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言葉を探す志紀が、司の後ろを見て目を丸くする。何事かと振り返れば、前髪をボンボン付きのゴムで結んだ少年――悠太がやって来るところだった。
「悠太?」
訝し気に声をかけると、悠太は志紀に気付いて片手を上げた。
「遠坂先輩、こんちゃーっす」
「ああ、こんにちは。……じゃなくて! お前、今日はスクランブル要員だろうが!」
慌てる志紀に、悠太はへらりと笑う。
「いやぁ、忘れ物しちゃったんっすよ~」
「忘れ物?」
わざわざ取りに戻るほどのものだ。きっと大事なものなのだろうと、司も志紀も真剣な顔になる。
そんな二人に、悠太はあくまで気の抜けた笑みを向けるだけだ。
「そうなんすよ~
ノクス小隊の女の子から貰った手紙を部屋に忘れちゃって~」
思わずこけた。
立ち直りの早かった志紀が、震える指で悠太を指した。
「おん、おんな、女の子からの手紙?」
「そうなんっす~、結構かわいい子なんっすよ。今度合コンの約束してて~。あ。遠坂先輩もどうっすか?」
「行かない!」
顔を赤くして叫ぶ志紀に、悠太は「もったいない」と眉を寄せた。そして、ようやく司の存在に気付いたのか、悠太の視線が厳しくなった。先ほど智治に言われた言葉を思い出したのだろう。
刺すような視線に、居心地悪く目をそらした。
「あんた、マジで入学するつもりっすか?」
志紀と話していた時とはうって変わった硬質な声に、そろりそろりと頷く。一度入学すると決めたのだ。今更撤回する気にもならなかった。
それに
自分には、ここ以外に行く場所などない。
司の返事が気に入らなかったのか、悠太は不満げに鼻を鳴らした。
「『エウロパ』の操縦も知らない生徒なんて、足手まとい以外の何物でもないっすよ」
「悠太!」
「なんっすか。マジな話、そうでしょ」
悠太を諫める志紀だったが、司はそれよりも気になることがあった。
「エウロパ?」
問いかけを口にすると、悠太はなおのこと不満げな顔になり、志紀も困ったように眉を下げる。
「やっぱり素人じゃないっすか」
悠太の言葉を、司は心の中で否定する。
違う。
知識は言っている。
それは戦闘機だ。
自分はそれを知っている。
どうしてだか知らないが、知っている。
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