第8話 レナ先生が車に乗るとシートベルトが卑猥な道具に見えてしかたない

 放課後、クラスメイトが部活や帰宅で教室から出て行く中、教壇に立つ怜奈先生を前にして僕達3人だけが残っていた。

 こんな風に言うと、まるで僕らが自主的に残ったように聞こえるけれど、阿川君も小木君も部活があるわけで、要するに怜奈先生に強制されたわけである。

 ときどき怜奈先生は強引なところがある。

 何でもかんでも、セクシーポーズさえ披露すれば思いとおりにことが運ぶという考えは間違っているということを示してあげたいわけだが、どうも僕の体が言うことを聞いてくれない。

 理性の強いどなたか、怜奈先生に現実社会の厳しさを教えてやってください。

「では、第1回狩野君の柔道部欠席調査会議を開始いたします」

 先生はコホンと1つ咳払いをして、改まった態度で宣言した。

「あのー、怜奈先生。オレ部活遅れるとマジで先輩に怒られるんだけど……」

「部活動に支障をきたさないためにも、円滑に会議を進行していきましょう。では、まず現状の説明を有島君、お願いします」

 会議を中止するという選択肢もあると思うけれど……。

 それを言うと100パーセント先生に睨まれるのは分かっているので、指示に従い昨日得た情報を発表した。

「昨日の放課後、怜奈先生と聞き込みを行った結果、柔道部1年の川崎君から話をきくことができました。そして、いくつか分かったことがあります。第一に、狩野君は練習中にケガをして膝を痛めたということ。第二に、ケガのあと狩野君は乱取りけいこで負けてばかりいたこと。第三に、これは川崎君の反応を見て推測したことですが、狩野君が部活を休むようになったのには柔道部の先輩が関係していると思われることです」

「有島君、ありがとう。では、調査員の2人から報告をお願いします」

「調査員って、オレらのこと?」

「そうみたいだね。ハハハ」

 小木君と阿川君はお互いの顔を見合わせて苦笑いする。

「じゃ、オレから。昨日、翔平から連絡もらって、サッカー部の先輩にも聞いてみたんすけど、柔道部の2年生と1年生部員の間でちょっとしたトラブルがあったみたいっす。多分、栄治のことだと思います」

「狩野君が先輩との間で何か問題があったことは、確かのようね」

 まるで推理する探偵みたいな顔つきで、怜奈先生が呟いた。

「オレはたいした話、聞けなかったんですけど……」

「全然構わないわ。どんな小さなことでも、もしかしたら解決の糸口につながるかも知れないのだから」

 先生の言葉を聞いて、阿川君は安堵した表情で話し始めた。

「軽音部の1年で、柔道部に友達がいる生徒から聞いたんですけど、狩野君のケガは大したことはないそうです。ケガの後すぐに保健室で校医の石井先生に診察してもらったそうですが、軽傷だったそうです。たしか、軽い打撲とかって……」

「でも、狩野君はケガをしてから全然勝てなくなったって、川崎君が言ってたよ。それって、やっぱり膝のケガが原因なんじゃ――」

「多分、違うと思うぜ」

 僕の言葉を遮るように、小木君が否定した。

「小木君、どうしてそう思うの? 何か根拠があるの?」

「栄治のヤツ、中学からそうなんだけど、すんげーメンタル弱いんすよ。実力はあるのに試合で緊張して負けたり、得意技が失敗するとスランプに陥ったり、とにかく精神的な面でかなり不安定なんすよ」

「なるほど。先生ちょっと分かったかも」

 先生が何かをひらめいた様子で表情を明るくする。

 さすが同じ中学出身の小木君。

「つまり、まとめるとこういうことかな? 狩野君は部活中に膝を痛めたが軽傷だった。実際は練習に影響を及ぼすほどのものではなかったけれど、気弱になっていた狩野君は、けいこで勝てなくなってしまった」

「おっ! 翔平なんか探偵っぽくね?」

「いよっ! リン校の名探偵!」

 小木君と阿川君がヒューと口笛を吹いてはやし立てた。

 女の子のおっぱいが何カップか推理するのは得意だから、名探偵と呼べなくもないが……。

「おそらく、けいこ中にまったく勝つことができなくなった狩野君を2年生の先輩が中傷したのね。そして狩野君は先輩とトラブルになり、それが原因で部活を休むようになったということね」

 怜奈先生の推測は、おおむね当てっているだろう。

 柔道部の先輩の話になったとき、川崎君はすごく動揺していた。

 小木君の情報から、柔道部2年生と1年生の間でトラブルがあったことは間違いなく、当事者が狩野君である確率はかなり高い。

「よしっ! あとは本人に直撃して私たちの推理が合っているか確認すればいいだけね」

 いきなり直球勝負かい!

