第2話 通勤ラッシュは嫌い……じゃないかも!?

 朝の通勤ラッシュが大嫌いだ。

 ま、好きって人はいないだろうけれど。

 僕は自宅の最寄駅から電車通学である。もちろん通勤ラッシュの時間帯なわけで、満員電車の中、加齢臭漂うおじ様たちにギュウギュウ押されながら学校の最寄駅まで揺られていくのだ。

 高校に入学してまだ2日目、今朝もこの試練をひたすら耐えるのみである。

「あら、有島君じゃない」

 すぐそばで聞き覚えのある女性の声がした。

 声の方に視線を向けると、僕のクラス1年2組担任の野村怜奈先生がニッコリ笑っている。

「おはようございます。先生、この電車で通勤してるんですか?」

「ええ。ちょっと待って、そっち行くわね。よいしょっと、ちょっとすみませーん」

 先生がモゾモゾと人を押し分けてこちらに近付いてくる。

「せ、先生。わざわざ来なくても――」

「きゃっ!」

 目の前までやってきた先生は足がもつれて倒れそうになった。

 先生を支えようととっさに両手を前に出す。

 倒れこんできた先生の体を両手でしっかり掴んで支える。

 ん? 柔らかい……。

 両手に伝わるムニュムニュした心地よい感触。

 こっ、これは怜奈先生のおっぱーい!

 Jカップのおぱーいっ!

 倒れこんできた先生を起こして目に飛び込んできたのは、自分の両手の指にめり込む柔らかな乳肉だった。

 手のひらに収まりきらないおっぱいのボリューム。

 今にもこぼれてしまいそうなくらい柔らかいおっぱいが、僕の手の中でムニュムニュと変形していた。

「有島君、どうもありがとう」

「あっ、す、すみません。ホントにごめんなさい」

 先生の声でハッと我に返り、鷲掴みしていた両手をおっぱいから慌てて離した。

 これはまずい。

 かなりヤバイ。

 真正面から堂々とおっぱい鷲掴みだなんて……。

 さすがに先生だって怒って――

「有島君が謝る必要なんてないわ。それより、もういいの?」

「へっ? な、何がですか?」

 先生の予想外の言葉に思わず間の抜けた声を出してしまった。

「おっぱい、もう触らないの?」

「えええっ? いや今のはわざとではなく、倒れかけた先生を支えようとした不可抗力といいますか……」

 必死に弁解する。

 この言い訳は苦しいよね。

 思いっきり鷲掴みしながら、先生の巨乳をガン見しちゃってたわけだし。

「あら、そうなの。有島君、先生のおっぱい揉みながら恍惚の表情を浮かべていたから、おっぱい触るのが大好きなのかと思ったの。でも、助かったわ。ありがとう、有島君」

 いや、そりゃあ、おっぱい触るのが嫌いな男子なんていませんよ。

 怒るどころか優しい笑顔を見せる先生からフワッといい香りがした。

 香水? 

 シャンプーの香りかな?

「有島君の家は二村町よね? 駅は二村台からかしら?」

「はい。先生よく覚えてますね。僕の名前もそうですけど、すごい記憶力ですね。もしかしてクラス全員の名前と住所、覚えてるんですか?」

 先生は笑いながら首を横に振った。

「さすがに全員の住所は無理よ。でも名前はみんな覚えているわよ。有島君の住所は、私の自宅と近かったからはっきり覚えていたの。私、三村台なの」

 新しいクラスの生徒の名前を、すでに覚えているなんてびっくりだ。

 1年2組の生徒は30人、しかもまだ僕らが入学して2日目だというのに。

「じゃあ先生は、三村台駅からですね」

「ええ。倫理館高校に赴任したばかりのころは、大学の近くの横浜に住んでいたのだけどね。通勤に時間がかかって大変だから今年から近くに引っ越してきたのよ」

 三村町は僕の家から電車で一駅の距離だ。

 家の近くにこんな美人でスタイル抜群、巨乳の怜奈先生が住んでいるということが分かり、僕の幸福感バロメーターの針が振り切れた。

「わーっ。見て、有島君。すごくキレイよ」

 先生が後ろを向いて扉の窓を指差した。

 その先には並木道の桜が満開に咲き誇り、春の風に吹かれて花びらが舞い散る美しい光景が広がっていた。

「キレイですね」

「いいわねえ。お花見行きたいなあ」

 ポツリと呟く先生の横顔が、無邪気な子供のように見えて可愛らしかった。

 怜奈先生って、クールでセクシーなイメージだけどこんな一面もあるんだ。

 そんな風に思った矢先――。

「わっ!」

 急に電車が揺れ、後ろの男性に押された僕は先生に倒れ掛かった。

 倒れまいと反射的に怜奈先生の腰を両手で掴む。

「有島君、大丈夫?」

「す、すみません。いきなり押されて。うわっ」

 再び電車が揺れて、後ろから強い力でグイグイ押される。

 く、苦しい……けど、何やら股間に柔らかいものが当たって……。

 僕の股間に当たっているもの、それはまさしく怜奈先生のお尻だった!

 白いスーツのタイトスカートはかなり短いミニである。

 スカートは形のよいお尻にピッタリと張り付いて美しいボディラインを強調している。

 僕はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「大丈夫? ケガは無い?」

「は、はい。平気です」

 先生の問いに出来る限り冷静を装って答える。

 別の意味で全然平気じゃないっす!

 目の前には怜奈先生のキレイなお尻。

 しかも薄い布キレみたいなミニスカートをまとっただけの。

 密着する股間へダイレクトにお尻の柔らかさが伝わってくる。

 ダメだ! 静まれ! 静まるんだー!

