第6話 海事研修

 今日は会社の「新人教育実習」といことで瀬戸内海の島に「海事研修」にやってきた。

「何やるんだろう?」

「そりゃあカッター漕ぎだろう」「地引網もやるんじゃない」

「花火とかもやるのかな」

「そりゃあ小学生だろう」仲の良いメンバーが笑った。

 渡船で島に着くと、のどかな風景が広がっていた。

「コンビニあるのかなー」「多分ないな」

 研修予定表が貼り出されていた。

 昼食後は予想通りの「カッター漕ぎ」となっていた。

 海事研修の目的は、「協力と友情と鍛錬」である。

 正にカッター漕ぎは「鍛錬と協力」そして「結束と友情」が芽生えた。


 夜の自由時間になって仲の良いメンバー5人が「浜辺に行ってみよう」ということになり歩き出した。

 館長からあの浜辺に行くと面白いものが見えるぞと謎めいた言葉を貰ったのである。

 空には綺麗な星が瞬いていた。今日は新月の三日月なので足元がかなり暗い。

 それでも松林を通り抜け浜辺へと出た。

「面白いものって何だろう?」「さあな、アベックでもいるんじゃなのか」

「それを覗き見する?」

「さあな、まあ暫く様子をみよう」

 しかし10分ほどしても何も起こらない。

「なあ、何も起こらないし見えないし。折角ここまで来たんだから何かするか?」

「そうだな怪談話ってどうかな、だれが一番怖がるか」

「何か盛り上がらんなー、それに何かここ気味悪いぞ」

「お前は怖がりだな。図体だけはでかいけど」

「ほっとけ。怪談よりも相撲でもしようや」

「俺に勝ったら明日の夜はおごるぜ。でも俺が勝ったら回転寿司食べ放題をお前達が支う。どうだ?」

「おーー、おもしろいじゃないか。よーーし、それじゃ俺からだ」

 5人の中では一番身体の大きな男と一番小柄な男が対決した。

「見合って見合って、はっけいよーいのこった!」

 勝負はあっけなくついた。やはり体格には勝てない。

 続けて3人が挑んだがあっけなく敗れてしまった。

「あーあ、こんな勝負しなきゃよかった」

「約束は約束だから明日はよろしく!」

 暫く息を整えようと寝転がって星空を眺めていると、

「ザクッ、ザクッ、ザクッ」と奇妙な音が聞こえてきた。

「おい!誰だ!どこかのグループか?」

 音がする暗闇の方向を5人の瞳で凝視した。

 するとその先には、とめてあった無人の「カッター」が海に向かって動き出したのだ。

「おいっ!何で動いてんだよ!誰が動かしているんだよ!」と大柄の男が声を震わせながら叫んだ。

「幽霊だ!幽霊が取り憑いているんだ!!」

 カッターは波際まで運ばれ、オールが回転し始めた。

 腰が抜けたようになった5人は声も出ず、ただその行方を追っていた。

 その時、カッターの上で篝火(かがりび)が突如として燃え上がった。

 そして前と後ろの者が「赤旗」を掲げた。

「あれは平家だ!平家の家紋『蝶紋』だ!あれは平家の亡霊だ!!」


 5人は必死の思いで宿舎へと辿り着いた。すると玄関先で待ち構えていた男が

「何をしておった!お前達はおめおめと逃げ帰ったきたのか!そんな腰抜けどもはもう一度鍛え直さんとだめじゃ!」

 赤い兜と鎧をまとった「平野清盛(ひらのきよもり)」館長が言い放った。

 これは毎年恒例の研修施設スタッフによる「肝試し」であった。スタッフ達は黒子の様な出で立ちで暗闇に紛れていたのである。

 この「肝試し」に選ばれるのは平野館長の目に留まった「敵対者」であり、「行儀の悪い」者たちへお灸を据える習わしになっていた。

 そして聞いた話によると、平野館長は「平家」の末裔だったそうである。やはり館長には「平家の怨念」が取り憑いているのだ。

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短めに第2集 冬野 周一 @tono_shuichi

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