STAGE:15 怖い電話
今日は僕がゲームメーカーに苦情の電話を入れた時の話をします。
それは僕がまだ学生の頃のことです。
当時はインターネットなんてまだなくて、ゲームソフトの発売日情報は基本的に雑誌が頼りでした。
とは言え、雑誌に載っているのは数週間前の情報。
ウキウキしてゲームを買いに行ったら、延期していてがっかりってことが結構よくありました。
そしてそのような経験の中でも特にひどかった某タイトル。
実に五回以上延期したのではないでしょうか。
五回って今の時代ではそれ以上に何回も延期を繰り返すタイトル、というかメーカーがあったりするので珍しくないかもしれません。
でも、先述したようにインターネットがない時代、五回以上延期したということは、それだけショップに足を運んだわけで。
特に当時僕はMSXという、一応パソコンに分類されるハードのユーザーだったためにファミコンみたく近所に取り扱う店がなく、その度に遠出を強いられていました。
そしてまたしてもメーカーに裏切られたある日のこと。
ついに僕はメーカーに一言文句を言ってやろうと、ショップを出た足で近くの電話ボックスに入りました。
手元の雑誌に載っている電話番号をプッシュし、相手が出ると同時に激しく罵りの言葉を――。
うん、言おうとしたんですよ。
それぐらい腹立っていたんですよ。
でも、受話器から聞こえてくる声に、僕は一瞬にして言葉を失いました。
もうね、なんというかね、地獄の底から聞こえてくるような声というか、ゾンビが言葉を話しているというか、とにかくぞっとする声でした。
僕は恐怖のあまり受話器を降ろし、電話ボックスから逃げ出すように飛び出ました。
思えばこの経験をするまでは、将来はゲームを作る仕事に就いてみたい、なんて漠然と考えていたように思います。
しかし、あんな声を聞いてしまってはもう無理。電話から聞こえる声だけで、その開発環境の凄まじさが伝わってきて、僕は夢をひとつ断念しました。
同時にあんな状態になってもゲームを作ってくれているんだ、多少延期しても我慢しようと思ったのでした。
さて、この話はこれで終わり、と思いきや、実は続きがあります。
上京してライターになり、件のメーカーの人と話をする機会がありました。
で、その中で例の電話の話をしたのです。
するとメーカーの人は
「ああ、あれね。実はあのゲームが何度も発売延期になったから苦情の電話がガンガンかかってきてさ。だから留守番電話受付のメッセージにあれを吹き込んで、そういった苦情電話を撃退してたの。いやぁ懐かしいなぁ」
と笑って実情を話してくれました。
なんてこったい。ずっと騙されてたわ。
てか、やっぱり当時、僕みたいに怒ったユーザーがガンガン電話してたんですね。
今はさすがにこういうことはやれないと思います。
が、当時はまだまだ業界全体が未成熟だったこともあって、その人曰く「まぁ、こういうのはどこもやってた」そうですよ。
まったく、困った人たちだなぁ。でも、そういう遊び心のある人たちが作ったゲームだからこそ、当時の僕たちを夢中にさせてくれたのかもしれませんね。
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