「あら? お尻にすっごく固いものが当たって……」

 あああーーー。

 お終いだー。

 絶対バレてる。

 軽蔑されるー。

「す、すみません。許してください。ごめんなさいー」

 必死で謝り続ける僕に、怜奈先生は妖艶な笑みを浮かべた。

 へっ!? 今の微笑みは?

「ここから学校までけっこう揺れるのよね。有島君、倒れないように気をつけて」

「は、はい……」

 何も無かったかのように、先生は再び前を向き電車の外へ視線を向ける。

 が、先生は僕の手を掴んで再び自信の腰に誘導させた。

「また、倒れそうになったら危険だわ。先生にしっかり捕まっていなさい」

「ふぇ?」

 思わず情け無い声を出してしまった。

 先生のキュッと引き締まったウェストを両手でしっかり掴む。

 くびれた腰の下に視線を落とすと、先生の丸いお尻。

 こ、これはっ!

 さっきは気が動転して気がつかなかったけれど、先生の白いミニスカートから下着が透けて見えて……

 お尻に浮かび上がる黒色のパンティーライン。

 その形状は、小さな三角形で細長い1本のヒモがお尻の割れ目にピッチリと食い込んで……。

 Tバックじゃないですかーーー!

 思わず先生のウェストを握る両手に力が入り、股間をお尻にグッと押し付けてしまった。

「あァん」

 先生が色っぽい声を上げる。

 すでに僕の息子はMAX全開。

 完全に弁解の余地は無い。

 目の前にはミニスカTバックでお尻を突き出す、スタイル抜群の美人教師。

 この状況をどう回避しろって言うんじゃい!

 関西弁でツッコミを入れていたら、やたらと股間が気持ちよくなっていることに気がついた。

 柔らかでゆっくりとしたソフトな刺激が継続している。

 怜奈先生が突き出したお尻をグリグリ上下に動かしながら、僕の股間に押し付けていたのだ!

「ふふふ。有島君、その体勢キツクない? 大丈夫?」

 大人の色気たっぷりに微笑む先生が、何食わぬ顔で尋ねる。

 や、やばい。

 股間がお尻に当たって、気持ちよすぎる!

「は、はい。先生に掴まってるおかげで、倒れずにすみそうです」

 精一杯、冷静なふりをする。

「ホント? もう少しで着くけれど、このまま我慢できそうかしら? ふふふ」

 悪戯っぽく微笑む先生のお尻の動きが加速した。

 先ほどまでとは比べ物にならない強い刺激に襲われる。

 や、やばい!

 こんなに気持ちいと、このままじゃ――。

 絶体絶命と思われたその時、怜奈先生の目の前の扉が開かれた。

 後ろの乗客に押し出されるようにして電車から降りる。

 ふーーーっ。

 助かった……。

 ため息をつく僕を怜奈先生が首をかしげて見つめいる。

 こういう場合、何て言えばいいものやら……。

 先生のお尻、柔らかくて気持ちよかったです! じゃ、ないな。

 よし、改めてちゃんと謝っておこう。

「先生、さっきはすみませんで――」

「有島君、大丈夫?」

「へっ?」

 先生が意外な言葉を口にしたものだから、思わず間の抜けた声を出してしまった。

「だって、それ。そのままじゃ苦しくない?」

 先生の指差す先には、こんもりと盛り上がった僕の股間が。

「ふわわわっ! こ、これは違うんです。不可抗力と言いますか、生理現象と言いますか、だからその――」

「そうよ、生理現象。君くらいの男子が、さっきのような状況で勃起するのはごく自然なことよ」

「せ、先生、分かっていたんですか?」

 完全にバレテいたのは承知の上で、あえて純粋な顔で聞いてみた。

「ええ。有島君の固く勃起した性器が、先生のお尻に当たっていたから」

「で、ですよねえ……」

 このキレイな容姿で、勃起とか性器とか自然な流れで口にされるとめちゃくちゃ違和感をおぼえる……。

「勃起した性器をお尻に押し当ててくるということは、立ちバック尻コキで性欲処理をしたかったということよね?」 

「はっ!? な、何言ってるんですか、先生?」

 立ちバック尻コキ! 

 性欲処理!

 Jカップの巨乳を突き出して、何を自信満々におっしゃってるのですか。

 いや、まあ確かに気持ちよかったけどね……。

「えっ、違うのー? 先生てっきり、有島君がスタイル抜群の美人教師を前にして抑えきれなくなった若さゆえの欲望を発散させようと、獣のごとく――」

「ちょっと待てい!」

 スタイル抜群とか美人とか、自分大好きだなこの人は。

 まあ、実際その通りなんだけどね。

「あらら、先生の早とちりだったみたいね。テヘ」

 テヘじゃ、ねーよ。

 めちゃくちゃかわいいっすけど。

「まあ、分かってもらえれば問題ないですけど」

「ええ、でも気をつけるのよ。事故とはいえ、先生以外の女性に車内で勃起した性器を押し当てたりなんかしたら、大問題になるからね。それから……」

「何ですか?」

 怜奈先生がスッと僕の耳元まで近付き、湿った声で語りかけた。

「学校へ行く前に、駅のトイレで抜いちゃいなさい。そのままじゃ変質者と勘違いされちゃうわよ。ふふふ」

 悪戯っぽく笑うと、怜奈先生は先に改札を抜け、学校に向かって歩き始めた。

 な、なんてエロい先生なんだ……。

 本人はいたってマジメな意見を述べているつもりなのだろうけれど、完全にエロスを具現化した存在にしか思えない。

 あれはこの先、色々と問題あるよな。

 これから待ち受けるであろう波乱に不安を抱きつつ、明日も明後日も毎日同じ電車で怜奈先生と通学できたら、超ハッピーじゃん! 

 みたいな、軽いノリにシフトしつつある僕は、慌てて駅のトイレに走るのであった。

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