第9話 レナ先生が着ると柔道着がエロい服装に見えてしまう

 そこは厳かな風格をかもし出す、まるで武家屋敷のような建物だった。建物自体はとても古い木造建築で時代錯誤にも感じられるのだが、妙な懐かしさを感じて不思議と心が落ち着いた。

 建物の入り口には、『柔道場和合会』という毛筆で達筆にしたためられた看板が掲げられていた。

「ここよ。さあ、入って」

「はい。失礼します」

 門を通り抜け、怜奈先生のあとについて道場に入る。

 道場内はキレイに掃除が行き届いていて整然としていた。

 広さは学校の柔道場と同じくらいだ。

 道場の壁には、門下生の名札がやはり達筆な字で書かれて並んでいる。

「はい、有島君も着替えてきて。男子更衣室は右側よ」

「あ、ありがとうございます」

 怜奈先生に柔道着を手渡され、更衣室で着替える。

 柔道なんて、中学の体育以来だな。

 はっきり言って体育の柔道にいい思い出なんて無い。

 体も細くて筋力の無い僕は体育の柔道の時間、まさしく最弱の男だった。

 あまりにも簡単に投げ飛ばされるものだから、体育の担当教師が技の解説をするたび、いつも僕を指名したくらいだ。

 その代わり、受身はずいぶんと上達した。「有島は、これでいつ投げ飛ばされてもケガすることは無いな」と体育教師は一件落着的なノリでまとめていたけど、そうそう投げ飛ばされる機会なんかあるわけねーだろ! そう心の中でキレのあるツッコミを入れたことを鮮明に記憶している。

「お待たせー。じゃ、まずはしっかり準備運動しましょう」

 着替えを終えた怜奈先生が更衣室から出てきた。

 相変わらずの規格外の巨乳は、柔道着でもその膨らみは激しく自己主張するかのように目立っている。

 まるで格闘ゲームの巨乳ヒロインみたいだ。

 怜奈先生の柔道着姿は、はっきり言ってコスプレにしか見えない……。

 準備運動の最中も、先生のおっぱいがやたらとプルプル揺れまくるものだから、危うく股間に血液が集中するところだった。

「失礼しまーす」

 道場の扉がガラガラと音を立てて開き、1人の女性が入ってきた。

 セミロングの栗色の髪、そして可愛らしい幼顔。小柄で細い体に不釣合いな大きいバスト。

 彼女が看護士の美里さんだと分かるまで、少し時間がかかった。

 私服で髪を下ろしていると、かなり雰囲気が違う。

 ナース服姿のときよりさらに若く見える。

「美里、来てくれてありがとね」

「何で美里さんが?」

「有島君がケガしたとき、美里に診てもらおうと思ってね。これで準備万端だから安心よ」

 安心じゃねーよ! ケガさせる気満々かいっ!

「いやー、懐かしいな。ここ、全然変わってないね」

 美里さんが道場を見回しながら、感慨深そうに言った。

「美里さんも柔道やってたんですか?」

「高校のときね。怜奈に強引に誘われて。私はすごく弱かったんだけどね」

 美里さんが苦笑いする。

 怜奈先生の強引な性格は、高校時代から変わっていないようだ。

「では、始めましょう。乱取り形式でいくわよ。有島君、遠慮しないで思いっきり技をかけてきなさい。私も思いっきりいくわ」

 初心者相手にちょっとは遠慮しましょうよ……。

 先生と向かい合い、礼をしてから乱取りけいこをスタートした。

 身長167センチの怜奈先生に対して僕の身長は165。体重は僕のほうが10キロ以上重いはず。いくら柔道経験者とは言え、所詮は女性。体重と筋力から考えれば、僕のほうが有利……なんてことは全く無かった。

 先生の足技のキレは本当にすごくて、僕が足を払おうと動いた瞬間、逆に払われ投げられていた。

 いつ投げられたのか分からないくらいの俊敏さで、力押しでいこうとする僕に対して怜奈先生の技は、まさしく柔よく剛を制すといった感じだ。

 出足払いから始まり、大外刈に大内刈、そして内股といった足技が繰り出され、僕はひたすら投げられ続けた。

 下手に攻めようとすれば逆に崩され、あっという間に投げられてしまう。

 ここはひとまず防御に徹して、攻めるチャンスをうかがうことにしよう。

 重心を低く保って先生の崩しを必死に防ぐ。

 これまでの先生の投げは全てが足技だ。注意していれば、僕でも何とか凌げるはず。

 読み通り足技に注意をしたこと、そして防御に専念したことによって、先生はさっきまでのように簡単には技が決まらなくなった。

「くっ……どうしたの有島君。防戦一方じゃない。それでは私を投げられないわよ」

「先生を投げることは出来ませんが、僕が投げられることもありませんので」

「ずいぶんと消極的ね。自分から行動しなきゃ道は開かれないわよ」

 僕が消極的なのは認めるけれど、先生は問題行動が多いし胸元開きすぎだと思います。

「チャンスを待つのも行動のうちなんですよっ! そりゃあ!」

「ぐっ。今のはなかなか良かったわ。でも、その程度の足払いじゃ私は投げられないわよ。えいっ!」

 僕の渾身の足払いを防いだ先生が、豪快な背負い投げを繰り出す。

 僕の体は一瞬のうちに畳に叩きつけられていた。

「クソー。うまくいったと思ったのにー」

「ふっふっふ。まだまだ修行が足りん」

 先生が腰に手をあて、声色を変えて言った。

 修行もなにも、柔道は中学の体育以来なんだけどね……。

「ちょっとは手加減してあげればー? 有島君、怜奈の道楽に付き合ってくれてるんだから」

「これは、遊びじゃないんだからね。本気でやらなきゃ意味ないの。まったく、失礼なんだから」

 道場の隅で見ていた美里さんが声をかけると、怜奈先生はすねた様な表情でプイッと顔をそむけた。

 先生は美里さんが一緒にいると、まるで学生のように見える。話し方とか素振りとか、女子高生が仲の良い友達と過ごすひと時みたいに、すごく楽しそうに見える。

「有島くーん、一回休憩すればー? 怜奈は体力バカだから、いつまでたっても止めないわよー」

「まだまだ平気です。それに、こんな風に運動するの久しぶりなんで。投げられても気持ちいいですから」

「有島君……やっぱり変態は違うわね。投げられることに快感を覚えるなんて……」

 そういう意味じゃねー!

「さあ、続けましょう。有島君、私からまだ1本も取ってないわよ」

「これから取りますよっ」

 再び先生と組み合った。

 乱取りけいこを開始してすでに30分が経過している。

 日ごろ運動をまったくしていない僕は、正直もうヘロへロに疲れきっていた。

 こんなに汗をかいたのは久しぶりで喉もすごく渇いていたけれど、目の前の真剣な表情の怜奈先生を見ていると、不思議ともう少し頑張ろうという気持ちが湧いてくるのだ。

 先生の息遣いも荒くなっている。汗だってたくさんかいて、柔道着の下に着用しているTシャツもビッショリと濡れている。

 濡れたTシャツが肌にピッタリ張り付いて、形の良い巨乳がくっきり分かるくらいだ。

 ん? おっぱいの先端に透けて見える突起物が2つ……。

 ち、ちっ、乳首じゃないかっ!

 何で先生ノーブラなのっ!?

「ハア、ハア、ハア……」

 すぐそばで、先生の苦しそうな息遣いが聞こえる。

 先生が体をさばくたび、Tシャツの布地のピッタリ張り付いたJカップがブルンブルンと激しく揺れる。

 薄ピンク色の乳首が透け、ほぼ裸同然のおっぱいを目の前に、僕の股間は熱を帯び始めていた。

 先生の襟を掴んだ手が、たびたび巨乳にムニュッと当たる。

 柔らかい!

「ええいっ!」

 おっぱいに気を取られている隙に、先生が足技をしかけてきた。

 投げられずに踏みとどまったものの、よろけて畳に倒れこんだ。

「わっ!」

 倒れた僕に先生がすかさず寝技をかける。

 完全に固められて身動きが取れない。

 く、苦しい……。

 ん? 顔に当たるこのもっちりした柔らかい感触は……。

 Jカップのおっぱい!

