第15話 新学期
夏休み最終日は、お菓子作りの一日となり
僕にとって、一歩 を踏み出す新学期がやってきた。
ちょっとドキドキしながら教室に入ると水野はもう来ていて周りの人たちと楽しそうに話をしていた。
席につき、作ってきたお菓子の袋を持ちながら水野の方を振り向いて見てみた。
そうしたら、水野と目が合ってしまった。
「おお、松川、おはよう。夏休み楽しんだか?」
「あ、うん、おはよう。中々楽しい夏休みだったよ」
僕との会話が始まったからだろうか、今まで話していた子たちは、またなというような手振りの合図をして自席に帰っていった。
よし、今だ。僕は、作ってきたお菓子を水野に渡した。
「お、何これ、くれんの?」
「うん。昨日、僕が作ったんだ。実はお菓子作りが好きでさ。誰か家族以外で食べてくれる人いないか なぁと思ってたところ水野が思い浮かんで持ってきたんだ」
「ありがと、すっげぇな。旨そう。オレ、甘いもの好きなんだ。嬉しいよ。ほんとありがと」
思ってた以上に水野は喜んで受け取ってくれた。
ありがとう水野。ありがとうララ。
ほっと胸をなでおろしたところで皆が不自然にざわついているのを感じた。
何だろう? と教室を見回すつもりで前を向いた僕の目にララの姿が飛び込んできた。
今日は和服じゃなく、この学校の制服を着ている。
「静かに。皆、夏休み中、怪我も無く無事に過ごせたようだな。今日から新学期だが、転入生がいるので紹介する」
担任の誘導で、ララは黒板に名前を書いた。
「初めまして。わたくし村井ラエリオーラといいますです。ラ ラと呼んで下さい」
長い休みがくるまでしばらくララに会えないと思っていたのに次の日には会えるなんて。
またまたララに騙された感じだが、もちろん嫌な気がするどころか思わずニヤケてしまいそうになるぐらい嬉しかった。
休み時間になった時ララが僕のところにきて
「上手くいったよねでしょ?」
と声をかけてきた。
「うん」
友達、になれたか自信は無いけれど水野は凄く嬉しそうに受け取ってくれた。
「水野さん、初めて会った時に華奢凛堂の袋を持ってました。折菓子用の紙袋じゃなくて小分けで買ったと思われるビニール袋」
「うん、それが何か」
「小分けという事は、誰かにあげるものではなく自分用もしくは家族用という事よです」
「ああ、なるほど」
「華奢凛堂は甘党には有名なお菓子屋さん。和菓子も洋菓子も売っているお店です。もしかしてと思い夏休み中近くの華奢凛堂を調べてもらったら水野さん、あの日以外にも何度か自分用と思われるお菓子を買いに行っていたみたいなんです」
また、大仰な事を。
「それって……」
「水野さんが甘党である証拠です。甘党である水野さが、もうすでに友達だと思ってる隆太からお菓子ををもらったら更に仲良くなる、そう思ったよです」
「隆太、もう水野さんは前から友達だったはずよです。けれど隆太には自信が無かった。でもお菓子をあげた時の水野さんの姿を思い出してよです」
「思ったりより自然と喜んでくれた」
「それでよです!『自然』、水野さんはすでに隆太を友達だとおもってたよだから『自然』だったよです。ただのクラスメートだと思ってたらもう少し構えるよです」
そっか……。
「何の話ししてるんだ?あ、転校生のララさん、夏休みにスーパーの前で松川と一緒にいたよね、よろしく」
うわっ、ララと話しているところに水野が突然入ってきた。
「わたくし、隆太のお母さんと友達だから夏休みに遊びに行ってたよです」
「そうなんだ、松川って人見知り激しいからビックリしたよ」
まだ会話に入るのは苦手だけど、ララもいるし僕も水野とララの会話に入ってみようかと思えるほどになっていた。
完
お嬢さま家政婦 ピューレラ @natusiiko2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
夫という生き物との生活/ピューレラ
★18 エッセイ・ノンフィクション 連載中 13話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます