ある夢の話
@karatarai
またあの場所へ行けたなら
ふと気が付くとここにいた。それ以外にここにいる理由はないんだろうなぁ、きっと。
空は子供の頃に絵本でよく見たように薄く青くムラがあって
筆で擦ったように散り散りになっているふわふわな雲も嘘っぱちそのままだった。
赤茶けた大地、ここでは何もかもが乾ききっている。枯れ果てて、限りなく白色に近づいた茶色の雑草がまばらに地面を覆うその間にポツポツと樹木が立っていて、疲れ果てたかのようなくすんだ緑色の葉を太陽に押し上げている。
ふと、爽やかな風が体をすり抜けたような気がした。でもそれも嘘なのだろう。ここには初めて来たが、所詮はいつものように同じ夢の世界なのだろう。
せいぜい楽しむとしようか、ここで俺は何をしようか?
ぼんやりとあたりを眺めていたら、灰色の生き物がトツトツと歩いているのが見えた。
いつもの夢で会う人たちとはずいぶん様相が違うが、まあいい、あいつに話しかけてみよう。この夢の世界ではどんなやつだって俺に話しかけられたら、たとえ初めて会うやつだって、まるで昔からの友達みたいに笑って答えてくれるはずだから。
しかしながらこいつは俺を見るなり、まるで毒を持った毛虫に出くわしたかのように泣き叫んで逃げていくのだから呆然としてしまった。
俺はそんな風に扱われる人間ではない、ましてやここは俺の夢の世界だ、こんなふうに扱われる覚えはない。できる限り丁重に接したつもりだ。なのに奴は俺の言うことも何一つ聴かずに逃げようとするものだから、流石にむかっ腹が立って、逃げる奴の足に手を伸ばして力尽くで引き止めた。まるで断末魔のように大げさな声を上げて奴は倒れた。
多少手荒な真似はしたがやっと話ができる、そう思って近づいた瞬間に奴は消えてしまったのだからびっくりしてしまった。こんな夢は初めてだ。もしフロイトに分析させたとすればかなり屈折した夢なんだろうなと、ふと思った。まぁ、友達のいない俺にはおあつらえ向きな夢なんだろう。
結局誰もいなくなってしまったので、近くにあった金属性のアーチに身をもたれさせて、新しい誰かを待つことにした。
新しい誰かは予想外にすぐにやってきた。今度の奴は黄金色の毛皮に、所々粘土のように焦げた斑点のあるやつだった。
ただ一目見てわかったのは、こいつも話せばわかる相手ではないということだ。奴の目は明らかに俺を恐れていた。ただ俺はどうしても話がしたかったので手を伸ばした。しかしながらこいつは異常にすばしっこい奴で、すんでのところで俺の手をかわしやがる。
なぜ俺と話をしてくれないのだろう、不思議でたまらない。俺は話がしたいだけなのに、取って食う訳でもないのに。
俺が手を伸ばせば、奴の足が離れる攻防がしばらく続いた。
そんな中で流石に俺は悟った、結局俺はこの夢の世界では求められていないのだなと。たかだか夢の世界でも、このような寂しさと疎外感を味合わなければならないのかと思うと、夢の中なのにジクジクと下っ腹が痛むのを感じた。
ただこれは俺の夢の世界なのだ、お前らがどうしようと、俺の好きなようにさせてもらう。そう思い、瞬間の隙を付いて奴の足元に手をのばそうとしたそのとき、懐かしいものが目前に現れた。
紙飛行機だ。まるで濃縮されたかのように時間の流れを無視して、ゆっくりと俺の目の前を横切って行った。粗末な紙飛行機が俺の記憶をかき混ぜていった。
子供の頃、友達と一緒に紙飛行機を作って丘の上から飛ばしたっけな。
長く飛んだほうが勝ちだぜ、なんて笑いながら言って、何が楽しかったんだっけ?
もう忘れちまったよ、ずいぶん前に。
紙飛行機が飛んできた方向に目を向けると、あいつがいたから、びっくりしたよ。
でっかい帽子、まっすぐな瞳、目に焼き付くほどの赤いシャツ、あの頃と変わらない姿。俺は思わず手を伸ばしてしまった。またあいつと話が出来ると思ったからさ。
だが、俺が伸ばした手は残念ながら突然現れた屈強な女に止められてしまった。
夢なのにな、そんな馬鹿な、あぁ畜生なんて思った途端に夢が覚める感じがした。
痛みはないがあの黄金色のやつが俺にトドメを刺したみたいだ。
感覚がバラバラになってゆく、今日の夢はこれで終わりなんだなと脳裏によぎった。
妙に寂しかった、けど夢から覚める直前に俺は何故かこう思ったんだ。
きっとまた会おうねって。
夢から覚めるといつものようにゴミに囲まれた薄汚いベットの上にいたけれど、いつものようにもう一度寝ることはできなくて、むやみに酒を煽ってしまった。
自分でもわからないくらい、悲しみであったり、懐かしさであったり、喜びであったり、複雑なんだけれど暖かい感情がこんがらがっていたからなんだけどさ。
もしも、また夢であえたら、今度こそ昔みたいに友達らしく楽しく遊べたら良いな
なんて、どうにもならないこと思っちゃったりして。
ある夢の話 @karatarai
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