なっとうちほー
コウベヤ
なっとうちほー
海の外に旅立ったかばん達だったのだが……。
海にはタチウオのフレンズしか居なかったのでやっぱり引き返した。ボスもスペアの体を見つけて完全復活。すっかりいつものジャパリパークに戻っていた。
「どうしようサーバルちゃん、無性に冷奴が食べたくなっちゃったよ」
かばんは飢えていた。
「ひゃやゃっこ?なにそれ~」
サーバルもいつも通り。とても平和なさばんなちほーの午後。
「この前にじゃぱりとしょかんの本で読んだんだけどね、暑い日は冷たいビールと冷奴が最高だって」
「それってどんな食べ物なの?」
「ええとね、なんか白くて柔らかくて、すごく冷たいらしいよ」
「すごーい、冷たいんだ。さばんなちほーは暑いからね。それでそれで、どんな味なの?」
「さあ?」
思い立ったら即行動という訳で、かばんとサーバルは冷奴作りに乗り出した。
冷奴作りはまず大豆作りから。作り方は本で調べたし、畑はジャパリまん工場の一角を借りた。
これで準備は万端。二人は畑に大豆を植えた。
それから間もなくジャパリパークでは相撲が大流行。かばん達はすっかり畑の事も忘れて土俵に立っていたのだが。
「大豆ヲ収穫シタヨ」
ボスがバスでやって来る。バスの客車いっぱいの麻袋。中身は全て大豆である。
「ラッキーさんが育ててくれてたんですね」
「すごーい。さすがボス」
「マダマダ沢山アルヨ。大豆ヲ育テテルト楽シクナッテキチャッタヨ」
「じゃあ早く食べようよ」
サーバルはわくわくしている。
それからかばんとサーバルの楽しい大豆生活が始まった。
手始めに冷奴、煮豆、大豆カレー、炒り豆、豆のスープ…………
「ねぇまた豆のスープ?」
大豆生活十日目、六回目の豆のスープ登場。手間のかかる冷奴などもはや何処にもなく、かばんは狂ったように豆のスープを作り続けた。さすがにサーバルもかばんの作る豆のスープにうんざりしてきたところだ。しかし、大豆はまだまだ山の様にある。
「ごめんねサーバルちゃん。でもこれが一番簡単だから」
「たまには新しい料理食べてみたいなー」
「うーん、じゃあ納豆なんてどうかな」
「NATTO?」
「この前、ボスの記録で見たんだけどね、ミライさんが食べてたんだよ」
「すごーい、納豆すごーい。どうやって作るの?」
「簡単だよ。蒸した大豆をわらで包んで温かい場所に保存しておくだけだよ」
「温かい場所かぁ。ボスの頭の中とか」
サーバルはたまによくわからない事を言う。
「えっ何それ」
「ボスってね、頭の後ろに切れ目があってね、そこに手を突っ込むと温かいんだよ」
「えっなんで手を突っ込んだの」
「うーん……わかんないや」
「たぶんボスの中身は機械だから、その熱が温かいんだね」
「かばんちゃんってたまによくわからない事言うよね」
サーバルの偏差値が追い付いていない。
「とりあえずボスの頭の中で納豆を温めてみようか」
「みよーみよー」
「エッ」
かばんは有無を言わさずボスの後頭部に納豆をぶちこんだ。
「アッアッアッ」
「これでよし」
サーバルはそわそわした面持ちで三分ほどボスを見つめていたのだが
「もうダメ。お腹すいた」
サーバルがボスの頭にかじり付き、それをかばんが羽交い締めにする。
「食べないで下さいッ」
「食べたいよッ」
「納豆が出来るまでもっと待たないと」
「どれくらい」
「確か二日くらい寝かせるらしいね」
「えぇッじゃあ今日のゴハンは」
「豆のスープだよ」
「あっあっあっ」
「アッアッアッ」
サーバルとボスの受難は続く。
納豆はですね、非常に高い栄養価がありまして、高血圧予防以外にも歯周病とかに効果的です。最近はたまご風味とかゆずポン酢だれとか、いろいろ種類があるみたいですけどね、やっぱりシンプルにカツオ出汁風味のたれが好きですね。あと薬味はネギをよく入れます。
