波乱の始業式 後
「さて、行くか!」
「行くってどこに?」
「そんなん決まってんだろ!あのバカ貴族にお灸をすえてやる!俺の妹を泣かせたらどうなるか……たっぷり教えてやるよ」
啖呵を切って、ズカズカと前に進む俺に対して、白季は首襟を引っ張り冷ややかに言った。
「それは無理です」
余りにもキッパリと言い切った妹に、少し戸惑いながら聞いた。
「なんで?」
白季はさっきと態度を急変させて、ため息をつく。
「いい?この世界は私達が元いた場所とは違う……この制服がダメージを軽減させてくれるとはいえ、リミックで斬られれば痛い。制服の効果が切れれば死ぬことだってあります……!」
白季は徐に窓を開けて、校庭を覗く。
校庭では今まさに生徒達が、リミックでの戦闘を行っている真っ最中だった。一人はタガー、もう一人は弓。タガーを持っている生徒の肩には矢が刺さっている。
俺はそれを見て、身体の血がヒヤリと冷たくなる。
「それに、兄さんがあいつに勝てる可能性は極めて低いです」
そう言って、胸にある校章を軽く触れる。すると、淡い光が徐々に形を形成していく。
そして、映し出されたのは人の名前らしきものと、ポイントだった。
「これは学園の……言わば、成績表みたいなものです。ランキングが高ければ高い程、成績優秀ってこと……」
白季はスマホを操作するように、下にスクロールしていく。ポリゴン状の画面は勢いよく動き、ランキングは序数にならい段々高くなっていく。 それにつれてポイントも千、万と上がっていく。
そして、画面に収まるTOP10。つまり、成績優秀者上位十名が映し出される。
その一番下にあいつの名前があった。
「アルバロ……ッ!」
「このランキングはこの学園だけですが、それでも千を超える生徒の十位です。流石に兄さんとは格が違います」
よく分からないが、確かにそうなんだろう。格が違うのは分かるけど、そう正面から言われるとムカッとくる。
「だとしても、勝機が無いわけじゃないだろ?」
「はっきり言って……無いです」
俺のメンタルにトドメを刺された。
膝から崩れ落ちる俺を見て、白季はまたため息をついた。
「とはいえ、私も黙ってやられる訳にはいかない…」
そのボソリと呟いた言葉を聞いて、意気消沈していた俺の心にも再び火が灯る。
「スピーチが始まる時間は何時からだ?」
「八時半からです。あと一時間後です」
「よし!あいつを探すぞ!」
俺と白季はアルバロに復讐する事を誓い、少しの作戦会議をした後に走り出した。
「あいつの行きそうな所に当てはあるか?」
「基本、学校行事は生徒主導なのでスピーチをするとなると大聖堂の可能性が高いです。始業式はそこでやるので……」
「なら、始業式が始まる前に行くぞ!」
そして、俺はポケットの中に入っている生徒手帳を取り出して、この学園の範囲を確認する。
今居る教室棟から大聖堂まではかなりの距離があった。
(距離的に掛かる時間は30分って所か。どうにか間に合ってくれよ……ッ!)
無我夢中に走り出し、大聖堂までの道のりを時折ショートカットしつつ、新調された制服も切り傷や解れてしまったが、どうにか大聖堂の門の前まで時間内に辿り着いた。
「さて、一発かましてやろうかな……」
不安ながらもそう息巻いている一希に対し、こちらも不安そうに兄を見つめる白季。
それを察した一希は、白季の頭をそっと撫でてやる。
「まぁ、心配すんなって無理はしないから」
「本当に無理はしないでくださいよ?」
一希は「あぁ」と頷き、片手で大聖堂の門をゆっくりと押す。年季が入った門なのか、中々に渋い音を立てて開いていく。
門が開き、まだ誰も居ないであろう大聖堂のステージに人影が一つ。
一希はその人影と目を合わせ、言った。
「さぁーて、一発殴らせて貰おうかッ!」
異世界転生したら妹がおかし可愛くなっていた 黒井黒 @kuro0912
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