俺の求める理想の美少女との出会い方とはこういうことなんだ
真白(ましろ)
俺は立ち上がり叫んだ。
「ただの美少女には興味がない! 幼馴染とか、メガネ取ったら美少女とか、パンくわえて曲がり角でぶつかってパンツ見えるとか、せめて異世界からきた美少女はいないのか!」
「またずいぶんと懐かしいところからパクったな」
「団長からパクってわけではないし、アレは永遠の名作であり懐かしいなどと過去の作品扱いをするな」
「まあそれはいいとしてだ。いまさら幼馴染は手に入らないし、メガネを取ったら美少女ならメガネをかけてても美少女だし、パンをくわえて走る女の子は可能性はゼロとは言えないが望むべくもないし、とりあえずアレだ。お前が異世界に行け」
そんな話を学校帰りのバーガーショップで友人としたのが三日前。
俺は異世界にいた。
待ってくれ、ちゃんと聞いてくれれば分かる。朝起きたら異世界にいたんだ。嘘じゃない。だってこのどう見ても中世ファンタジーな町並みと、見たこともない(ある意味では見慣れた)服装に身を包み行き交う人々。通りには馬車が闊歩し、御者には角が生えてる。露店で売ってるのは野菜か果物かもわからない植物っぽいものとか、深海魚にしか見えない(深海魚かも知れないが)魚とかなんだぜ?
これが異世界じゃなかったらなんなんだ。アレか、夢か。いや、もう夢でも問題ない。というか正直どうしていいのかわからんから夢でもいい。
とりあえず、俺が現実世界にいた最後の記憶はベッドの中だ。さっき朝起きたらとは言ったが、起きたのが本当に朝かはわからない。少なくともこの異世界では夜ではなかったし、さっきより太陽っぽいやつが昇ってるからきっと朝だったんだろう。
どうしていいのかわからず町をさまよっていたが、さっきから周りの視線が痛い。たぶんこのTシャツとジャージのせいだろう。俺は今日ほどパンイチで寝る習慣がなかったことに感謝したことはない。突き刺さる視線を避けるようにしていたからか、いつの間にか人通りの少ない裏通りのようなところを歩いていた。帰り方もわからず、かといって行き先も不明。喉も渇いたしお腹も空いた。そしてトイレに行きたい。
途方に暮れている俺に、いきなり路地から何かが飛び出してきて衝突した。俺は突き飛ばされ尻もちをつき木箱に頭をぶつけた。
「ってぇ……」
頭をさすりながら飛び出してきたものを確認するとパンツだった——いや違う、女の子だった。しかもパンらしきものをくわえているしメガネをかけていた。そしてなによりめちゃくちゃ可愛かった。まさか異世界で縞パンを見ることができるなん——いや違うんだ。パンツじゃなくて女の子が可愛いんだ。信じてくれ。肌は白くて目はパッチリ、鼻と口は小さくておまけに耳が尖っている。ストレートロングの髪が水色なところも完璧だ。
嘘だと思うだろ? 俺だってそう思った。
「ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
くわえていたパンらしきものを盛大に飛ばしながら彼女はかけよってきた。
彼女は俺の顔を見るなり「まさか……そんな……」と目を見開いた。数秒俺の顔を見つめていたが、何かを思い出したように周りを見渡して。
「とりあえずこっちに!」
全く状況の飲み込めない俺の手を引っ張って走り出した。
なんで俺が連れて行かれてるのかはともかく、彼女が何者かに追われていることはわかった。ようやく追手を撒くことができたのか、人気のないところで歩を緩めた。
久しぶりに全力で走ったもんだから、心臓がやばいくらい脈打ってる。
「はぁ……はぁ……とりあえず……はぁ……説明して……もらえる?」
息を整えながら俺の手を引く彼女に訪ねた————俺はいま美少女と手をつないで歩いている。やばい、別の意味でドキドキしてきた。
「突然すみません……あの、私はセラと申します。あなたは?」
何かを期待するような眼差しで俺を覗き込んでくる美少女に、俺の動悸はますます激しくなった。すでに手をつないでいる必要はないはずなのだが、セラはまだそのことに気づいていない。できるだけ手を意識させないようにしよう。
「俺はコウヘイだけど……」
セラは俺の名前を聞くと、なぜか少し寂しそうな顔をした。
「コウヘイ……やはりキオではないのですね……」
「キオ?」
話を聞いてみると、俺は数年前から行方不明になっているキオというセラの幼馴染に似ているらしい。これはもうビンゴとしかいいようがない。いや、俺自身が幼馴染ではないが、これ以上歩みよるのは不可能ってもんだろう。メガネをかけて曲がり角でぶつかってパンツ見せてくれた異世界の美少女の幼馴染に似てるっていうんだから。
「とりあえずさ、セラは誰に追われてるの? いや、誰か聞いてもわからないと思うから何でって聞いたほうがいいのか?」
あまりにも怒涛の展開に頭が置いてけぼりだが、セラの話を詳しく聞くことにした。彼女が何者で、何があって追われることになったのかを。
彼女は亡国のお姫様らしい。そして、敵国の刺客に追われ中立国であるこの国に逃げてきたというのだ。どこまでもパーフェクトな展開である。中立国であるため王宮まで逃げることができれば敵国も手を出せなくなる。しかし、中立国であるがゆえに王宮外での保護を期待することもできない。ようするにどうにか王宮に逃げ込めばセラの勝ちだが、当然王宮の周囲には敵国の網が張ってあるということだ。クリア条件もわかりやすい。俺は「危険です」と制止するセラを押し切り彼女に協力することにした。
「そのあと、王宮を目指した俺達は、ときに刺客をかいくぐり、途中で俺の魔法の才能が目覚めて刺客をバッタバッタとなぎ倒し、行方不明になっていたキオも現れて、何度も死ぬおもいをしながら、おおよそ五話分ぐらいの冒険を繰り広げたところで目が覚めたんだ」
いつものバーガーショップでポテトをかじりながら、友人に昨日見た夢の話をした。
「——お前が異世界に行けと言ったことは謝る。病院に行け」
友人はにべもなく言った。
「なんでただの夢で病院に行かにゃならんのだ」
「ご都合主義よろしく日本語で会話できた時点で夢だと気づくべきだったな」
それはその通りだが、夢というのはそういうものだろ。夢の中でそれが夢だと自覚できることはまれだと思うのだが。
「で、どうだったんだ?」
「どうというのは?」
「理想の美少女との出会いはどうだったのかと聞いている」
その友人の問いに、コーラをひとくち飲み、たっぷりともったいつけて答えてやった。
「最高だったさ。ただ、ひとつだけ言わせてもらえば——俺は普通の美少女と出会いたい」
俺の求める理想の美少女との出会い方とはこういうことなんだ 真白(ましろ) @BlancheGrande
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