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ブリーフィングルームを出ようとすると、ほかのメンバーも出るところだった。図ったわけではないが、たまたま一緒になったようだ。志紀は、ずっとタブレットを持ちながら難しい表情をしている。あのタブレットは取り外しも出来るのか、と、ずれた感想が浮かんだ。
ベクター小隊のブリーフィングルームは二階にある。食堂と購買は一階にあり、階段を降りようと全員がそちらに向かっていた。すると、行く途中で、階段の前にある電子掲示板の前に生徒が集まっている。なんだろうと顔を覗かせると、学生証が五つ並んでおり、内二人は赤くバツが付けられていた。
とても不吉な、赤い印。
嫌な予感に眉を寄せると、前に集まっていた生徒の何人かの口から、「作戦」「戦死」「成功」という単語が聞こえてきた。
「戦死」
それは、聞きたくない単語だった。
固まる司の後ろで、ベクター小隊の面々が同じように電子掲示板を覗く。
「クルツ隊の戦果報告じゃねぇか」
「戦果速報来たっす。清水谷と竹本死んだらしいッスね。でも作戦は成功らしいっす」
「へぇ。
あ、次座学かよ。フケよう」
「技術不足な人間は隊の足を引っ張るだけです。それだけの人材しかいないとは……作戦が成功したのが救いですか」
司は、呆然とその光景を見ていた。あまりに平然と戦死を受け入れている。あの悠太でさえ、顔色一つ変えずにその死を受け入れている。それは、司の知っている悠太ではなかった。
メンバーは、平然とした顔で言っている。人の命よりも、作戦が成功したことを称えている。
人の命よりも。
この人たちは、もうどこか壊れている。
「……クルツ隊、つらいだろうな……」
ポツリと、痛そうに志紀だけが呟いていた。
それが妙に、司の心に残った。
後ろに流れてしまったクルツ隊の戦果報告を、知らず目で追う。いつか自分も、人の死より作戦の成功を祝うような人間になるのだろうか。いつか自分も、悠太たちのようになるのだろうか。
そんな未来が来てほしくはなく、唇を噛む。けれど同時に分かっていた。今、現在の時点で清水谷の死をどこか他人事のように受け入れている自分もすでに、どこか壊れているのだろう、と。
「よろしくな」と言われた。
「こちらこそ」と返した。
あの時から、確かに彼は学友だったのに、司の心は揺れていない。
『死』という現実に揺れていない。
「……僕も、最低だな」
呟いて、自嘲した。悠太たちより、自分の方がよっぽど酷い人間だと、そう思った。
「司っち、何か言ったっすか?」
悠太の問いに、微笑んで首を振る。
「なんでも」
そう、何でもない。
何でもないことが一番の問題なのだが、そこを悠太に言うつもりはなかった。
The Ruin's Sky -The unknown’s War- 月野 白蝶 @Saiga_Kouren000
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