 怜奈先生、もう少し変化球とか緩急つけるとかしましょうよ。

「先生、本人にいきなりというのは――」

「さあ、行くわよ有島君」

「わっ! 先生、ちょっと待って。狩野君はもう帰って――」

 先生は僕の手をしっかり握って、グイグイ引っ張りながら歩き出す。

「おっ! いーなー翔平。先生とデートかあ」

 これのどこがデートだよっ!

 どう見ても拉致じゃん! 誘拐じゃん!

「明日、いい報告を期待してるよー。色々な意味でね」

 茶髪の髪をファサっとかきあげた阿川君が、ギターバッグを肩にかけて立ち上がった。

 怜奈先生と2人っきりなんて、色々な意味で不安だよ!

 暴走する先生を制御することの難しさを、この2人はいまだ理解していないのだ。

「小木君、阿川君、本当に助かったわ。ありがとう。部活、頑張ってね」

「あざーっす。先生も頑張ってください。翔平もなー」

「どうもです。先生たちの健闘を祈ってます」

 小木君と阿川君は意味深な笑みを浮かべ、先生と僕に手を振った。

 ああ……怜奈先生と再び行動を共にするなんて……。

 かなりの高確率で起こりうるであろう巨乳イベントに期待を膨らませつつ、先生がかなり深刻な問題行動をとることは間違いないわけで、幸福感と憂鬱のジレンマにさいなまれながら教室をあとにした。


 この日最も驚くべき出来事、それは怜奈先生がハイクラスな高級車に乗っていたことである。

 職員用駐車場まで怜奈先生に引きずられてきた僕は先生の車に乗せられ、帰宅中の狩野君を追跡しているのだ。

 僕は車やバイクに興味は無いし、もちろん運転したいと思ったことも一度だって無い。そんな僕でも知ってるくらいの高級外車に先生は乗っていたのだ。しかも右ハンドル、つまり逆輸入ってヤツだ。

 テレビのCMで何度も目にした高級車の助手席に腰掛けるとは、まさか夢にも思わなかった。いくら興味が無いとはいえ、700万以上する車の座席というのは落ち着かないものだ。

 運転席では、鼻歌まじりの怜奈先生が気分良さそうにハンドルを握っている。

「う~ん、なんかシートベルトって違和感あるのよね。収まりが悪いって言うか……」

 先生が上半身をモゾモゾ動かす。

 シートベルトが怜奈先生の巨乳に斜めに食い込んでいる。

 先生の顔と同等のサイズの片乳が、グニッと不自然に変形している様子がいやらしい。

「シートベルトの位置を直してみてはどうです?」

「それもそうね。えいっ」

 おっぱいの谷間に食い込むシートベルトを引っ張り、先生は両乳の下側に移動させた。

 シートベルトが下から巨乳を持ち上げる形となる。

 先生がシートベルトから手を離した瞬間、Jカップの特大おっぱいがプルンと上下揺れた。

 シートベルトが下乳を圧迫し、怜奈先生の胸はさらにパンパンに張っている。大きく開かれた胸元は見事な谷間をのぞかせ、パツンパツンに膨らんだブラウスが今にも張り裂けてしまいそうだ。

 僕のすぐ隣で運転している怜奈先生の横顔はとても美しく、細い首筋から下に視線を落とすと、薄いブラウスに包まれたバレーボールみたいな大きさの乳房が、ツンとキレイな張りを見せている。

 110センチのJカップ!

規格外のボリュームを誇るおっぱいとは対照的に、キュッと引き締まった細いウェスト。思わず見入ってしまう。

「あっ! いた。狩野君よ」

 先生の声で我に返り、前を見ると狩野君が1人で歩いていた。

 先生が車を脇に停めてドアを開く。

「あっ、先生待って。ちょ、ちょっと寄せすぎだって。出れないし」

 先生が左にめいっぱい寄せて停車したものだから、ドアを開けるときめちゃくちゃ気を使った。

 こんな高級車に傷なんてつけたらえらいこっちゃ! 母さんの安月給じゃ、とても修理代は払えないっす。

 心の中で泣き言叫んでる間に怜奈先生は走っていき、狩野君を呼び止めた。

「狩野君、今日も部活に行かないの?」

「な、なんで先生こんなとこに……」

 思いがけないところで怜奈先生が登場し、動揺している。

 そりゃ、そうだよね。

 あら、よっと。ふう……高級車を傷つけずに無事脱出成功っと。

 母さんの今月の給料は、僕が守る!

