けものフレンズ10.5話 ろっじ〜ばばぬき〜

@kakak

第1話

「ねえねえ、かばんちゃん! こんなの見つけたよ」


 ここはジャパリパークの一画。

 アリツカゲラが運営するロッジにて。

 しなやかな体躯と立派なお耳が特徴的な、サーバルキャットのフレンズが明るい声と共にラウンジへと走りこんできた。

 カントリー風でラスティックなその室内には、数人のフレンズたちが寛いでいた。


 声をかけられた少女、体に似合わぬ大きなかばんが目を引くニンゲンのフレンズは、その短く揃えられた黒髪を揺らしてサーバルキャットの駆けてきた方向が厨房であることを確認すると、何かを察したようにひとつ頷いた。


「サーバルちゃん。またジャパリまんをつまみ食いしてたの?」

「食べてないよっ!」


 まさかの濡れ衣に彼女は飛び上がった。

 その様を見て、美しい毛並みと異色の虹彩オッドアイがミステリアスなタイリクオオカミが、揶揄うように問いかける。


「本当かなぁ」

「嘘じゃないよっ!」

「むむむ、その必死さ。むしろ怪しいです!」

「ジャパリマンの タベスギは ヒマンのゲンインに ナルよ。 チュウイシテね」

「もう、アミメキリンさんにボスまで。 ひどいや!」


 黄色と茶色が目に眩しいアミメキリンに加えて、タイミングよく(悪く?)パークガイドロボットであるラッキービーストの解説が入ったことで、ロッジに楽しげな笑い声が溢れた。


「あはは、すまないね。面白そうだったから、つい」

「ごめんね、サーバルちゃん」


 タイリクオオカミが緩やかな仕草で、かばんが少し眉尻を下げて、それぞれ謝意を示す。

 サーバルがそれに応えた後、改めてかばんが水を向けた。


「それで何を見つけたの?」

「あ、そうだった!」


 いそいそと彼女が取り出したのは、綺麗な格子模様が描かれた四角い箱。手のひらサイズのそれを開けると、中には同じく格子模様が背面に描かれたカードの束と、一枚のメモが入っていた。


「この紙に文字が書いてあるんだけど、かばんちゃん読める?」


 そう言ってテーブルに広げられたメモの上に、かばんだけでなく皆の顔がヌッと勢ぞろいする。

 視線の先には丸みのある女性的な筆致で「ラッキービーストにかざしてみてね☆」という一文が。加えて、フレンズがラッキービーストにメモ紙を見せるイラストが添えられている。

 皆が一枚の紙を覗き込んでいるところに、一人のフレンズがやってきた。

 柔らかそうな羽毛と小さなメガネが控えめな可愛さを醸し出す彼女は、このロッジを運営するアリツカゲラのフレンズである。


「おやぁ、みなさんお揃いで。 どうかされましたか?」

「ちょうどいいところに来たね。これから何かが起こるよ」

「何か、ですか?」


 あやふやな言葉に小首を傾げるアリツカゲラ。

 一方、メモに集中していたかばんが行動に移った。


「ふむふむ。こう、かな?」


 彼女の隣にいたラッキービーストの目前に、ひらりとメモ紙をかざした。

 すると小さな電子音と共に、瞳がプロジュクターのように光り出す。


「「「おぉ!」」」


 彼女たちの目前に、立体映像が現れた。

 つい先ほどまで発生していたセルリアン騒ぎの張本人、みらいさんだ。


「このラッキービーストは過去のみらいさんとやらを、いったい何人呑み込んでいるんだ」

「またまた怖い言い方を……」


 タイリクオオカミの不穏当な物言いに、アミメキリンは声を震わせた。

 そんな中、当然ながら映像は二人を待たずに再生されてゆく。


「録画はちゃんとできてますか? え、あ、もう始まっていますか。 ……おほん、それでは。フレンズのみんなで楽しく遊べる『ババ抜き』を、これから伝授しまーす!」

「「「ばばぬき……?」」」


 それぞれ姿形の違う五人は、しかし一様に疑問符を浮かべるのだった。







「むむむむ……」

「ぬぬぬぬ……」


 真剣味を帯びた二対の瞳は片や相手の手札を睨みつけ、もう一方はそんな彼女の動向を注視している。

 前者がサーバルキャット、後者がアミメキリンだ。


「むむ、これだっ!!」


 サーバルキャットの野生の感が引き当てた。ジョーカーを。


「あちゃー」

「どんなもんです! 名探偵は伊達じゃないですよ!!」


 なぜか得意げなアミメキリンだが、カードを引かれただけであって特に推理はしていない。

 その様子を見て、次にカードを引くタイリクオオカミが悩ましげな素振りを見せる。


「ふむ、厄介だな。どうやらばばを引いたようだね、サーバル」

「どうして分かったの!?」

「ふふ。 どうしてだと思う?」


 余裕のある態度を前に、アミメキリンの脳裏に恐ろしい推理がよぎる。


「ま、まさか心を読むのが得意なフレンズなのでは……」

「そ、そんな!?」

「落ち着いて、サーバルちゃん」


 迷推理に翻弄されるサーバルキャットを、優しくなだめるかばん。

 そんな彼女たちの姿に、タイリクオオカミは笑みを深めた。


「さあ、カードを引かせてもらうよ」

「ど、どこからでもかかってこい!」

「威勢がいいね。 これかな? それともこれかな?」

「うぅ。 ぬぬっ! うぅ……」


 手札の上をゆっくりと移動する、鋭い爪と弄る言葉。

 それらにわかりやすく反応してしまうサーバルキャット。


「うん、これかな」

「!!」


 果たして、引き抜かれたのはジョーカーであった。

 サーバルキャットは先きほどの失敗から学び、喜びをなんとかひた隠しにする。


「さあ、引いていいよ」

「あ、はい」


 タイリクオオカミから自然に差し出された手札のうち、一番引きやすい位置にあるカードを何気なく引くかばん。


(ん……?)