 先生が僕の襟を締め付けながら、頬に大きな乳房を押し当ててくる。

 Tシャツの薄い生地から伝わる巨乳の感触。

 先生が力を加えていくほど、おっぱいの圧迫も強くなっていく。

 柔らかい~。心地よい~。

 グッ……でも苦しい……。

「さあ、有島君。まいったしなさい」

「ぐ~、まだまだー」

 まだまだ、怜奈先生の巨乳の感触を味わっていたい~。

「もう観念しなさい。ほら」

「グッ……」

 く、苦しいけど気持ちいい……。

 お、おっぱいで顔が圧迫される……。

「ちょっと、2人ともいい加減にしなさいっ!」

 叫びながら美里さんが畳に入ってきた。

 怜奈先生の寝技から開放されて立ち上がる。

「あ、あれ?」

 足に力が入らず、よろけて倒れそうになった。

「有島君、大丈夫?」

 美里さんが僕を支えてくれた。

「す、すみません。ちょっと足が――」

 次の瞬間、力が抜けて畳に膝から崩れ落ちた。

「ちょっと、有島君。しっかり」

 美里さんの声がぼんやり聞こえる。

 ん? 顔に当たるこの柔らかい物体は……。

 美里さんのGカップ乳!

 大きな2つの乳房が、僕の顔を挟むようにして圧迫している。

 ムニュムニュした感触がたまらなく気持ちよい。

 思わず顔をグリグリ押し付ける。

「あ、アン」

 美里さんの色っぽい声が聞こえた。

 が、その直後……。

「何やってんだ、変態!」

 美里さんの強烈な平手打ちが炸裂し、僕はそのまま気を失った。

「有島君、大丈夫? しっかりして――」

 薄れる意識の中で、怜奈先生が心配そうに呼びかける声が聞こえた――。


 僕が目を覚ましたのは、それから20分後のことだ。

 目を開けたとき、すぐそばに怜奈先生の顔があってすごくびっくりした。

 白くて透明感のある肌、整った美しい顔立ちで見つめる怜奈先生の表情は今にも泣き出しそうだった。僕が目を開けた瞬間、先生は安心したらしく目じりに涙を浮かべながらニッコリと微笑んだ。

「ゴメンね。無理させちゃったわね」

「怜奈は夢中になると、我を忘れるから危ないんだよ。危うく教え子を1人殺すところだったな」

 美里さんが笑いながら先生を茶化す。

「何よそれー。私がものすごい危険人物みたいじゃない。失礼ね」

 怜奈先生はエロい意味でものすごく危険人物だけどね……。

「しかし、有島君は思った以上に忍耐強いね。怜奈のけいこに根を上げないなんて、大したもんだよ」

「いや、ただ気力で何とか立ってただけで。結局、先生から1本も取れなかったし」

「そんなことないわ。私だって必死だったのよ。しぶといという意味で、こんなに苦戦した相手は有島君が初めてよ」

 先生が優しく語りながら微笑んだ。

「先生はおじいさんから柔道を教わったんですか?」

「ええ、そうよ。この道場でね。父と一緒にけいこしていたの。懐かしいなあ」

 先生が遠くを見つめるように目を細める。

「お父さんとの思い出ですね。先生と同じで、僕の父も僕が小さい頃に亡くなってしまったんですが、よく動物園に連れて行ってくれて、今でもよく思い出すんです」

「やだ、有島君。なに言ってるの? 私の父は健在よ」

 怜奈先生の瞳が、すごく冷たく感じた。

 えっ? 先生のお父さんは亡くなったはずじゃ……。

 確認する意味で美里さんに視線を送った。

 美里さんは顔色を真っ青にして、小刻みに首を横に振った。

 触れてはいけないものに触れてしまった気がして不安になった。

「さあ怜奈、もう着替えましょ。汗で体を冷やしたら風邪ひくわよ」

「そうね。有島君も着替えてきて」

 美里さんが慌てた様子で話題を替えると、怜奈先生は何事も無かったかのように更衣室へ着替えに行った。

「あの、美里さん。怜奈先生の父さんは……」

「その話はタブーなんだ。怜奈の前で父親の話は絶対するな。いいな?」

 美里さんは僕の肩をしっかりと掴み、小さい子に言い聞かせるような話し方をした。

「よく分からないけど、分かりました」

「君がそういう性格で助かるよ。詳しい話はまた。とにかく、怜奈に父親のこと聞くのは絶対無しにしてくれよ」

 美里さんに釘を刺され、僕は素直に頷いた。

 更衣室で着替えながら、色々なことを考えていた。

 怜奈先生のお父さんは亡くなっているのに、先生はなぜあんな嘘を言ったのか?

 美里さんは、なぜあんなにも動揺していたのか?

 怜奈先生に、なぜ父親の話はタブーなのか?

 ――やだ、有島君。なに言ってるの? 私の父は健在よ。

 あのときの言葉と、今まで見たことない先生の氷のような視線が僕の脳裏に張り付いて離れなかった。

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