034 誓言魔法と精霊の告白魔法
翌日、シウは呼ばれていたこともあり、朝から冒険者ギルドの特別室にいた。
中央地区のギルド長、サニウが挨拶の後に、ギルドの不手際を謝った。
彼に謝られることではないと思ったが、わざわざ時間を割いてくれた上に今回の件を説明してくれ、有り難い。互いに挨拶と握手を済ませると、ソファに座った。
「オベリオ家には厳重な抗議と、今後ギルドへの依頼を三年間断ることなど、各ギルドへの通達を行いました。君の教えてくれた内容通り、商人ギルドでも問題になっていたようだね。近々強制執行される予定だったらしい。そちらからも『対応が遅くなり申し訳ない』と連絡が来ている」
シウはホッとした。
「では、商人見習いの人たちも搾取されずにすみますね」
「……ああ。本当に。君の機転が利いて本当に助かったよ。誓言魔法のギルド職員を要求したのも良かった。あれは、エルフの彼女が言い出したのかな」
「はい、そうです」
「早速、通信魔道具を使って呼んだようだね」
サニウはなんだか面白そうにシウを見ていたが、シウは知らぬ存ぜぬという態度を貫き通した。
後日、オベリオ家から依頼料と慰謝料と迷惑料が振り込まれるそうだ。
最後に、もう一度挨拶をして特別室を出ようとしたら、「君には本当に助かってるんだ」とサニウに言われた。シウが首を傾げると、
「誰もやりたがらない十級ランクの依頼を、片付けていってくれるのはね。本当に、とても有り難いことなんだよ。ありがとう、シウ君」
サニウは白髪頭に近い金髪を撫でながら、褒めてくれたのだった。
ところで、この騒ぎのことをスタン爺さんに話したら、水晶をぽいと渡された。
驚き顔のシウに、彼は笑いながら言った。
「精霊魂合水晶じゃから、誓願にも使える。つまり、嘘偽りを見抜く能力があるということじゃ」
エルフの神への誓いよりも機能は高そうだ。しかし誓言魔法を持つ者より希少性が高そうだ。よって、シウの答えは簡単だ。
「いらないよー!」
どこの世界に高価な水晶を持ち歩いて嘘発見器に使うのだ。
信じられない! と突き返す。
「どうせ、売れとらんのじゃから、構わんのに」
残念そうに言われてしまった。
「そういう問題じゃないよ。第一、魔法袋からいちいち取り出していたら、そっちの方が目立つと思うけど」
使用する水晶は小さくても手のひらサイズなので、持ち歩くには不便だ。むろん、持ち歩く人もいるだろうが。
「そうかのう」
「大丈夫、身の潔白を証明する魔法を調べたから!」
昨夜の読書タイムは、分厚い魔法書の読破で大幅にオーバーしたが、おかげでようやく探し当てた。
「ええと、《光の精霊よ、我の言の葉に嘘偽りのないことを示したまえ、精霊の告白》……さっきの水晶は本当に必要ないよ……《告白終了》という風に使うと――」
説明している最中にキラキラと光の粒がシウの周りで舞い始めた。
「おお、綺麗じゃのう」
「うん。ホントだ。……こうやって光が発言者の周りを囲めば言葉や行動に嘘はなかったと証明されるんだって」
ただし。詠唱しないと相手に伝わらないため恥ずかしさを押して口に乗せないといけない。そして。
「これ、光属性のレベル四ないとだめなんだよね……」
ラエティティアの言葉を思い出すならば、各種揃っているのも異例ならば、属性レベルが四あるのも異例のようで。
「ようは面倒事に巻き込まれないようにするのが、一番じゃな」
「だよね……」
王都には図書館や市場があって、街並みも綺麗で楽しいことは多いが、面倒事も同じように多いと思う。
未成年の間は仕事を受けるにも不便なため、安定して生活できる王都は良いところだが、これはこれで苦労の多い場所でもある。
どちらにしても、今のところはひっそりと生きていくのがシウの目標となった。
念のため神様には「成人したら冒険するからね!」と寝る間際に告白しておくことは忘れない。
それから数日はギルドの依頼を受けて、週末は休むことにした。
本当は休むつもりはなかったのだが、エミナに働き続けなのがばれてしまって、怒られたのだ。
光の日は休養日、というのが基本的な考えなので普段お店をやっているところは週の最後に休みがある。