 その結果舞い込んだジョーカーを目にして、首をかしげるかばん。

 タイリクオオカミに視線を向けるも、ゆったりとした笑みが帰ってくるばかり。

 仕方なくアリツカゲラへと手札を向ける。


「どうぞ」

「うーん、どれがいいでしょうか……」


 悩みつつ引き抜かれたのは、またしてもジョーカー。

 丸メガネを軽く上げて間近でカードを確認すると、軽く肩を落として手札を差し出した。


「キリンさん、引いてください」

「むむむ、アリツカゲラさんの持ち方、目線の動き……間違いありません! これです!!」


 迷推理が偶然にもジョーカーを回避する。

 しかし、


「ふん、ふんぬっ、ふぬうう!!!」


 全体重をかけるアミメキリン。だがそのカードはアリツカゲラの右手共々、びくともしない。


「な、なぜか引き抜けないんですが!!??」

「はて、どうしてでしょうかぁ」


 小首を傾げて空とぼけるアリツカゲラ。

 仕方なく他のカードに手を伸ばすアミメキリンだったが、


「ぬ、抜けないぃぃぃ……っ!」

「不思議ですねぇ」


 そんなやり取りを繰り返し、最終的には唯一簡単に引き抜けるカード、ジョーカーが彼女の手に渡る。


「し、釈然としないです!」

「ふふふ。 お客様とはいえ、手加減はいたしませんよぉ」


 静かな圧力を前に、ガタガタと震えるしかないかばんたちなのであった。




 そんなこんなで勝負は進み、アリツカゲラが一番抜けを文字通り掴み取り、サーバルキャット、アミメキリンと手札をなくし、最後にはタイリクオオカミとかばんが残された。

 お互いの手札はそれぞれ一枚と二枚。次はタイリクオオカミがカードを引く番である。

 彼女はかばんにアイコンタクトをとり、その美しい双眼を細めて笑った。


(さて、ここからが本番だ)

(やっぱりそうでしたか)


 真剣勝負を存分に楽しむ相手としてかばんに目をつけた彼女は、あえて上がらないようにしていたのである。

 それを感じ取ったかばんも敢えて思惑に乗って、この一騎打ちが実現したのであった。


「さあ、引かせてもらうよ」

「お手柔らかにお願いします」


 二人から醸し出される気配に当てられ、他の三人も息を詰める。

 タイリクオオカミの手が、ゆっくりとかばんのカードへと伸ばされた。


「これかな?」

「……」

「それともこっちかな」

「……」


 揺さぶりをかけるタイリクオオカミだが、かばんの黒い瞳は毛ほども揺るがない。そこにはただ、圧倒的な理性が湛えられている。

 心根の優しい真面目な彼女ではあるが、であればこそ相手の気持ちに応えようとしている。つまり本気なのだ。


「……そういえば、背後から忍び寄るセルリアンの話を知っているかい?」


 得意の怪談でペースを掴む作戦のようだ。

 しかしかばんは無言のまま、ロッジのアメニティである耳栓を取り出して装着した。


「「「おお!」」」


 観衆から歓声が上がる。

 フレンズが耳栓の使い方を知った瞬間であった。


「なるほど。それは音を遮断するものだったのか。興味深いね」


 言いつつ、彼女は眼光を鋭くする。


(手詰まりか。運に任せてもいいが、ここは奥の手だな)


「……野生解放」


 小さく呟くと同時、異色虹彩オッドアイが妖しく輝き、体から緩やかに光りが溢れ出す。

 驚愕に目を見開くかばん。瞬間、勝利を確信するように笑みを深めるタイリクオオカミ。

 迷いなく、一枚のカードを引き抜いた。


「え!?」


 かばんは驚愕した。すぐに耳栓を取り外す。


「ふふふ。君の手札は丸見えだったよ」


 揃ったカードをテーブルに散らしながら、余裕の笑みを浮かべている。


「いまのは一体……?」

「ふふふ。野生解放だよ。身体能力が暫くの間、大きく上昇するのさ。かばんくん、君の精神状態も匂いで分かるし、その瞳に映ったカードの柄も丸見えさ」


 その手があったか、と気がついた他のフレンズたち。

 これから皆の能力が向上した、ルール無用の二回戦が始まるのだが……アリツカゲラの指力が最強であった、という事だけを記述しておこうと思う。





 ててってれっててーてれって


 ウィキペデア動物園、とある飼育員のお話。

「キツツキは全体重を足で支えながら、とてつもない力で木をつつくんですね。なのでかなりの握力があると言えるんじゃないでしょうか。

 ……ただ、アリツカゲラは地上性なのでうんぬんかんぬん」


 ててっててってれ〜、てってって

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