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「あんな態度をとってしまってすまない。今日は観測数値が高い注意報な上に、自分たちがスクランブルだからみんな気が立ってるんだ。いつもはもっと友好的……ではないけれど、もう少し温和に対応できたと思う」
申し訳なさそうに志紀はそう言うけれど、果たして本当にそうだろうか。日が違えば彼らは態度を改めただろうか。
そうではないだろうと、司は思った。
彼らは、きっと態度を改めることはない。今日のまま、あのままの態度で変わらないのだろう。そう分かってしまうほど、今日の彼らの態度は強固だった。
「おいで、俺の部屋はこっちだ」
促され、思考を外に向ける。視線を志紀に移すと、彼は廊下の突き当りにいた。近寄ると、角の向こうには右手に階段があり、左手にはドアが並んでいた。生徒たちの部屋にしては間隔があいている。あれは何のドアだろうか。
「あっちにあるのは風呂場だ」
首を傾げると、視線に気付いたのかドアを指しながら志紀がそう言った。ドアには『女湯』『男湯』と書いてある。先ほどの説明から、勝手にここには男子しかいないと思い込んでいた司は驚いた。
司の驚きを察したのだろう。志紀は顔を背け小さく肩を震わせる。
「女生徒がいるのか、って驚いただろう」
反論できず、小さく頷く。すると、彼はなおさらおかしそうに笑う。
「男子は徴兵制だけど、女子は志願制なんだ」
だからいても人数は少ないんだよ、と笑いながら言われたが、司はその言葉に引っ掛かりを覚えた。
「志願、するんですね」
話を聞くだけでも、ここがいかに危険なことをしているのかが理解できる。そんな危険なところに志願する人間がいることが、司は不思議で仕方なかった。
司の呟きをどう捉えたのか、志紀は苦笑を浮かべる。
「するんだよ。理由がどうあれ、テラーを倒したいという理念のもと人が集う」
そうして、ふっと遠い目をして志紀が言葉を切った。
「遠坂さん?」
問いかけると、我に返った彼は取り繕うように笑みを浮かべた。出会ってから初めて見る偽りの笑みに、首を傾げる。今の会話のどこに、彼の琴線に触れるものがあったのだろうか。まだ彼という人となりはよく知らないが、今まで会話してきて、そんな笑顔を浮かべる人間とは到底思えなかった。
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