033 高ランクパーティー
皆が黙り込んでしまった中、ラエティティアはにっこりと笑った。
「エルフの神の誓いにかけて、今のシウ=アクィラの話に嘘偽りはないと証言するわ」
皆がどよめいた。シウは本で知ったのだが、エルフの「神に誓う」という行為は、どのような証言よりも間違いがないことで有名らしい。
「そ、そんな、どうやって話を知ったのだ、お前はいなかったではないか!」
空気を読まない副執事が割って入ったが、ラエティティアは美しい顔で笑って答えた。
「彼が心配で、様子を見て聞いていたのよ。わたしには木の精霊がついているわ。それともエルフの言うことは信じられない? ならば、誓言魔法にかけられてもいいわよ」
希少スキルの誓言魔法は、誓った言葉に嘘があれば必ず知れる。「誓言魔法にかけられてもいい」というのは「命を賭けてもいい」との同義語だ。
これにより、セトは呆然としたまま、その場に崩れ落ちたのだった。
空気がどちらに傾いたのか、しっかり判断した厩舎長により、証言の裏付けがとれた。
レイトンはその場で副執事セトを解雇すると決めたが、腹を立てたラエティティアが、それでは許さなかった。彼女は覚えた通信魔法でキアヒに連絡を入れ、ギルドの担当職員を連れてきたのだ。しかも、来てくれたのはなんと誓言魔法を使える職員だった。更にシウを担当してくれた受付嬢もいる。彼等にここで起きたことを説明すると、二人とも、目を吊り上げて怒り始めた。
「これは、とても見逃せる話ではありません。誓言魔法の結果から見ても分かる通り、当会員の二人に嘘偽りはありませんでした。逆にそちらの方の話は嘘だらけ。また、その後の対応もよろしくない。これはギルドでも問題になります。ましてや、相手は冒険者見習いです。いいですか、彼はまだ子供なんですよ? きちんとした契約を結べない可能性のある未成年に対して、このような契約書を提示するなど、到底許せません」
「いえ、オベリオ家としては――」
「証拠がない、穏便にと言ったのでしょう?」
誓言魔法を持つギルド職員は自身の持つ魔法のせいか、とても真面目で正義感溢れる人のようだった。後は安心して任せられる。シウは安堵し、先に帰ることとなった。
一旦ギルドに来てほしいと言われたので、共に戻る道すがら、シウは受付嬢の名前を知った。
「クロエと言うのよ。よろしくね」
「はい。今回はご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「とんでもない。あなたが謝ることはないのよ」
「そうよ、シウ。悪いのはあちら側よ。あの人たちったら失礼で最低だったわ!」
ラエティティアは人間の格好、丸い耳に戻っている。クロエにはエルフだということが知られているが、ギルド職員には守秘義務があるので安心だ。シウのことで種族をバラす羽目になったので気になっていたが、クロエの人柄なら大丈夫だろう。
ギルドでは改めて聞き取りを行い、書類にサインをして終了した。
破かれた依頼書についてもギルドはかなり怒っており、ギルド本部長からの正式な抗議がオベリオ家へ届けられるようだ。
まだ時間もあったので、シウはラエティティアにお礼がてら、カフェへ誘った。
「迷惑かけてごめんね」
謝ると、彼女はいいのよと笑顔でウインクだ。ストーカーされてて良かった。
ところで、気になっていたのでシウは質問してみた。
「ティアは精霊を見ることができるんだよね? 精霊魔法というのはある?」
「精霊が見えるのはエルフの特性だからじゃないかしら。あ、でも見えない子もいたわね。それに、街で生まれたハーフエルフは全く見えないと聞いたことがあるから、どこまでが本当か分からないけれど。それと、精霊魔法というのは聞いたことがないわ」
「そうなんだ」
「あれば便利よね。召喚して呼び出すことも可能らしいけど、小さな精霊だし、できることって限られているわ。それよりもっと攻撃力のあるものが、いいわね」
