STAGE:2 師匠と呼ばれたい!
ゲーセンでバイトをしていた頃のこと。
僕にはひとりの師匠がいた。
年齢は僕のほうが年上。だけど、師匠はそんなことは構いもせず、怒りの形相を浮かべて僕に言ったものだ。
「おい、今度また同じようにボムを抱えたままで死にやがったら蹴飛ばすぞ」
そう、師匠は僕のシューティングゲームの師匠だった。
僕は中学生の頃からゲームにどっぷりな人生を送ってきていて、ジャンル構わず色々なタイトルに手を出していたのだけれど、その中においてシューティングゲームはどうも苦手だった。
もともと運動神経がそんなによくないということもある。
それにRPGは経験値稼ぎやら装備やらでキャラを強くすればクリア出来るのに対して、シューティングはひたすら自分の腕を上げないといけない。それが苦痛だった。
そんなことをバイトが終わって休憩室で師匠に話したのが運の尽き。
「いいでしょう。あんたに本当のシューティングの面白さを教えてやりますよ」と山岡士郎ばりのセリフを吐くと、僕をとあるシューティングゲームの席に座らせるやいなや素早くコンパネを開けてクレジットを増殖。あっという間に10クレジット分を不正に生み出すと「さぁ、見ていてやるからやってみろ」ときたもんだ。
かくして僕と師匠の師弟関係は始まった。
なお師匠はちょっとシャイな普通の人だったが、ゲームのことになると人が変わる。シューティングゲームで僕がミスると怒るのは当然のこと、『ダイナマイト刑事』を一緒にプレイすると敵よりも僕を倒すことに躍起になった。
実に困った人だった。
だけど師匠のせいでゲームオーバーになった僕が悲鳴をあげるのをとても嬉しそうに見てくるのがどこか憎めない人でもあった(なおシューティングで褒められたことはほとんどない)。
さて、そんなゲームでの師弟関係だけど、一昔前はよく見られた。
特に格闘ゲームでは上手いプレイヤーの元には自然と人が集まり、師弟関係が結ばれたものだ。
そして実はこの僕も、とあるゲームで多くの人から師匠と慕われたことがある。
そのゲームの名前は『ダンスダンスレボリューション』! 当時ゲームセンターを一躍ダンスフロアに変えた名作音ゲーだ。
ちなみに言っておくけど、僕に音楽的センスはない。
音痴だし、リズム感もからきしだ。
往年の名作ADV『ジーザス』ではラストに敵のエイリアンが苦手とする音を入力するのだけど、その音が聞き分け出来なくて、当時ピアノを習っていた妹に助けてもらったこともある。
そんな僕が音ゲーの、しかもダンスゲーの師匠である。
僕のことを昔から知っている人が聞いたら百人中百人がウソだと思うような話だ。
が、ウソではない。
からくりはこうだ。
当時、世間的にも大ブームとなった『ダンスダンスレボリューション』だけど、最初は誰もがプレイには二の足を踏んだ。
なんせこのゲーム、足でパネルを踏んで踊るのである。ゲーセンでダンス、当然登場して間もない頃はみんなも見るし、これは結構恥ずかしいことであった。
しかし、僕はこの問題を平日の昼間はほとんど人がいないゲーセンに『ダンスダンスレボリューション』が置いてあるのを見つけて見事解消した。
そう、誰もいないのをいいことに独り占めして練習しまくったのだ。
そしてそこそこ上手くなった頃に友人たちを片っ端から『ダンスダンスレボリューション』に誘い、ハマらせたのである。
みんなが僕を師匠と呼んだ。
僕も調子に乗ってゲームのキャラのようなアフロヘアにしようかと考えたこともある。
あの時の僕はイケてた。間違いなく、イケてた!
が、そんな素晴らしい時代も長くは続かなかった。
そもそも僕が音痴なのは何も音楽だけではない。
悲しいことに運動も軽く音痴なのだ。
そんな僕が次々と弟子たちに実力で抜かれていくのは当たり前のことであった。
みんながマニパラをクリアしていくのをただ眺めるだけの日々。
そしていつからから僕は『DDR界の亀仙人』と呼ばれるようになった。
……まぁ、それはそれで美味しいポジションやんと内心思ってたのはナイショだ。
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