷く。
ダレルたちもそれは分かっていて、商売なんてそんなものさ! と笑い飛ばしていた。
シウがキアヒたちと待ち合わせた公園へ行くと、すでにエミナが来て待っていた。
「ごめんね、遅かった?」
「ううん。ドキドキして先に来ただけなの」
テンションの高いエミナに若干引きながらも、シウは辺りを見回した。
「ドミトルは?」
「あ、彼は友達と一緒に道具の出物を探すって、西地区へ行ったわ」
最初からの予定だったのか、エミナのエルフ目当てでこうなったのか、シウは怖くて聞けなかった。
ほどなく、キアヒたちがやってきた。ラエティティアが早速エミナに気付き、手を振る。
「あら、道具屋の人じゃない?」
「は、はい! エミナと言います!」
彼女の緊張感が伝わってきて、シウは笑いながら「一緒でいい?」と聞いてみた。
「いいわよ、もちろん。ねえ」
後ろの男性陣も快く頷く。実は彼等にも連れがいた。シウには《人物鑑定》で分かっていたが、「もしかして?」と聞いてみた。答えたのはキアヒだ。
「おう。こいつが、アグリコラだ」
アグリコラを前に出すよう、背を押して紹介してくれた。が、どこかおどおどとして見える。ドワーフという種族なので背が低く、シウと同じぐらいだ。
「こんにちは。初めまして、シウです」
「……アグリコラ、だす」
小声だった。予想以上におとなしい性格のようだ。シウは和ませるつもりもあって、肩の上のフェレスを見せた。
「あと、こっちがフェレスです」
「……フェーレースの?」
シウが頷くと、彼はチラチラとフェレスを見ている。フェレスも興味があるのか、視線がアグリコラ一直線だ。
「抱っこ、します?」
「……い、いいのか? わし、ドワーフだども」
もちろん構わない。悪い人には見えないからだ。シウが、どうぞ、とフェレスを渡す。
「わ、わわ……」
慌てながらも、きちんと受け取ってくれた。目が蕩けるような優しい色に変わる。
フェレスもよく分かっており、自分に好意のある人間には甘え上手だ。人慣れしているから、平気な顔でアグリコラの腕をふんふん嗅いでいる。
「……めんこい子じゃが、わしが怖くねえのか」
「どこが怖いんですか?」
「……わし、ドワーフだで、怖がられる」
変なことを言う。シウは首を傾げながら、アグリコラをジッと見た。背が低くずんぐりむっくりした体型ではあるが、職人としては普通だ。がっしりとして筋肉もよくついているから、働き者だということも分かる。ある一定の女性からすれば、毛深いことが怖がられる理由になるかもしれないが、大抵は気にならないと思う。
「心優しい人に怖がることなんてないですよ」
「……わしが心優しい?」
「フェレスが懐いているので。獣は単純で賢いですよ。人の本質をよく見抜いているなーと思います」
「……そうか」
「はい」
にっこり笑ってシウは答えた。フェレスが、まるでそうだよとでも言うかのように「みゃぁ」と鳴いて、アグリコラの手を舐めていた。
その後、忘れていたエミナの紹介も行って、彼等の行きたいという店に向かった。
有名な出店らしく、大きな公園沿いにオープンしているそうだ。そこで買ったものを公園で食べることにした。
飲み物は、別の店からキアヒが買って来てくれた。パンは、シウ担当だ。魔法袋から取り出すフリで、作り置きしていた空間庫のパンを提供した。
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