013 王都の冒険者ギルドと図書館
王都に着いた翌日、スタン爺さんはゆっくり休むというのでシウは早速、離れの部屋を片付け始めた。
以前にも居候がいたらしく、客人の長の逗留などでも使用していたようだ。荷物はそれほどなく、魔法が使えるシウは一日で片付けと掃除を終えてしまった。
夕方、エミナが来て「明日から手伝うよ!」と言われたが、もう終わってしまったので断った。落ち込んでいたので、魔法が使えるからと言い訳したのだが、彼女は魔法は簡単なものしか使えないらしく更に落ち込ませてしまった。
その翌日は、シウとエミナがメインとなって店の商品の片付けや、倉庫の整理などを行った。これを機会に本格的に跡取りとして鍛えていくそうで、スタン爺さんは口を出すだけだ。エミナの仕事を奪ってはいけないので、シウは重い荷物運びなどを主に行った。
数日経ち、店も落ち着いてきたようなので、シウは冒険者ギルドへ顔を出すことにした。スタン爺さんの護衛仕事の完了届を持っていくのだ。
ちなみに今回のお店の手伝いにまで賃金を渡されそうになり、慌てて固辞した。
シウには、旅の途中で出会った盗賊を返り討ちにした際の没収財産や、魔獣の剥ぎ取り素材を売ったお金がある。しばらく働かなくても暮らしていけるだけのものだ。そう説明してようやく、納得してくれた。
ところで、冒険者ギルドというのはロワイエ大陸全土に渡って存在するが、それぞれの国ごとに独立している。とはいえ、協力関係にあって、たとえばギルドカードの仕様などについては全く同じだ。また、銀行のようにお金を預かってくれる仕組みもギルドにはあったが、こちらは国ごとに管理しているそうだ。シウは空間庫を持っているのでお金を預けるということはないが、根無し草のような冒険者にとっては、有り難い仕組みである。
ロワルの冒険者ギルド本部は二箇所に分かれており、ひとつは大商人などが住む東上地区、もうひとつが中央地区にある。一般人や冒険者は中央地区のギルドを利用する。
他にも、西上地区、西中地区、西下地区、南上地区、南下地区と支部があって、こちらは王都に住む冒険者や、依頼をしたい庶民が利用するそうだ。
シウは中央地区の本部に顔を出してみた。ベリウス道具屋からは歩いて十五分ほどだから、かなり便利だ。
ギルドの建物は、本部ということもあって、四階建ての立派な石造りをしていた。並んでいる他の建物と比較しても遜色なく、むしろ重厚感がある。外から見ると、お堅い役所的な雰囲気だが、開け放した正面扉の向こう側は雑多な人々が行き交っており、賑やかだった。それに、外とは違って、内装は木製で温かみを感じる。
見回してみると、それぞれの窓口が分かりやすく大きな文字で案内書きされていた。中央に幾つもあるテーブルの上には、書類がきちんと整理されて置かれている。
また、職員らしき人々も『ご案内係』と書かれた腕章を付けていて、うろうろしている人間に近付いては声をかけていた。
シウも見るからに初見の客と思われたのだろう、早速駆け付けられてしまった。
「あら、若いわね。依頼かしら?」
正面に立つと、シウが思った以上に若いと気付いたようで、案内係の女性は首を傾げていた。依頼者としても若すぎないかと、考えているのがよく分かる。
シウは軽く会釈をして、
「初めまして。護衛の依頼の完了届を持ってきました。あちらの三番窓口でいいんですよね?」
そう指差すと、女性は目を見開いてから、慌てて三番窓口まで案内してくれた。
窓口に到着しても、まだ何か気になるのか離れない。シウが困った顔をして窓口の女性と案内係の女性を交互に見ると、さすがに越権だと気付いたようで離れて行った。
窓口の女性はベテランらしく、開口一番に、
「申し訳ありません。彼女、新人なもので張り切りすぎて」
と謝った。そして、担当業務の意味と守秘義務についてもう少し勉強させなきゃと、苦笑いだ。シウが、「大変ですね」と返したらベテラン女性はふふふと笑った。
彼女はすぐさま表情を切り替えて、シウの提出した書類を確認した。
「確かに受領しました。お支払方法は現金とお預りとございますが、どうされますか」
「現金でください。半分は金貨で、残りは銀貨にしてもらえますか」
「はい。では用意しますので、そちらでお待ちください」
近くの椅子を勧められた。まるで銀行のように、あちこちに椅子が用意されている。
