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首を傾げる司がおかしかったのか、志紀はクスクスと笑いながらドアを開けた。
「今は五月だよ。例年に比べてちょっと肌寒いけどね。桜は残念ながらもう散ってしまったんだ」
そう言いながら、志紀の指が校舎の向こうを指さす。
「ちょうど向こうにある公園に、大きな桜の木があってね。毎年見事な花を咲かすんだ。できたらあとで散歩がてら案内するよ。
さぁ、こっちだ」
促され、寮の中に入る。フローリングの床は綺麗に磨かれ、太陽光を反射している。風を通しているのか、廊下の窓はどれも半分ほど開いていた。右手に大きな部屋があり、中を覗くと、平行に並んだ机と椅子。部屋の突き当りにはカウンターがあり、その奥には厨房が見えた。ここは
「ああ、そこは食堂だよ」
立ち止まった司を咎めず、一緒に部屋を覗き込んだ志紀が、問うより先にそう教えてくれた。思った通り、食堂だった。
「生徒はタダで食べられるんだ。お願いしたらお弁当も出してくれるよ」
「内緒だけどね」と言って人差し指を唇に当てる志紀に、思わず笑う。
すると、嬉しそうに志紀が破顔した。
「そうそう、その調子その調子! 君はどうやら無表情のきらいがあるね。ここでは毎日暗い話題ばかりだけれど、やっぱり笑った方がいい。きっとその方が楽しいよ!」
明るく笑う志紀につられて笑みがもれる。これくらい明るい方が、あのバラバラのメンバーをまとめる人間に相応しいのかもしれない。
ふと、あの部屋で会った他のメンバーを思い出す。自分のことを、悠太と呼ばれた少年と同等かそれ以上だと評したのは、智治という赤毛の少年だった。自分のどこをどうとったらそう見えるのかは分からないが、少なくとも智治の目にはそう映ったようだ。
そして、けして友好的とは言い難い態度を思い出す。
「あの、他のメンバーの方々は……」
言い淀むと、言葉の先を察したのか志紀は少しだけ笑みに暗い色を混ぜた。
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