第11話 レナ先生のおっぱいは巨乳を愛する僕の対象であるが先生に恋愛感情なんかないんだからねっ!

 放課後の保健室に、ベッドのギシギシときしむ音が響く。

「アッ、アァン♪ そ、そこ。もっと激しくして~」

「こ、こうですか?」

「アッ、アン♪ アァン♪ 有島君の固いのがゴリゴリ当たって、気持ちい~♪」

 怜奈先生が悩ましげな声を上げながら、体をくねらせる。

「先生、変な声出さないでください。あと、遠まわしで卑猥な比喩表現もやめてください。ゲンコツでマッサージしてるだけなんですからっ」

「もう、有島君のH。思春期の男の子は想像力豊かね。なんでも卑猥な方向に結びつけちゃうんだから」

 その言葉、怜奈先生にそのままお返しします。

「狩野君、大丈夫でしょうか?」

「あの様子なら平気よ。今頃、先輩たちをバンバン投げ飛ばしているんじゃないかしら」

 狩野君は今日から柔道部に復帰した。

 昨日、怜奈先生とけいこしたことですっかり自信を取り戻したのだ。

 さすがの怜奈先生も超高校級柔道部の狩野君の相手は大変だったらしく、疲労の溜まった体をこうして僕がマッサージしているわけだ。最初は断ったんだけど、結局ほぼ強制的に……。

 どうせなら、この特大おっぱいをマッサージさせてくれればいいのに……。

「うーん、だいぶ楽になったわ。軽くなった感じ。有島君、ありがとう」

 ベッドから起き上がった先生が伸びをして、ニッコリと笑った。

「どういたしまして。それにしても石井先生と美里さん、遅いですね」

 校医の石井先生と看護士の美里さんは、教頭先生に呼ばれて保健室を留守にしている。授業終了後、教室にやってきた美里さんに捕まり「昨日つきあってあげたんだから、今度はあんた達の番よ」と言われ、保健室につれて来られた僕と怜奈先生は留守番をしているというわけだ。

「まだ戻ってこないみたいだから、今度は私がマッサージしてあげる♪」

「い、いえ。丁重にお断りします」

 ニヤリと笑う怜奈先生の表情にとても嫌な予感しかしなくて、思わず後ずさりした。

「ちょっと、なんで逃げるのよ。凝ってるところ、あるでしょ?」

「ありません。どこもかしこも軟体動物並みに柔らかです」

「ホントに? じゃあ、先生が調べてあげる♪ ズボン脱いで」

「脱ぎませんっ! どんなマッサージだよ!」

 僕のズボンに手をかける怜奈先生を振り払う。

「それはもちろん、Jカップのおっぱいを有効利用するマッサージ♪ テヘ」

「テヘじゃねーよっ! おっぱい使うなよ!」

「そう、遠慮しないで。さあさあ」

 僕と怜奈先生のおっぱいマッサージ攻防戦が繰り広げられる中、保健室の扉が急に開いた。

「失礼しまーす。えっ……」

 保健室に足を一歩踏み入れたクラスメイトの小田君が固まった。

「あら、小田君。調度いいところに来たわね。良かったら私たちと3Pしない?」

「……失礼しました」

「小田君、ちょっと待ってー!」

 保健室での出来事を見なかったことにして立ち去ろうとする小田君を、何とか呼び戻した。

 ふう。

 危うく誤解されるところだった。

「体調が悪いの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

 石井先生の椅子に腰掛けた怜奈先生が、長くてキレイな足を組み替えながら尋ねる。

 白くてムッチリした太ももを露出させるミニのタイトスカートは、パンティーが見えそうなくらいきわどい三角ゾーンを形成している。

「じゃ、先生が診察します。まずはズボンを脱いで――」

「なんでだよっ!」

「保健室で繰り広げられる、生徒と教師のいけない関係は定番かなあって。テヘ」

 テヘじゃねーよ!

 怜奈先生の冗談は、本気と見分けがつかないのでやめてください。

「あの、看護士の美里さんは?」

「今、美里も石井先生も用事で教頭室に行っているの。もうすぐ戻って来ると思うけれど」

「……オレ、出直します」

 小さな声で言うと、小田君は椅子から立ち上がった。

「そう、分かったわ。美里には小田君が来たことを伝えておいてもいいかしら?」

「えっ? あ、はい。お願いします。では、失礼します」

 少し戸惑った表情で答えた小田君は丁寧にあいさつして、保健室をあとにした。

 小田君が美里さんに話ってなんだったんだろう?

 体調に何か不安なことでもあるのかな?

 でも、そういうことなら石井先生に相談するだろうし。

 もしかして、美里さんのバストサイズが気になって直接聞きに来たのか!?

