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 手紙を読み終わった司令官は、丁寧にそれを元に戻し、疲れたようにため息をついた。


「確かに、彼は乗鞍岳暴発事件の生存者のようです」


 どこを見てそう判断したのか、正直な話、司にはまるで分らなかったが、とにかく彼女は志紀の言葉に納得したようだった。

「しかし」と司令官は続ける。


「それと入学させるかという話は別問題です」


 当然のことに、けれど志紀は揺らがない。


「全ての学徒に戸を開け、というのが理事長のお言葉ではなかったでしょうか」

「それはそうですが」

「加えて、神宮寺くんの年の頃であれば、本来なら徴兵されて然るべきです。違いますか」


 志紀の言葉は正論だったのだろう。司令官が唇を噛むのが見えた。逆に、何故彼女がここまで頑なに司の入学を拒んでいるのか。司にはそちらの方が不思議だった。涼の話を聞く限り、人手はいくらあってもいいはずだ。それなのに、司令官は司の入学をひたすらに拒んでいる。それが不思議だった。


「僕が入学することにより、不都合があるのでしょうか」


 だから、尋ねた。軽い気持ちだった。ただ気になっただけだったのだ。

 それなのに、

 彼女は目に見えて大きく動揺した。

 その反応に、志紀も司も目を丸くする。今の発言のどこに動揺する所があったのだろうか。


「司令官?」


 訝しげな志紀の声で我に返ったのか彼女は眼鏡をあげながら二人から視線をそらした。


「わ、分かりました。入学テストを許可します。

 テスト内容は高等学校と変わりません。国語、英語、数学、世界史、日本史、化学、生物、地学、物理。百点満点の内八割を越えれば合格です。加えて、アルゴノーツでは、別に体育の試験もあります。こちらは反復横跳びなどの神経テスト、マラソンなどの耐久テストなどです。こちらも八割で合格となります」


 早口で言い切り、司令官は志紀たちに背を向けた。


「試験は明日執り行います。それまでは遠坂隊員、貴方が面倒を見るように」


 そのまま答えも待たずに去ってしまった彼女を二人は呆然と見送る。司が志紀を見上げれば、彼もまた、こちらを見て肩をすくめた。


「神宮寺くん、行こうか。俺の部屋に案内するよ」


 そう肩を叩かれ、司は頷く。共に司令室を後にするとき、ふと視線を感じて司は振り返った。

 後ろでは、司令官がジッと、自分を見つめていた。

 訝しむより先に、静かにドアが閉まった。

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