第二話「ふうしゃ 前編」

「わ! ねえ、なにか落ちてこなかった!?」

「多分、フレンズさん……だよね?」

「ええ!? カバンちゃん、どうしよう! 助けなきゃ!」

「でも、マルカさんは行っちゃったしー。助けるったってどうやってー」

「フェネック! 浮かんで来たのだ! 多分あの子がそうなのだ!」


 風車へと到着したカバンさん達。

 電池の充電はできなかったようですが、どうするのでしょうか?


 そして、今落ちてきたフレンズさんは一体!?

 海に落ちた後、背中を上にしてぷかぁーと浮かんで来ています。

 海に広がった尻尾は白色。白い髪の頭には茶色い翼が見えるので鳥のフレンズさんのようですね。


 って、背中が上だと呼吸できてませんよね!?

 早く助けないと!


「ど、どうしよう! バスを動かして助ける!?」

「そんな時間あるかなー? 早くしなきゃマズい気がー」

「ええーい! わたしが行ってくるよっ!」

「アライさんも行くのだーっ!」

「サーバルちゃん!? アライさん!?」


 勢いよく海へと飛び込むサーバルさんとアライさん!

 二つの水飛沫みずしぶきが上がり、それが収まる頃には、耳をピョコンと水面に突き出した二人のレスキュー隊がフレンズさんの元へと向かいます。


 お二人とも、大丈夫でしょうか?

 泳ぎはとっても上手なようですが……。


 あら?

 何かが聞こえてくるような?

 上の方で羽ばたく音が聞こえます!

 ですが、カバンさん達は気付いていません!


「あわわわ、サーバルちゃん達大丈夫かな……」

「ソーリー。少しいいかい?」

「ひっ!? た、たべ、食べないでうわぁぁ!」

「カバンさん!」


 上空からカバンさんの真後ろへと誰かが降り立ったようです。

 何かを尋ねようとしたのでしょうか。カバンさんの肩に手を掛けた途端、カバンさんが驚いて足を踏み外してしまいました!

 このままでは海へと落ちてしまいます!


 ですが、危機一髪。

 フェネックさんが何とか手を伸ばして助けることができたようです。

 ああ、よかった……。


「す、すまない。そんなに驚くとは思わなくて……」

「い、いえ、ぼくは大丈夫です。フェネックさん、ありがとうございます」

「間に合ってよかったよー。それで、そちらさんはどなたー?」

「ああ、私はハクトウワシだ。クールな空の旅を楽しんでいたんだが、連れが急にいなくなってしまってね」


 白から先端では黒へと変わる髪色。前髪が黄色で、黒茶色の翼を持つこのフレンズさんはタカ目タカ科ウミワシ属のハクトウワシさんでしたか!

 黄色い目や、黒いコートが格好いいです!

 ですが、コートにはピンクの線が入っていたり、青いスカート、黄色いブーツなど可愛らしいところもありますね!


 ハクトウワシはかつて絶滅寸前でしたが、保護活動によりその危機を脱したという過去があります。

 この勇猛な姿が見られなくなるかもしれなかっただなんて……。

 保護活動が上手くいって本当によかったですね!


