STAGE:3 ゲームで結婚するという都市伝説

 一昔前にネットゲームで知り合って意気投合、そのまま結婚までしちゃったっていう話が話題になった。

 最近では高校生の時に『GUNPEY』の対戦で仲良くなり~って話が人気を博し、書籍化されている。

 いい歳して独身な自分からしてみれば、どちらも都市伝説にしか思えない。

 まったく、冗談キツいぜ。なぁ、冗談だろ? ウソだ、フィクションだ、そう言ってくれ、鯨武長之介ぇぇぇぇぇぇぇ!


 取り乱してしまったごめん。

 とにかくゲームで女の子と知り合って付き合うなんてイベントが起きなかった僕にとって、これらの話はとても信じられないのだ。


 が、よくよく考えてみたら、すごく身近なところにゲームが原因で結婚した人間がいた。


 僕の妹だ。


 天使のように可愛らしく、神のように聡明な僕の妹(過剰表現のように思えるかもしれませんが、真実です。別にこのエッセイを見られてしまった時のことを考えて予防線を貼っているわけではありません。信じてください)は、学生の時に香港に留学した。


 その時に今の旦那と知り合った。

 だから旦那は香港人。英語はしゃべれるが、日本語はまったく話せず、もちろん読みも出来ない。


 で、この旦那、僕と同じくゲームが好きで、ある日、前から遊んでみたかったゲーム、PSの『バイオハザード』を手に入れた。

 が、いざ遊んでみたら日本語の表記が多くて、イマイチよく分からない。

 そこで彼が考えついたのが「日本からの留学生と一緒に遊んで翻訳してもらおう」ってアイデアだった。


 つまりは『バイオハザード』でナンパしやがったわけである。

 

 もっとも後に詳しく話を聞くと、別に妹一人を狙い打ちしたわけではなかったらしい。 

 最初は日本人、香港人、男女それぞれ5人ぐらいが集まって、ワイワイと『バイオハザード』をプレイし始めたのだそうだ。


 で、この名作ゲームを前に旦那は時間を忘れて熱中したものの、さすがに何時間もプレイしていると見ているだけの奴らは退屈して帰っていった。

 ただ、その中で一人、旦那と同じくゲームの世界に惹き込まれた妹は最後まで付き合い、ナビ役としてプレイを支えたのである。


 想像して欲しい。

 男女ふたりが協力してゾンビが徘徊する死の館から脱出しようともがき、ついに強敵・タイラントを倒して目的を果たすと言うシーンを。

 かくして死線を乗り越えたふたりはその瞬間ハイタッチを交わし、あの「ゆーめーでーおーわらせない♪」と妙に場違いなエンディングテーマをバックに強く抱きあって付き合うことになったという。


 完璧な吊橋効果である。

「極限な状態で結ばれたふたりは長く続かない」という映画『スピード』の有名なセリフを知らんのか、君たちは?


 が、どうせすぐに別れるだろうと思っていたが、ふたりはあれから長い年月が経った今でも仲睦まじく、子供もふたりいる。

「お兄ちゃんも同じことをしたら、今頃は結婚してたかもしれないね」と妹は言うけど、『ToHeart』とか『Air』とかを一緒にプレイしてくれる女の子がいたかどうか甚だ疑わしい。ましてや「マルチぃぃぃぃぃ!」「観鈴ぅぅぅぅ!」と号泣する僕にドン引きした可能性はかなり高いと思う。


 こんな僕のもとにも都市伝説じみたゲームがらみのお付き合い&結婚は訪れるのだろうか?

 水をいれすぎたカルピスみたいな薄い期待を抱きつつ、今日も僕はゲームと一緒に生きていく。

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