 そうだとしたら、その勇気とおっぱい愛にリスペクトするけれど、まずありえないよね。

「有島君、あまり詮索しちゃダメよ」

「えっ?」

「今、小田君のこと考えていたでしょう? 有島君は考え事をするとき、あごを触るから分かるのよ。今のところ、小田君の学校生活に目立った変化は見られないし、さっきの表情を見ても思いつめているという様子は見られないから心配ないわ」

 びっくりした。

 怜奈先生は本当によく生徒一人ひとりを見つめてくれていることを知り、胸がジーンと温かくなった。

「そうですよね。怜奈先生はみんなのこと、よく分かってますからね」

「ええ、そうよ。常に生徒への気配りを怠らないことが、生徒の人間性を理解する大事な道のりなの。ちなみに有島君の場合、先生のおっぱいに視線を送る時間が長い日は異常なし、短い日は考え事をしているか体調の優れないときね」

 僕、おっぱい見る時間基準で判断されていたんですか……。

 間違いじゃないだけに、反論できないもどかしさ。

「お待たせしてすまなかったね」

「あんた達、ちゃんと留守番してたー?」

 校医の石井先生と美里さんが戻ってきた。

「寂しかったよー、美里ちゃーん」

「キャッ!」

 おどけて怜奈先生が美里さんに飛びつく。

 ナース服に包まれたGカップの巨乳に顔を押しつけパフパフすると、美里さんの怒りの鉄拳が怜奈先生の頭上に炸裂した。

「いったーい! 何するのよ、美里」

「あんたが、何すんじゃい!」

 2人の漫才みたいな掛け合いを見て、石井先生が豪快に笑い出す。

 倫理館高校の保健室は今日も平和である。


 1週間の中で一番大好きな曜日は? と聞かれたら、僕は「金曜日」と即答する。

 理由は1つ。土日という休日が控えているから。

 決して学校が嫌いというわけではない。中学の頃は、ただ事務的に学校生活を消化していた。面倒な人間関係を構築するのが嫌いな僕は3年間を孤立して過ごし、どんなに毎日が無機質でも、中学生活は義務教育という意味において必要不可欠と心の中で受け入れたのだ。