「初めまして。ぼくはカバンといいます」

「私はフェネックだよー」

「カバンという動物は初めて聞くな。珍しい。実にクールだ」

「あ、いえ。本当はヒトなんですけど……。名前、になるのかな?」

「それでー、ハクトウワシさんはどうしたのー? 連れがどうとか言ってたみたいだけど」

「ああ、そうなんだ! 一緒にいたオジロワシが目を離した隙にいなくなってしまって!」


 ハクトウワシさんは、いなくなった友達を探すためにカバンさん達へと声を掛けたようですね。

 空中で消えてしまうなんて一体何が。


 いえ、待ってください。

 もしかして、さっきのフレンズさんは……。


「ふーん、飛んでる時にいなくなった、ねぇ」

「イェス。そうなんだ。もしかしたら、キミ達が見ていないかと思ってね」

「あ、あの、それってもしかして、あの方では……」


 そう言ってカバンさんが目を向けたのは、サーバルさんとアライさんがわっせわっせと泳いでいる方向。

 風車の方へ一人のフレンズさんを運んでいます。


 落ちてきたのは鳥系のフレンズさん。

 ハクトウワシさんのお友達である可能性は高いですね。


「ああー! オジロワシじゃないか!」

「やっぱり、そうなんですね」

「サンキュー、カバン! とにかく助けに行ってくるよ!」

「おおー。さすが鳥のフレンズだねぇ」


 頭の翼を広げて飛び上がったハクトウワシさんは、サーバルさん達のところへと向かいます。


 ぐったりとした落ちてきたフレンズさんを抱えて風車の下へと帰ってくると、その方をカバンさんへ預け、次はサーバルさんです。

 ハクトウワシさんの翼から零れるサンドスターが、キラキラと輝いています。


「ケホッケホッ。ううー、しょっぱいよー! なあに、あの水! さばんなちほーのとは全然違ったよ!」

「え、そうなの、サーバルちゃん?」

「おーい、キミー。大丈夫かーい?」

「それじゃ、私はもう一人を助けて来るよ。オジロワシのこと、よろしく頼むね」


 ハクトウワシさんに運んでもらったサーバルさんは息も絶え絶えの様子。

 サーバルさん、泳げはしますが、その機会は滅多にありませんからね。ましてや、海でだなんて。

 泳いだことによる疲れも相当なものでしょう。


 オジロワシさんは、まだ目を覚ましていないようです。

 フェネックさんが看病しているみたいですが、あんまり頬をぺしぺししてると真っ赤になっちゃいますよ……?


「うあー! 助かったのだ! 足がつっちゃった時はどうなるかと思ったのだ」

「一番平気そうだったから最後にしたのに、溺れかけてたからびっくりしたよ。間に合ってよかった」

「おー、アライさん。おかえりー」

「……ううーん」

「あっ! この子、目をさましそうだよ!」


 アライさんも合流して全員無事に集まりました。

 あとは、オジロワシさんですね。


 サーバルさんが呼んでいます。どうやら、オジロワシさんの意識が戻ってきたようです!


「オジロワシ、聞こえるか? 私だ、ハクトウワシだ!」

「うーん、ここは……。あ、ハクトウワシさん、おはようございます」

「ああ、よかった。目が覚めたんですね」

「おはよう! だいじょうぶ? 空から落ちてきたんだよ!」

「え、空から、ですか? あ、そういえば飛んでる時、何かにぶつかって……」


 オジロワシさんが起き上がりましたね。よかったです!


 タカ目タカ科オジロワシ属のオジロワシさんもハクトウワシさんと同じで前髪の一房と目が黄色になっています。

 茶色いコートに黄色のブーツ! こういう渋い格好よさもいいですが、本人はオドオドしていて少し伏し目がちなようです。

 堂々としていたらとっても貫禄がありそうなのに……。


 オジロワシさんには飛びながら眼下の獲物を探す習性があります。

 このため、高い建物、特に風車の羽部分にぶつかることが多いのです。

 このオジロワシさんも、きっと飛んでいる時にカバンさん達を見付けて見入っていたのでしょう。

 そのまま風車にガンっと……。うう、想像しただけで痛そうです。


「そ、それって大丈夫なのだ!?」

「え、ええっと、ちょっとほっぺたが痛いぐらいですね」

「なんでだろーねー。ぶつかった時か落ちた時に打っちゃったのかなー。何にせよ、無事でよかったねぇ」

「全くだ。本当に感謝する、みんな。ベリーサンキュー、だな」


 フェネックさん……。

 きっと、頬が痛いのはフェネックさんの看病のせいだと思いますよ。

 私から伝える手段がないので今はどうしようもありませんが。


「そういえば、あなたはだれ? あ、わたしはサーバルだよ!」

「私はハクトウワシ。そして」

「あ、あのオジロワシって言います。ごめんなさい、またドジしちゃって皆さんに迷惑を掛けちゃったみたいで……」

「ぼくはヒトのカバンです。怪我も無くてよかったですね」

「アライさんなのだ! アライさんにかかれば溺れているフレンズを助けるぐらいチョチョイのチョイなのだ!」

「あれー、アライさん。その後溺れかけたんじゃなかったっけー。あ、私はフェネックねー」

「あ、あれはふりょのじこ、ってやつなのだっ!」


 皆さんの自己紹介も終わったところでホッと一息。

 でも、忘れてませんか?

 このままでは、バス動かないままですよ……?