もっとも、都会ともなればそう簡単には行かず、飲食店や食糧店などは大抵交代制で回しているようだ。とはいえ、急な休みも出てくるし、忙しい時もあるだろう。
そこで冒険者ギルドなどに手伝いの依頼を出す。
こういったものはほとんどが十級ランクの仕事なので、受けるならシウのような見習いが多い。そして中央地区には見習いをやる子供は少ない。
必然的にシウがあちこち掛け持ちして働いていた。
が、エミナは、
「来週末は誕生祭でしょう? 屋台やるんでしょう? 忙しいのよ? 休みなしなのよ!」
と言って譲らない。
「えっと、でも、最後の日は休むから」
「疲れるって話をしてるの! あなた、一応まだ子供なんだからね!」
女性の怒る姿が、こんなに怖いと思ったことはなかった。
シウは、はい、と小さく答えて休むことにしたのだった。
その後、中央地区の店が困ったというような話も後から聞いたが、エミナに言わせるとちゃんと回せないのが問題なのだとプリプリ怒っていたので、そういうことなのだろう。
シウはといえば、やることもないので屋台のメニューを考えていた。
市場での仕入れはほとんど済ませている。
アナとも会えて、米もたくさん手に入れた。次はもち米が欲しいと言ってあって、小豆は手に入ったので、もち米が揃えばおはぎが可能だ。ぜんざいでもいい。夢はどこまでも広がった。
さて、そうして昔懐かしい食べ物を想像していたが、現在は若いシウである。
がっつりとした肉料理でも問題なく食べられるのは嬉しいことだった。
前世では魚料理が好きで、体が弱るとおかゆしか食べられないことも多かった。
転生してからは、育ての親が肉好きということもあって肉料理が多かったし、健康な胃はなんでも受け入れてくれる。
よって、前世で食べてみたかったものも、あれこれと作ってみた。
テレビで見た料理番組も役に立った。
あんなものを食べてみたいなあと思っていた。いくらかは食べてみたが、当時の自分では最後まで食べきれることはほとんどなかった。
今では年相応に、自分でもびっくりするぐらい、食欲旺盛だ。
「カツ丼もいいかな。岩猪がまだあるし。天ぷらはシルラルエビとイモに野菜のかき揚げ。ハンバーグはご飯の上には合わないかなあ。【ロコモコ丼】ってあったけど、どうだろ。唐揚げとポテト揚げは個別売りがいいな。あとはー」
シウの健康志向的には野菜をもっと売りたいのだが、屋台で野菜系は売れないそうなので難しい。
菓子も出す予定なので、飲み物として野菜スムージーも良いかもしれないと思ったが、これも売れなさそうで却下となった。
人参パンケーキとか、ホウレン草クッキーなどはどうだろう?
エミナに聞いてみた。
「若い女性なら、買うかも。あたしは美味しいのが分かってるから絶対買うけど」
「エミナさんにはあげるよ」
「ちゃんと買うわよ! なんだったら売り子だってしてあげようかと思ってるぐらいよ」
シウは苦笑して断った。
「いいよ、ドミトルさんとお祭り楽しんで。僕は屋台やるの楽しみだし、手伝ってもらうほど頑張るつもりないし」
そう? とエミナは心配そうだったが、本当にシウはただ、お米を売ってみようと思っただけだ。
こんなに美味しいものがあるよと教えたい。
最初にシウが作った料理を、美味しいと言って食べてくれたスタン爺さんやエミナの顔を思い出すと、自然と笑顔になる。嬉しかった。
もちろん、ついでにお小遣い稼ぎができたらいい。
今のところギルドの依頼だけでも充分に生活していけてるが、いつ何時お金が必要になるかも分からない。
ちょこちょこと稼いでおけば、安心だ。
そんなことを言うと、またエミナを心配させるので言わないけれど。
子供なのでよく周りに心配されるのだが、これでも育ての親が溜めていたお金をいくらかは譲り受けたし、王都に出るまでの間に何度か盗賊の財産をいただいている。
しかも最近は、シウが作った魔法袋の鞄が口コミでぼちぼち売れ出していた。
実は、エミナやドミトルよりよほどお金持ちなシウなのである。
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