3.こだわり、想像力の障害

「よし、これだけまとまればいいんじゃないかな。担当の人にも確認してもらうといいかもね」

「金本さん、ありがとうございました。水嶋さんも、ありがとうございます」


 ミキさんは、何も言わずに座っているだけだった私にもお礼を言ってくれました。


 ミキさんは書類をすべて丁寧に茶封筒に入れていきます。

 種類を入れる順番があるのか、ひとつひとつゆっくりと順番を並べなおして茶封筒に入れています。


 主治医が作成する診断書は、出来上がり次第ミキさんに電話をして取りに来てもらうことになりました。

 本来であれば、うちでは障害年金の診断書は自費で料金がかかるのですが、ミキさんは生活保護を受けているので本人さんからはお金は貰いません。

 代わりに生活保護の方から料金を徴収するので、その辺は請求書などの書類でやり取りをします。


 ミキさんは深々と頭を下げ、病院を後にしました。


「――こだわり」

「ん?」

「発達障害の三つ目の特徴って、こだわりですよね」

「うん。そうだよ」


 発達障害の三つあるうちの三つ目の特徴、それはこだわり(興味の限局げんきょく)、想像力の障害です。

 これは興味や考えが狭い範囲にかたより、新しいことや状況の変化に不安や恐怖を感じることをいうそうです。


 小さい頃は、毎日の生活習慣が変わることに強く抵抗する、思った通りにならないと混乱してかんしゃくを起こす、ごっこ遊び(ままごと)をしない、クルクル回るものが好き、覚えたり集めたり並べたりするのが好き、興味があることにはとても詳しい、物事の細部や手順にこだわり、全体が理解できない、融通が全く利かない、気持ちの切り替えが苦手、失敗に弱い、ゲームに負けるとひどく怒る、何でも一番でないとだめなど。


 思春期・青年期では、特定の興味や趣味に没頭する、生活すべてがワンパターン化する、日常生活動作の手順を細かく決めている、真面目で規則を守りすぎる、予定や計画の変更に対応できない、新しいことや変化に臨機応変に対応できない、応用力がない、自分の主張を譲れないなどの特徴があります。


「ミキさんの場合は、それが極端に出ていましたよね」

「出てたね。カルテでは見ていたけど、まさかあそこまでとはね」

「頑張って、この先就労できればいいですよね」

「そうだね」

「金本さん、私――」


 私――。


 分かったことがある。


 気付いたことがある。


 三つ目の特徴を聞いて、やっと言語化できる。



「私、いえ、私たちにも発達障害の特徴が備わっていると思うんです」



 ――ミキ編 Fin.

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