「柔道部の2年生になんて言われたの?」

「なっ、何も言われてませんよっ」

 怜奈先生の質問に、狩野君は慌てて答える。

「部活を休む理由は?」

「ちょっと、膝の調子が悪いだけっす」

「校医の石井先生の診察によれば、軽い打撲らしいじゃない? 練習に支障はないって聞いたわ」

「そ、それは……」

 狩野君が言葉を詰まらせた。

「正当な理由が無いのに部活を欠席するなんて、スポーツ推薦入学者は許されないことよ!」

「仕方ないだろっ! 全然勝てなくなって、それで先輩にバカにされて……『スポーツ推薦のくせに弱すぎる。部活も学校もやめろ』そこまで言われたんだよっ! 部活なんて行けるわけないだろ!」

 狩野君が声を荒げた。

 いつも落ち着いていて、クラスの中でも静かな狩野君が大声を出すところを見るのは初めてで、すごくびっくりした。

 普段怒らない人が怒ると非常に怖いって言うけれど、まさしくその通りだ。

 思わず後ずさりしてまった僕とは対照的に怜奈先生は全く動じず、いつものキレイな大人の顔でクールに狩野君を見つめている。

「柔道部の先輩の言う通りよ。狩野君って、ホントは弱いんじゃないの? 中学時代に勝てたのは運が良かっただけで、きっと実力じゃないわ」

 ふぇっ? 怜奈先生、いきなり何を言い出して……。

「んだと? オレが弱いだって、もう一回でも言ったら――」

「ええ、弱すぎるわ。もう一回言ったらなあに? 今の狩野君なら、私でも勝てるわ」

「なわけねーだろっ! 女に負けるわけ――」

「狩野君が負けるわ。断言する。私、幼少から高校まで柔道をけいこしていたの。祖父の道場でね。勝負すれば分かることよ。明日の放課後、祖父の道場で試合をしましょう」

「先生、ケガしても知らないからな。 覚悟しとけよ!」

 吐き捨てるように言うと、狩野君は両手をポケット突っ込み、足早に去っていった。

「あとで道場の住所、送信しとくわー。ちゃんと柔道着、持ってくるのよー」

 狩野君の背中に大きな声で呼びかける怜奈先生の顔はさっきまでと違い、彼のことを案じているような優しい表情をしていた。

「あのお、先生……どうして狩野君をけしかけるようなこと言ったんですか?」

「ねえ。有島君は、先生のこと信用してくれてる?」

 質問を質問で返され、言葉に詰まってしまった。

 怜奈先生は少しだけ不安そうな表情で両肘をそっと抱えた。

 白いブラウスの大きく膨らんだ胸元がムニュッと持ち上げられ、寄せられたJカップの乳房が深い谷間を強調する。

「えっと……もちろん信用してますよ。先生は僕達のことよく考えてくれてるし、今も狩野君のこと真剣に心配して。言動や行動に問題点も多いですけどね」

 僕の言葉を聞いた怜奈先生が、ニッコリ微笑んだ。

 この笑顔が、たまらなくカワイイのだ。

 Jカップの巨乳を揺らして大人の色気を振りまいていたかと思えば、まるであどけない少女のような表情を見せる。

 このギャップに、少なからず僕は惹かれている。

「じゃ、行きましょっ!」

「ふぇ? ど、どこへ?」

 怜奈先生が僕の腕をガッチリ掴んで歩き出す。

 先生のJカップの横乳が腕にプニュプニュ当たって、めちゃくちゃ心地よい!

 先生の巨大な乳房が歩くたびにプルプルと揺れ、その柔らかさが僕の腕に伝わってくる。

 腕とおっぱいの接点に、全神経を総動員して最大集中!

 この集中力、勉強のときも使えればな……。

「今から道場で特訓よ!」

「は? なんの?」

「柔道に決まってるでしょ」

「誰が?」

「私と有島君よ。もう、しっかりしてよね。有島君は、私のけいこ相手を務めてもらいます」

「えええっーーー!」

「試合は明日。時間が無いわ。さあ、気合入れていくわよ!」

 もっちりとした感触の怜奈先生の巨乳を左腕で堪能しつつ、幸福感と憂鬱の狭間に悩まされながら、再び高級外車に助手席に腰を下ろした。

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