『かばん。電池ノ充電ヲシナクチャ』

「あ、そうでしたね。ありがとうございます。ラッキーさん」

「ワッツ!? 今、カバンの腕が喋らなかったかい!?」

「ハクトウワシさん、きっとその腕に付いてるのからかと……。多分。違ったらごめんなさいです……」

「ふっふーん。これはね、ボスなんだよ!」

「そうなのだ! カバンさんといるとボスが喋るのだ!」

「ボスはこんなに小さかっただろうか?」

「まーねー。色々あったんだよー。うん」

「そ、そうですか……」


 そりゃあ、驚きますよね。

 人がジャパリパークから撤退したことで、ラッキーが話すというだけでもフレンズさんからすれば見たことも聞いたこともないものになってしまったはずですから。


 しかも、カバンさんの案内を担当したラッキーはメイン部分のみで起動していますからね……。

 初めて見た時は、私もびっくりしましたよ。


「あの、お二人は鳥のフレンズさんですし、こんなマークは見たことありませんか?」

「この建物の根本に付いてる、このマークかい?」

「う、あの、ごめんなさい。見たことないかもです。……すみません」

「そうなんだね! うーん、どうしよう、カバンちゃん!」

「この、風車、だっけー? これと同じものがあればいいかもよー」

「この建物と同じものかい? それなら……」

「それなら、アライさんが見付けたのだ!」

「アライさん!?」

「おー、アライさんがー。いつの間にー」


 風車は風で電気を発電するものですから、他に風車があれば充電ができるかもしれませんね。

 ですが、その風車が動いていなければどうすることもできません。


 アライさんは風車の反対側へと走って行ってしまいました。

 大きな風車はグルッと一周するだけでも大変です。皆さん、急いでアライさんを追いかけていきます。


「ア、アライさん、待ってくださーい!」

「カバンさん、ほら、あっちを見てみるのだ!」

「え? ああ! あれは!」

「すっごーい! ふうしゃがいっぱいあるよ!」

「ザッツライト。これと同じものはこの先にいくつかあるんだよ」

「あんまり、近付いたりはしないので、同じ模様があるかは分からないんですが……すみません」

「まあ、でもこれで、何とかなるかもしれなくなったねぇ。アライさーん、いつ見付けたのさー」

「オジロワシを助けた時に見えたのだ!」

「えー! わたし、全然分かんなかったよ!」


 風力発電機が一直線に並んでいる光景は圧巻です。一つでも動くものがあればいいのですが……。


 遠目からでも羽が無くなっていたり、欠けていたりと、動いているようには見えません。

 それに、さっきも見た黒いものがところどころに浮かんでいるのが気になります。


「とにかく、バスで向こうへ行ってみましょう!」

「おー!」

「私達も付いていってみようか。オジロワシを助けてくれたお礼もしたいしね」

「お、お役に立てるかわかりませんが……」


 みんなでバスに乗り込んでいざ出発です!

 今度はアライさんとフェネックさんがわっせわっせと漕いでいます。


 あ、今、風車の上の方がチラッと。


 え、あ、あれは!?

