【けものフレンズ】12.閑話

谺響

ぴくにっく

 黒セルリアン討伐後のお話。

 ゆうえんちを仮の縄張りとして腰を落ち着けたかばんちゃんたち。一団の中にはもちろん、あの二人の姿も。


「あれ?博士たちは帰らなくてもいいの?図書館に誰もいないと、みんな困るんじゃない?」


「問題ないのです。すぐにわれわれの知恵が必要になるのが、目に見えているのです」


「先を見越しての行動なのです。われわれはかしこいので」


「ふーん、そっかー」


 あっさりと納得したサーバルちゃんをよそに、博士たちはかばんちゃんを見上げて言います。


「われわれがここに残った理由はそれだけではありません」


「かばん。あの時の約束を果たすのです」


 真剣そのものの二人の眼差しにたじろぐかばんちゃん。


「えっ?約束……ですか?」


「そうなのです。われわれはまた料理を要求するのです」


「われわれは腹ペコなのです」


「それが本当の理由ー?!」


「あぁ、そんなことも言ってましたね。いいですよ。この近くにも調理場ってあるんですか?」


「その辺りはばっちりリサーチ済みなのです」


「ついてくるのです」


 博士たちに案内された屋外調理場で、かばんちゃんは以前やった手順を思い出しながら料理を作ります。


「今日の料理も美味しいのです。もぐもぐ」


「クセになるのです。んぐんぐ」


「たくさん作りましたから、どんどんお替りして下さいね」


「私は熱い食べ物はちょっと苦手かなー?」


「サーバルは猫舌なのです」


「というか、サーバルは止めておいた方がいいのです。ネコに玉ねぎは禁物、下手すると死んでしまうのです」


「えーっ?それ本当?」


「フレンズ化したことで多少は耐性ができているかもしれませんが」


「過信しない方がいいでしょう。さぁ、その皿を寄越すのです」


 しょんぼりしながらお皿を差し出すサーバルちゃん。


「サーバルちゃん。僕と一緒にジャパリまん食べよ?」


 翌日。昨日の料理はまだまだ残っています。それを一口食べるなり、博士たちのスプーンが止まります。


「二人ともどうかしたの?」


「かばん、料理に更に何か手を加えたのですか?」


「料理が更に美味しくなっているのです!」


「えっ?昨日の残りを温め直しただけですけれど?」


「でも確かに昨日よりも味わい深くなっているのです。もぐもぐ」


「これはいよいよ止められないのです。んぐんぐ。お替りなのです」


 嬉しい新発見にみんな驚きながら、その日のランチとディナーも賑やかで楽しいものになったのでした。


 3日目。料理はまだ残っています。しかし……


「あれ?二人とも食べないの?」


「食べたいのはやまやまなのですが」


「どうにも体が受け付けないのです」


「飽きちゃったんでしょうか?」


「そういう訳ではないと思うのですが……はむ」


「われわれにも分からないのです……あむ」


 スプーンの動きも今日はイマイチ元気がありません。


「ジャパリまんだったら、毎日食べても飽きないのにね」


「良かったら、何か別の料理を作りましょうか?」


「えー?そこまでする必要ないよ。そりゃ、料理を作れるのはかばんちゃんだけかもしれないけど。でも、カバも言ってたじゃない。自分のことは自分でするのがジャパリパークの掟だって」


「ほう……」


「ふむ……」


 二人の会話に、博士と助手も何か思いついたようです。


「サーバルのくせに良い所に気が付いたのです」


「褒めてやるのです」


「え?どういうこと?」


「われわれは別の料理を所望するのです」


「しかし料理をかばんにばかり要求するのも酷な話なのです。だったら……」


「だったら?」


「だったら、他のフレンズたちにも料理を覚えさせれば良いのです」


「一人一人が違う料理を覚えれば、それだけわれわれが食べられる料理の種類も増えるのです。料理当番なのです」


「えーっ?そこは自分たちで料理を覚えるぞー!ってところじゃないのー?」


「われわれの頭脳はそんなことに使う余地はないのです」


「そのような作業は他の者に任せるのです。われわれは長なので」


 平然と言ってのける博士と助手。しかし料理ができる者のことはないがしろにはしません。


「しかし文字を読めるのはかばんだけなのです」


「本を読んでフレンズたちに料理の手解きをするのは結局かばんの役目になるのですが、やるですか?」


「はい。僕にできることでしたら、ぜひ」


 頼まれれば快く引き受けるのがかばんちゃんです。


「では早速、暇そうにしている奴らを連れてくるのです」


「かばんは今のうちに料理の本を読んで、フレンズにも作れそうな料理を見繕っておくのです」


 ごちそうさまもそこそこに、博士たちは次代の料理人を探しに飛び立って行ったのでした。

 それから数日はかばんちゃんのお料理教室が続きました。遠巻きに見守るサーバルちゃん。博士と助手はもちろん、味見係。たくさんのフレンズたちが料理に挑戦しましたが、ここでは割愛。


 そんなある朝のこと。


「おはよう、かばんちゃん。今日もいい天気だよ!」


「うん、おはよう。サーバルちゃんは今日も元気だね」


「任せて!それでね、こんなにいいお天気だから、今日はピクニックに行く、ってのはどうかな?」


「え、でも今日は確かヒグマさんに料理を……」


 朝からテンション高めのサーバルちゃんにたじたじのかばんちゃん。助けを求めようと博士たちの方を見ますが、二人は眠そうで、うっとうしそうにしています。


「寝入り端にうるさいのです」


「行くならとっとと行くのです。われわれは眠いのです」


「はい、けってーい!行こ行こ」


 何だか強引なサーバルちゃんに背中を押され、戸惑いながらもかばんちゃんもお出かけの準備をするのでした。

 お出掛けと言っても特に目的地はありません。日当たりのよい丘、ヘンな形の岩、歩きやすそうな道。その時の気分次第で進んでいきます。


「こうして二人で歩くのって、何だか久し振りだね」


「あ……最近はお料理教室ばっかりだったから……一緒に遊べなくてごめんね?」


 サーバルちゃんが強引だった理由を何となく察したかばんちゃんでしたが、サーバルちゃんは笑顔のまま首を振ります。


「ううん、へーきへーき」


 木立ちが途切れ、少し開けた場所に出たところで、二人は声を上げます。


「うわぁ!こんな所に出るんだ」


 森の外れに立つ一本の大木。その傍らに転がるバスの運転席。そこはあのセルリアンと戦った場所でした。


「あの時はほんと、大変だったよね~」


「もう、あんな危ないことはしないで下さいね?」


「かばんちゃんこそ」


 そう言って二人見つめ合えば笑いが零れます。


「ちょうどいいから、ここでお昼にしよっか?私ね、お弁当用意して来たの!」


 サーバルちゃんは取り出したジャパリまんの包みを一つ、かばんちゃんに手渡します。


「準備がいいですね。それじゃ、頂きます。わぁっ」


 包みを開けたかばんちゃんが驚いたのも無理はありません。中から出てきたのは大きな大きなおむすびでした。


「これ、サーバルちゃんが作ったの?すごいや!」


「えへへー。私にも何か作れないかなー、って思って博士たちに相談したの。そうしたら、これなら作れるんじゃないか、って。お米で好きな物を包んで形を整えるだけだから、私にもなんとかできたよ」


「お米を炊くのだって大変だったでしょ?」


「炊き方はかばんちゃんがやってるのを見て博士たちが覚えていたから、一緒にやってもらったの。でもね、やっぱり二人とも火はおっかないみたいで――」


 穏やかな日差しの下、二人の笑い声はいつまでも続くのでした。

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