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 彼女は司の目の前で立ち止まると、厳しい視線を志紀に向けた。


「遠坂隊員。民間人を当校に連れ帰るとは何事ですか」


 詰問に近い言葉を、志紀は手を背で組みながら涼しい顔で受け止める。


「当校と関連が深そうなので連れて帰りました」

「何を世迷言を。この少年のどこが当校と関連が深いのですか」


 厳しさが増す彼女の視線を受け流し、


「この少年は、三十二年前に発生した乗鞍岳暴発事件に巻き込まれた研究員であると判断致しました」


 サラッと、そう言った。それに、司も思わずギョッとする。司令官は志紀の言葉が意外だったのか、目を丸くした。


「何故、そのように断言できるのです」


 益々キツくなっていく彼女の声に、けれど志紀は涼しい顔を崩さない。


「彼の持っている情報から、二〇二六年に発生した乗鞍岳暴発事件の証拠らしきものを発見したからです」


 志紀の言葉に揺らぎはない。まるでそれが正と言わんばかりの落ち着きぶりに、さすがの司令官も狼狽えたようだった。


「その証拠とは何です」


 司令官の質問に、ようやく志紀は司を見た。


「見せても構わないかい?」


 それはおそらく、あの手紙のことだろう。見せることに若干の躊躇はあったが、見せないことには話が進まないことも何となく察した。恐る恐る頷く。

 司の反応を待ってから、志紀は手にしていた手紙を司令官に手渡した。彼女はその表紙を見て、まず眉を顰める。そして名前を見て、怪訝な表情をした。


「神宮寺?」


 何かおかしな点でもあっただろうか。名前を見て眉を寄せる司令官に、司は一抹の不安を覚えた。そんなことは露知らず、裏面を返して彼女は更に訝し気な顔になる。


「あずさ……」


 裏面に記載されている言葉を繰り返し、司令官は司を見た。

 身構える司に、ゆるく首を振る。


「中身を見ても構いませんか?」


 その問いに、またも恐る恐る頷く。彼女が何を思って訝しげな顔になっているのかが司にはわからなかった。

 中の便せんを丁寧に広げ、彼女は無言で手紙の中身を読んだ。読むにつれて、困惑が顔に広がっていく。何故そんなに困惑するのだろうか。司は訳も分からず不安ばかりが広がっていった。それを察したのか、志紀がそっと司の背を叩く。見上げると、彼は安心させるように微笑んだ。

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