エピローグ:歴史は繰り返す


目の前にいるのは、母さんと同い年……四十いかないぐらいのおばさん。

その気迫は松下先生よりも凄まじく、話しているだけで寿命が縮みそうだった。


でもそれも納得。

なんたってこの人、校長先生だし。


「おっほん! 君が碧優生か」


「そうですけど」

「ふーん」

「……」


目を覚ますやいなや、校長室に来いと言われた生徒の気持ちが分かるだろうか?


ごめん母さん。あと炎。あと妹と音無と煉。俺退学かもしれない。

調子乗って決闘場の壁ぶっ壊しちゃったし。

後悔はしてません、反省はしてるけどね。


「あの決闘場の仕組みは知っているか? どんな傷を負っても決闘が終われば無傷で生還……不思議だよね」

「そうですね」


「まっ私も知らないんだけど! なんか時空間魔法やらなんやら凄いのが関わってるらしいぞ!」

「は、はぁ……」


厳格なオーラ出しといてなんだその馬鹿っぽい感じは!


「でも――確かな事が一つ。あの決闘場は、『何があっても壊れない』事が前提で作られている。もし万が一いや億が一、壁でも壊れたら構成している魔法が解けて生徒が危険な目に遭ってしまうからね。炎君はギリセーフだったけど」

「……」


「魔法練習場の壁とは比較にならない物理耐性と魔法耐性を得る代わりに、あっちみたいな自動修復機能は無いんだよね……」

「それはつまり」

「うん! 一週間は決闘場は使えません!」

「ごめんなさい」


何だよやっぱり駄目じゃないか!

試験日程を遅らせるって結構重罪じゃないの?


「……ちょっとおいで、碧君」

「はい?」


何、俺ぶん殴られるの? 校長に?


ヤバい。

平手打ちなんて、親にもやられた事ないのに――


「あーー! これが優ちゃんの息子かあっー!!」

「!?」

「久しぶりだね! いや最後に会ったの三才の時だもん、覚えてるわけないかー!」


まじまじと俺を見たあとに騒ぎ出す校長。

はい、全く覚えておりません。


つーか優ちゃんって母さんだよな?


「はぁ、まあそういう訳だから貴方達タッグはA組昇格ね。この後の試験も免除」


「何がどういう訳で!?」


突っ込みが追いつかない。


試験日程まだ終わってないんだけど。

何? 飛び級的なアレ?


「転入試験は学科実技共に満点、入学後は三十一人に一人で勝利、それも学園十位のレンちゃんを倒して。後Bクラスも聞いたよ、ハンデ付きで倒したって。そしてこの決闘場の破壊――AクラスどころかSクラス行けるね」


「Sとかあるんですか」

「ないけど。後君みたいな問題児はAクラスに放り込んでおきたい。校長としても。またあの場所壊されたくないし」


「……」


この人、ホント掴みにくいな。


「えっんじゃ音無は?」

「Aで良いんじゃない」

「んな適当な」

「色々情報は来てるから。魔法練習場の壁を壊したり、レンちゃんの推薦もある。加えて決闘内容を見ても十分かな」

「……まあ。それなら全然良いんですけど」

「実力が無ければ落ちるだけ、半年後にはまた試験があるからね」


彼女がAなら、もう何も言う事はない。

つーか煉さらっと出てきたな。このツンデレめ。


「うん! んじゃこれでお話は終わり。お疲れ様」

「……あの」

「ん?」

「母さんとは同級生だったんですか?」


さっきから優ちゃんとか言ってるし、

気になったのだ。

あんまりあの人自分の事喋らないし。


「うん、加えて親友だよ。ふふふそうかぁ。気になるかー!」

「まあそれは……」

「優ちゃんには内緒だよ。彼女は昔、君と同じEクラスだったんだ」

「えっ」

「ふふ、意外でしょ。ちな私はAクラス」


あの母さんが?

意外どころじゃなかった。後半のドヤ顔は無視するとして。


「当時は身体強化系の魔法ってあんまり人気なくて、魔法使いといえば遠距離戦が主だったんだよ」

「それはなんとなく分かります。接近する前に攻撃した方が良いですもんね」

「うん。でも彼女は頑固に近距離戦に対応した魔法を極めていって……二年の頃に、戦闘試験で一位を取った。そこから私と同じAクラスになったんだよね」

「へぇ……」


なんというか、今の自分と重なるな。

偶然だろうけどさ。


「はい、んじゃおしまい。その後は順調に彼女は覇道を歩みましたとさ」

「えっ終わりですか?」


「ここから先はもれなく私の黒歴史なので」


「いやいや――」

「ほら帰った帰った!」


そのまま背中を押される。


何だってんだ……。









『……うん。うん。しっかり優ちゃんの息子は面倒見るから』

『あのね、だから貴方は恨まれて無いって……じゃなきゃ優ちゃんについて彼あんな聞くわけ――あ』

『ごめんごめん今の嘘! 私は何も喋っておりませんので! じゃあね!』


「……ふう」


久しぶりに聞く彼女の声。

優ちゃんは、話題の彼について話す時だけは弱々しくなるのだ。

母親って大変なんだなと他人事の様に考える。


「碧優生……魔力ゼロ、魔法適性無し。そして代わりにあの異能と。ほんと訳分かんない子だ」


……あの話の続き。

EクラスからのAクラス入り後、私は彼女……碧優を目の敵にしてた。

当時の私は、どうしても優ちゃんの事が気に入らなかったのだ。


青い長髪を輝かせ、周囲の者など全く目もくれない。他の人と違う事を嬉々として挑んで、成功して行く彼女に嫉妬した。


そして――決闘を申し込んだ。

叩きのめすつもりだったのに、逆に手玉に取られてしまった。


《――「そんなに気に入らないのなら見せてあげる。この『私』の可能性を」――》


魔法世界では。

己の常識など簡単にひっくり返る。

あの時の事は、私は一生忘れないだろう。


碧優との決闘中の一幕。

絶対に壊れるはずのなかった決闘場の壁。

それが彼女の拳によって破壊された瞬間を。



「まさか息子も同じ事をするなんてね」



重ねてしまう。

あの優ちゃんと。

そしてもっと恐ろしいのは、決闘場はアレから改装し強度が増しているということ。


それを壊したのだ――彼は。その異能で。

運命としか思えない。



「……Aクラス入り後は荒れるだろうなぁ」



きっとこれから、魔法世界は騒がしくなっていく――彼によって。

私はそれが楽しみで仕方ない。


さあ。

次は一体何をしでかしてくれるんだろうか?





「『碧優生』、ね」





そう呟いて。

学園生徒一覧の頁を閉じたのだった。







▼作者あとがき



というわけで、これにて第一部完結です!

お付き合い頂いて本当にありがとうございました!


いつになるか分かりませんが、第二部ではスナッチやらAクラスでのゴタゴタを書いていけたら良いなと……。


それではまた!








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魔法世界の無用の長物《ユーズレス》 aaa168(スリーエー) @aaa168

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