かくよむ こうべやおにいさん(こうべし)
二日後
ジャパリパークでは阿波おどりが大流行していたのだが。
「ねぇなんか最近ボスの頭臭くない」
鼻のいいサーバルがいち早く異変に気付いた。
「そう言えばラッキーさんの頭の中で納豆を作ってたんだった」
「アッアッアッ」
頭の中から取り出してみると酷いにおい。それに糸まで引いている有り様。
「えっこれ食べられないやつだよ」
サーバルはちょっと引いていた。
「これは発酵って言ってね、多分大丈夫なアレだよ」
かばんも自分で言っててあまり自信はなかったのだが。意を決して岩塩をひとふり、目を閉じて一気に口へ放り込んだ。
「これは……」
「これは?」
「美味しい」
「えぇ本当に!?」
「サーバルちゃんも食べてみなよ」
「うっうん……」
露骨に嫌そうな顔をしながらもサーバルは、納豆を口へ。
「おっ」
「おっ?」
「おいしー」
納豆の美味しさを知ったかばんとサーバルは納豆の本格的な生産を始めた。大量の大豆、どこにでもいるボス、フレンズの偏差値でも作れる手軽さ、これらの条件が揃っていた。それゆえにジャパリパーク中に納豆の製造方法が広まるのは、そう長い時間を必要としなかった。
そうげんちほーでは。
「なんだこれはネバネバするぞ」
ヘラジカが納豆を木の棒でつついてみた。
「これはくさいねぇ。ヘラジカのマフラーよりくさいよ」
ライオンは思わず手で鼻を覆ってしまう。
「私のマフラーってくさいのか」
「いい意味でだよ」
「なんだ、いい意味でか」
初めこそ、納豆の強烈な匂いに戸惑うフレンズ達だった。しかし、その美味しさがわかると次第にフレンズ達にも受け入れられていった。
じゃんぐるちほーでは。
「わーいネバネバだぞーたのしー」
とコツメカワウソはおおはしゃぎ。
「意外と癖になる味だな」
とジャガーからも好評。
ジャパリパークにおける納豆食文化はこうして花開いた。
ろっじでは。
「実は納豆人気に便乗して、新しい部屋を用意しました」
オーナーのアリツカゲラが部屋のドアを開けると
「うおぉぉぉ納豆まみれなのだ」
「ネバネバだねぇアライさん」
「こちらスイートルーム「ネバネバ」となっております」
アライさんとフェネックはネバネバしてよく眠れない部屋で一夜をすごす羽目になった。
ジャパリパークでは納豆文化が隆盛を極め、納豆の生産量は倍増した。
じゃぱりとしょかんでは。
「ほら、じっとするのです。じょしゅ、早くするのです」
はかせがボスを押さえつけ、じょしゅがボスの後頭部に乱雑に大豆を詰め込んでいく。
「アッアッアッ」
「それにしてもこんな保存食があったとは」
「納豆を大量生産していろいろな物と交換するのです」
「我々は賢いので」
「そう賢いのです」
「アッアッアッ」
ジャパリまんには無い保存性、ジャパリコイン以上の流通量、それらが納豆にはあった。だからこそ、一部の賢いフレンズ達は納豆に交換価値を見いだし始めた。そして、取引量は日毎に増えていき、やがて納豆の限界を迎えた。
さばんなちほーでは。
「かばんちゃん何作ってるの」
かばんは紙の札に納豆の絵を描いて手形を付けている。
「これはね、納豆券って言ってね。これ一枚を納豆百束と交換出来るって事にしたら便利じゃないかな」
「えっでも絵の納豆は食べれないよ」
サーバルはいまいち理解していない。
「えーとね、この券をぼくに渡してくれたらいつでも納豆と交換してあげるよ」
「へぇーすごーい」
やっぱりサーバルは理解していなかった。
「アッアッアッ」
ボスの頭の中で温められた納豆は、いよいよジャパリパークに本格的な貨幣経済を産み出したのだった。
みんなも納豆を沢山食べよう。
おわり
なっとうちほー コウベヤ @KOBEYA
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