 上部分が黒く何かに覆われて……。


 皆さんは風車がそういうものだと思っていたようですが、そんなことはありません。

 前に資料を見掛けた時は確かに、真っ白だったはずです。


 一体、何が……。


 バスは二つ目の風車に近付いてきました。

 少し、嫌な予感がしますが、大丈夫なのでしょうか。


「とうちゃーくっ!」

「早速、充電してみるのだ!」

『コノ風車モ動イテイナイミタイダネ』

「そうですか……」

「ドンウォーリー。まだまだあるさ」


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「やっと着いたー。今度はサーバルさん達お願いねー」

「フェネックはあんまり漕いでなかったじゃない!」

「どうですか、ラッキーさん?」

『ぴぴぴ。ココモだめミタイダヨ』

「よーし、次へ行くのだー!」


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「飛ばずに漕ぐのも案外楽しいものだな」

「サーバルさん、代わってもらっちゃってありがとうございました」

「きこきこ、たのしーよね!」

「今度はどーかなー?」

『動イテナイヨ』

「つ、次へ行きましょう!」


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 連戦連敗。

 やはり、動いている風車はなかなか見つからないようです。

 それでも、サーバルさんとアライさんは楽しそうに自転車を漕ぎ続けていますね。


 他の皆さんは、少し休憩中でしょうか。

 袋の中からジャパリまんを出してお食事中のようです。


「いやあ、私達の分まで貰っちゃって悪いね」

「ご、ごめんなさい。助けてもらったのにジャパリまんまで……」

「気にしないでください。みんなで食べた方がおいしいですから」

「で、でも、サーバルさんとアライさんは頑張ってるのに……」

「ふぁひぃほーふ! ふぁふぉふぃーかふぁ!」

「わんわるうぉわー!」

「うん、何言ってるか分かんないけど、楽しそうで何よりだねぇ」


 サーバルさんとアライさんはジャパリまんを咥えながら漕いでたんですね。

 後ろ姿しか見えないので分かりませんでした。

 落とさないように気を付けてくださいねー。


「そういえば、この辺りにはフレンズさんが見当たりませんね」

「海で暮らすフレンズはあんまりいないからね。虫のフレンズが少ないように、魚のフレンズもあんまりいないんだ」

「この辺りはフレンズが生まれることもあるんですけど、この建物に近付く子はなかなかいないですから……」

「えー、なんでだろー?」


 風車に近付くフレンズさんがいない、ですか。

 特にフレンズさんへ害を及ぼすようなものは無かったはずですが。

 というより、そんなものは審査が通るはずありませんね。


 ということは、人が完全退去してから何かが……?


「あ、あの、実は、この建物には噂があるんです」

「う、噂ですか……?」

「イェス。この建物にまつわる噂。そのせいでフレンズ達は近寄らない。その、噂とは……」

「……ごくり」

「この建物がセルリアンなんだ!」

「ええーっ!?」

「なのだー!?」

「あーあー、サーバルさんもアライさんもジャパリまん落ちちゃったよー」

「そ、そそ、そんなこと言ってるばあいじゃないよ、フェネック!」

「そうなのだ! 早く逃げるのだ!」


 うーん、この風車がセルリアン、ですか。

 確かに、セルリアンは姿を真似る特徴がありましたが、ここまで精巧なものではありません。


 何かの間違いではないでしょうか。

 ですが、フレンズさん達が近寄らないのも事実。何か原因があるはずです。


「ハ、ハクトウワシさん、怖がらせすぎですよ! ご、ごめんなさい。あくまで噂です。食べられたって子も聞いたことありませんから」

「あ、そ、そうなんですね。よかった……」

「じゃ、じゃあ近付いてもへーき?」

「だが、オジロワシ。近付いたら不気味な声が聞こえた、という話はよく聞くぞ」

「や、やっぱり逃げるのだぁーっ!」

「アライさーん。今まで何もなかったんだから心配することないってー」

「うぅ、やっぱり怖いのだぁ。でも、じゅうでんもしなきゃいけないのだ」

「そ、そうだよ! じゅうでんしなきゃ、カバンちゃんのナワバリに行けないんだよ! 頑張らなきゃ!」

「サーバルちゃん……」


 何が原因なのでしょうか。

 食べられたフレンズさんがいない、というのはよかったですね。やっぱり、セルリアンでは無さそうです。

 ただ、声が聞こえるというのは一体……。


 ジャパリバスは次の風車へと近付いていきます。

 今回も羽は回っていませんが、大丈夫でしょうか。


 バスを岸へ寄せようとした、その時。


 オオオオオオン


 辺りへと響く重低音!

 こ、これがセルリアンの声!?

 大変! 皆さん、離れてくださいっ!


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 オジロワシはもう、なんと言っても格好いいんですよ。

 オオワシとかよりも小さいんですが、フォルムが好きですね。

 小さい頃は黒色で白い斑点が付いてて、目やくちばしの色も違うんですが成長していくと成鳥に近付いていきます。

 今はオジロワシの住める場所は少なく、森林伐採や海岸開発、他にも電線での感電や風力発電への衝突で個体数が減ってきていて。

 繁殖率ぅ……ですかねぇ……。

 最近だと減ってきているので、何とかまた増えていって、皆さんにオジロワシの格好いい姿をたくさん見てもらいたいところですね。


 うぃきぺでぃあ ろいらんさん (ねっと)

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けものフレンズ いってんご! ろいらん @royran

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