 そんな僕も、高校に入学して少しずつ変わり始めた。

 まず、担任の国語教師、怜奈先生に出会ったこと。

 先生は一流国立大卒で頭脳明晰な上、教師として非常に優秀である。

 しかも、美人で巨乳のナイスバディだ。

 定期テストや、大学受験までも意識した実践的な授業はとても分かりやすく、その上国語が苦手な生徒を置き去りにはしない。

 決して成績優秀者向けではなく、全員参加型の授業はとても面白く、先生の雑談や下ネタを交えた話は生徒たちを飽きさせないのだ。

 そして、こんな僕にも友達ができたこと。

 軽音部の阿川君とサッカー部の小木君、クラスの中心的存在の2人となぜか仲良くなった僕は、比較的自然な形でクラスに馴染んでいる。

 今でも自分から積極的に声をかけたりすることはないけれど、クラスメイトとは普通に話す機会も増え、今では料理と巨乳を愛する求道者として認識されている。

 おかげさまで、下ネタと食べ物ネタには事欠かない毎日を過ごしている。

 そういうわけで、僕は怜奈先生や友達、クラスメイトたちとかなり普通っぽい高校生活を送っている。

「はい、お待たせ。どうぞ召し上がって」

「おー! 超うまそー」

「いただきます」

 小木君と阿川君が親子丼を口に運ぶ。

「うんめー!」

「おいいしいです」

「そう、良かった。おかわりあるから、たくさん食べてね」

 母さんは嬉しそうに微笑んだ。

 今日は日曜日、阿川君と小木君がうちに遊びに来て一緒に昼食を食べている。

 家に友達を連れてくるのは初めてのことで、母さんはびっくりすると同時にとても喜んだ。

 普段忙しくて料理をしない母さんも今日は2人をもてなすため、一生懸命に昼ごはんを用意してくれたのだ。

「おばさんの親子丼、マジやばいっす」

「すごくおいしいです」

「ホント? どうもありがとう」

 料理を褒められ、母さんも嬉しそうだ。

「いいなー翔平は。こんな若くてキレイな母ちゃんで。うちなんか、普通のオバちゃんだぜ。しかも太ってるし」

「ホント、ビックリしたよ」

「そう? でも、貧乳だよ」

「おいコラッ! その口、取り外してやろうか?」

「イテテテ! ご、ごめんなさい」

 母さんにギュっと頬をつねられ、グイグイ引っ張られた。

 阿川君と小木君が笑い出す。

「あら、やだ。ごめんなさいね。ホホホホ」

 母さん、今さら上品なふりをしたって無駄です。

 父さんが11年前に事故で死んでから、母さんは1人で僕を育ててくれた。

 毎日仕事で疲れて帰ってくる母さんのために、僕は少しでも力になろうと家事をやり始めた。そんなわけで、普段の食事は基本的に僕が作っている。

 母さんは20歳のとき僕を出産したから、周囲の同級生の母親と比較するととても若い。

 子供の僕からすると、どこにでもいる普通のオバサンだし分からないのだけれど、どうやら母さんは美人らしい。

 小学生のころから、母さんが授業参観に来ると教室中が大騒ぎになった。

「あれ、誰の母ちゃん?」

「すっげー美人」

「すごい若い」

 そんな賛美の声がよく飛び交ったものだ。

 後日、それが僕の母さんであることが判明し、僕には『母ちゃんが美人のヤツ』という呼び名がつけられるのだ。

 母親を褒められるのは悪い気はしないし、微妙な呼び名をつけられるのも気にしないのだけれど、母さんが学校行事にくるたびに目立って、周囲がざわつくことがたまらなく嫌だった。

 クラスで孤立して生きてきた僕にとって、一時的にも注目の的になるということが耐えられなかったのだ。

 中学2年のとき「もう学校には来ないで欲しい」頼んだら、母さんにボコボコにされた。

 母さんは清楚な見た目と違って、けっこう気性が荒い。怒るとすぐに手が出るタイプだ。

 僕をさんざん殴ったあと、母さんは台所で泣きじゃくっていた。

 気性が荒いくせに、かなり涙もろくてすぐに泣く。

 当時は、泣きたいのはこっちの方だ! なんて思ったけれど、すごくひどいことを言ってしまったと反省している。

 あのとき以来、母さんは学校行事に顔を出さなくなった。

「そういや来月、授業参観じゃね?」

「そうだね。怜奈先生、大丈夫かなあ?」

「先生に何か問題でもあるの?」

 小木君と阿川君の話に反応した母さんが尋ねる。

「いや、いい先生なんすよ。授業も分かりやすいし、優しいし。何より生徒に慕われてますから」

「それなら問題は無いんじゃない?」

「ちょっと、服装が露出度高めと言いますか……」

 阿川君が言いにくそうに言葉を濁した。

「人は見た目じゃないわよ。それに先生も社会人だから、時と場に応じて服装も変えるんじゃないかな?」

「なるほどー。確かにそうかも。良かったな、翔平」

 小木君がいきなり僕にふるものだから、思わずお茶を吹き出してしまった。

「ちょっと、なにやってんの。もう」

 母さんが布巾でテーブルを拭く。

 咳き込む僕の背中を阿川君がさすってくれた。

 まったくもって何一つ後ろめたいことは無いとうのに、母さんの前で怜奈先生の話をされるというのは、なぜか非常に気まずい心境にさせられる。

 やっぱりあれか?

 怜奈先生のおっぱいをチラ見しているからか?

 いけない妄想をめぐらせているからか?


 阿川君と小木君が帰ったあと、台所で後片付けをする母さんの手伝いをした。

 めずらしく母さんは鼻歌を歌っている。

 家に僕の友達が来たことが、よほど嬉しかったのだろう。

「母さん、ありがとう」

「ん? 今日、母の日だっけ?」

「いや、違うから」

「分かってるわよ」

 母さんは食器を洗いながら笑っている。

「あのさ、中学のころ学校に来ないでなんて言ってゴメン」

「そんなこと、あったっけー?」

「来月、授業参観なんだ。また、もらったらプリント渡すから、来てくれる?」

「仕事の都合がつけばね」

 母さんの返事は意外にそっけないものだった。

 母さんは僕に気を使っているとき、こういう態度をとる。

「あ、でも翔平が思いを寄せる怜奈先生には是非、会いたいわね。将来、お嫁さんになるかも知れないし」

「はっ!? な、なな、何言ってんの? 意味分かんないし」

「翔平がトイレ行ってるとき、2人が教えてくれたわよ」

 あいつら、母さんになんてことを……。

「それは違うんだって! 僕はただ、純粋な善意で先生のことを手助けしてるだけで。先生に頼まれることだってあるし」

「純粋な善意の子が、おっぱいチラ見しないでしょう。怜奈先生、巨乳らしいじゃない? あんまりおっぱいばかり見てると、嫌われちゃうわよー」

「グッ、フングググググッ。ぬおおおおーーー」

 恥ずかしさのあまり、雄叫びを上げてごまかしながら、僕は走って自分の部屋へ逃げ込んだ。

 母親に、この手の話をふられるとこの上なく恥ずかしい気持ちになるのはなぜだろう?

 普段から巨乳が好きであることを公言している僕が、怜奈先生の名前を出されたとたんその場にいられなくなってしまった。

 別に恋愛感情なんか無いんだからねっ!

 ベッドに入って布団をかぶり、ツンデレ風に心の中で呟いてみたら心なしか落ち着いた。

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