この島の本当のおさを決めるのです!

愛知川香良洲/えちから

この島の本当のおさを決めるのです!

 これは、黒セルリアンを倒した後、かばんちゃんがごこくちほーへと旅立つ前のおはなし……。


「ボス、たまには私にもしゃべってよ!」

「ボスー、ジャパリまんはやくー」

「ボス、──」「ボス、──」「ボス、──」

 ラッキービーストに時おり話しかけるサーバルたちフレンズ。一方のラッキービーストは無言であるが、無反応ではないあたり、傍目には仲よさそうに見える。

 しかし、その光景を気に入らないものが二人ばかりいた。

「はかせたちがしまのおさなのに、ラッキービーストがボスと呼ばれるのは失礼なのです」

 はかせこと、アフリカオオコノハズクと、

「まったく、失礼なことなのです」

 じょしゅこと、ワシミミズクの二人である。

「このままでは、しまのおさとしての示しがつかないのです」

「ここは勝負して、どちらがおさにふさわしいか決めるのです」

 これが、ちょっとした大騒ぎのはじまりだったことは、誰も予想がつかなかったのだ。


第一勝負「りょうり」


「つれてきたよー」

 遊園地の一角、野菜などが大量に盛られた調理台の横にははかせとじょしゅが待ち構えている。そこに、サーバルがラッキービーストを抱えて連れてきた。

「じゃあ、勝負なのです」

「さあかばん、われわれにレシピを教えるのです」

 はかせたちはこの勝負のために、図書館から料理の作り方が書かれた本を持ち出してきていた。

「……なんか不公平な気がするけど、まあいっか。えっと、ポトフ、って料理でいいですか?」

「はやく教えるのです」

「時間が勝負なのです」

「まず、じゃがいもやにんじん、たまねぎなどを切って──」

「サーバル、切るのです」

「うみゃみゃみゃみゃみゃー!」

 いいように使われるサーバルである。

「それを、水を入れたなべに入れて、しいたけ、と一緒に煮込む感じですね」

「わかったのです」

「火をつけるのです」

 調理台についているノブを回すと、鍋の下にあるコンロに火がついた。

「ここは時間短縮なのです」

「われわれのしんのちからをみせるのです」

 ぐぐぐ、とはかせたちが力を入れると、


 鍋が、爆発した。


「失敗したのです」

「力を入れすぎたのです」

 その頃ラッキービーストはというと、どこからかジャパリまんを持ってきて、フレンズたちに配っていたのだった。


第二勝負「うた」


「りょうりではしっぱいしたので、こんどはうたで勝負なのです」

「かばん以外にはしゃべらないラッキービーストには勝てっこないのです」

 はかせたちはステージに上がり、PPPペパプたちのところへ。

「さあわれわれにうたを教えるのです」

「この前の恩を返すのです」

 はかせたちはPPPの依頼で、ステージ設営を手伝ったことがある。その時のことを言っているのであろう。

「うたを教えるっても……私たちはダンスの方が得意だし……」

 ジェンツーペンギンが困っているところに、トキがやってくる。

「うたならまかせて。わたぁぁぁぁぁしはぁぁぁぁトォォォォォキィィィィィィ」

「……耳がつぶれるのです」

「この勝負、やめにするのです……」

 その頃ラッキービーストはというと。

「あわわわわわ」

 トキの歌声で、倒れてしまっていた。


第三勝負「れーす」


「今度はれーすで勝負するのです」

「コースはゆうえんちのそとがわを一周するのです」

「バスが壊れてる今、空を飛べるわれわれの方が断然有利なのです」

 ずる賢いなぁ、とかばんちゃんは思ったが口にはしない。

「じゃあいっくよー! よーい、すたーと!」

 サーバルの掛け声で両者一斉にスタート。ぴょこぴょこと歩くラッキービーストに対し、はかせたちは空をビューン、と飛んでいく。

「さすがにあれじゃ追いつけるはずないのです」

「今度こそわれわれの勝ちなのです」

 そんな会話をしつつ、遊園地の外周を回っていくはかせたち。

「しかし、図書館との往復で少しサンドスターを使いすぎたのです」

「途中で少し、休憩するのです」

 するとはかせたちの目の前に、気持ち良さそうな木かげが見えてきた。

「あそこにするのです」

「きっと気持ちがいいのです」

 そしてはかせたちは、木の下で一眠りするために目を閉じた。

 三時間後。

「ちょっと眠りすぎたのです」

「寝過ごしたのです」

 ちょっと一眠り、のはずが起きた頃には日が傾いていて、はかせたちは慌ててゴールへと向かって飛んでいた。

「やっと、ゴールが見えてきたのです」

「ここまで、ラッキービーストの姿は見ていないのです」

 そして、サーバルの元へと、着地する。

「今度こそ勝ったのです」

「当然なのです」

「ボスの、かちー!」

「「!!」」

 サーバルの一声に、はかせたちは驚きの表情を見せる。

「われわれは一度もラッキービーストの姿を見ていないのです」

「ズルなのです」

「そうなの、ラッキーさん?」

 かばんちゃんがラッキービーストへ聞くと、ラッキービーストは目を光らせて答える。

「ちゃんと回ったよ、かばん。アフリカオオコノハズクとワシミミズクは、途中で眠っていたよ」

「そうなんですか?」

「うぅ……それは本当なのです」

「一生の不覚なのです」




「まさか、ここまで泥仕合になるとは思わなかったのです」

「いや、勝手に変な勝負してるだけじゃ……」

 かばんちゃんがつい指摘したように、はかせたちとラッキービーストの勝負は、まともなものではなかった。

「でもわかったのです」

「おさとボスは共存できるのです」

「それで万事解決なのです」

 じゃあ最初から勝負する必要などなかったのではないだろうか。かばんちゃんがそう思ったのも無理はない。

「てことでこれからもよろしくなのですよ、ラッキービースト」

 無言ではあるが、「まかせて」と返したようにかばんちゃんには見えた。

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この島の本当のおさを決めるのです! 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu

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