「ティアは後衛なんだよね。弓だけで大丈夫?」
「だからパーティーに所属するのよ」
攻撃力の高いメンバーを思い出した。彼等とは持ちつ持たれつなのだ。
「ね、パーティーって、いいでしょう? 一緒にやりましょうよ」
シウが、「やです」と答えたら、彼女は「頑固ねえ」と笑う。
彼等がシウに望むのは、鑑定魔法だろう。レベルが五もあるとは知らないだろうが、人物鑑定までできるということは、罠の発見や見付けたアイテムなどの確認にはもってこいだ。
あとは、節約術のことを知っているから、知識も求められているのかもしれない。
付与が使えることも利点だろうか。
「シウの作ったパン、美味しかったのに」
「まさかの料理?」
「え?」
冒険者の食事事情が最悪なことは知っていた。が、料理専門として引き入れようとしているのだろうか。
「僕が参加するとして、大したことはできないよ?」
「あら、やる気になった?」
ラエティティアが前のめりになった。シウは苦笑して、ううんと首を横に振る。
「ただ、気になったから。どうして僕を誘うんだろうって」
「だって、能力高いじゃないの」
「そうかなあ。鑑定ぐらいじゃない?」
ラエティティアがにやりと笑う。
「基礎魔法の属性すべてを持っていて、しかも予想ではレベル四以上あるのよね? そこに鑑定魔法と、騎獣持ち。これだけあって謙遜されたら、普通の冒険者は裸足で逃げていくわね」
シウは目を見開いた。まさか基礎魔法のレベルまで当てられると思っていなかった。
「あら、それぐらいはわたしたちにだって分かるわよ。通信の下位魔法とはいえ、使える最低限の必要レベルは分かるもの。それにシウの教えてくれた勉強の内容からして、『自分で一度試した結果』だと考えて推定したら、おのずと答えは出るわ」
あー、と小さく呻いてテーブルに頭をごつんとぶつけた。肩の上にいたフェレスが、なになにどうしたの、とテーブルに降りてシウの髪の毛に顔を突っ込んでくる。
ざりざりと舐める舌を感じながら、シウは顔を横にした。
ラエティティアが嬉しそうに笑っていた。
「言っておきますけどね。一般人は基礎魔法のひとつも使えたら万々歳、高い能力を持つ人間でも三つや四つよ。冒険者だって同じ。たまにスキルやギフトを持つ者がいるけれど、百分の一にも満たないわ。いえ、千分の一かしらね」
「ということは、ティアたちのパーティーって――」
「自分たちで言うのもなんだけど、最高ランクへの最速パーティーって呼ばれてるのよ。今でランク五級。キアヒたちの年齢を考えたら異例なの」
ギルドで先輩方に教わったが、一級は勇者レベルだそうで、神懸っているから問題外。二級で上位竜が倒せるランク、ただし大人数のパーティーを組んで、という注釈付だった。そして三級や四級が、国やギルドから「お願い」されて討伐に出たりするランク。
ようするに五級は、普通の冒険者が目指せる最高ランクなのだ。
「まだまだ伸び代あるよね」
「そうよ。お買い得なパーティーなの。入っておいて損はないわ」
王都に出てきて人物鑑定をやっていたら、高レベルの人が多くいた。
都会だから上位者が集まっていたのだろう。シウは、それが当たり前だと思い込んでいたようだ。
「基礎魔法の属性全てを持っているなんて、滅多にないってことを知っておくべきね」
はい、と素直に頷く。彼女は優しく微笑んで、シウを見つめた。
「安心して。わたしたちは誰にも言わないから」
「ありがと」
「その代わり、勉強会よろしくね。簡略化を知ってすごく助かってるのよ。キアヒとキルヒも今、練習がてら依頼を受けているけれど、使い勝手が良いみたい。本当は、シウにパーティーへ入ってほしいけど。……成人してからでもいいわ。待ってるからね」
ラエティティアは満面の笑みでウインクし、残っていた紅茶を一気に飲み干した。
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