今回の護衛料は金貨十四枚だった。かなり多めだと思ったのだが(なにしろ護衛らしき仕事をしていないので)、冒険者を護衛で頼んだ時の料金と変わらないそうだ。
庶民の収入の一日分が銀貨三枚だとすると、護衛仕事は最低で銀貨十枚分。そう考えると、若者が冒険者に憧れるのもよく分かる。これならば駆け出し騎士と同じぐらい稼げるか、あるいはもう少し上かもしれない。とはいえ護衛をやるには、例外はあるものの冒険者ランクが最低でも七級ないといけないし、そこに至るまでは長い道のりだ。休みなども自分で考えなければならない。経費のことなどを考えたら、冒険者というのは個人経営であり、自己管理ができる人間でないとやっていけないだろう。
今も、シウの座った椅子の正面には「『冒険者になるための基本』講座は別室三号にて開催中」と張り紙されていた。
シウは依頼料を受け取ると、本部の依頼には何があるのか気になって、見に行った。
同じ造りにすると決まっているのか、必ず依頼書は建物に入って右側の壁に貼られている。分かりやすくランクごと、仕事内容別に並べられており、便利だ。
更に本部は、地方のギルドと違って細分化されているから見やすい。それだけ量も多い。
掲示板の端には、先ほど見たような張り紙が並べて貼られている。毎日のように講座があったり、有料だが講習会もあるようだ。見習い向けのものも多い。
面白いなぁと思いながらシウが眺めていると、声をかけられた。
「講習を受けるなら、これがいいぜ」
二十歳過ぎの男性だ。その横から、同年代の女性が割り込んできた。
「こっちの方がいいわよ。あなた小柄だから、絶対護身術からやるべきよ」
「何言ってんだ、男なら剣術だろ」
「あんたバカじゃないの。どう見たってこの子は肉体系じゃないわ! 無理な鍛え方をして体を壊したらどうするのよ。だから護身なの」
「護身ってのは女のやることだぜ」
二人が喧嘩になったので、シウはそっと忍び足でその場を離れた。すると、依頼書を眺めていた四十代ほどの男性が声を掛けてきた。
「災難だったなあ、坊主。あいつら怪我で仕事ができなくて、講習会やって稼ごうとしてるんだよ」
「あ、そうなんですか」
「どう見たって、お前さん、まだ冒険者やれる年じゃねえのになあ。ましてや会費なんて払えないだろうに」
そう言うと、早く親のところに戻りなと、掲示板から追い払われた。
仕方なく、仕事を受けるのはまた今度にしようと、シウは素直にギルドを後にしたのだった。
次に行ったのは王立図書館だ。商人街と呼ばれたり内周壁街と呼ばれる二番目の壁の、内側にある。ここへは特に問題なく入れるので良かった。
ただ、大商人やお金持ちなどが多く住む場所だからか、警邏隊が多く見かけられた。
シウの身形は田舎から出てきた少年そのものだが、清潔にしていることや礼儀正しくしているせいか、特に声をかけられることはなかった。そんなことが気になるのも、冒険者らしき男が歩いていると、必ず警邏隊に声を掛けられていたからだ。やはり見た目は大事なのだろう。
さて、そうして街並みを眺めつつ、教えてもらっていた王立図書館へ辿り着いた。
シウの、王都まで出てくる理由の大半がここにあると言っても過言ではないので、緊張しながら足を踏み入れた。
中はひんやりとして、図書館らしい雰囲気だ。静かで清潔で、独特の匂いがする。
入ってすぐに受付があり、そこで利用料を支払うことになる。銀貨一枚分だ。しかし、本というのは貴重で、仕方ない部分もある。この世界では紙はまだ高価な部類だ。ギルドで使う用紙も低質紙である。ちょっと藁半紙に近くて懐かしく思ったものだ。そして本は、上質紙を使用する。
近年は、付与魔法を使って本の劣化を防ぐ処理を行っているそうだ。けれども、そう全部に付けられるものではないし、本が貴重なのに代わりはない。
そのため図書館では本の貸し出しも行っていない。知りたい情報があれば自分で紙を用意し、メモをして帰らねばならない。当然ながら本を汚すとペナルティがある。過失の割合が高ければ、買い直すための費用を要求されると、受付で説明された。
幸い、シウには記録庫という便利な魔法がある。本をそのままスキャンできるようなものなので、ひたすら読み込もうと楽しみに本棚を回り始めた。
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