お手製のミキサー

ふぃじ

それは、くるくると回る。

「困ったです。助手」

「困ったのです。博士」


 ここは、じゃぱりとしょかん。住人であるコノハ博士とミミちゃん助手は、2人で机に向かい、何やら唸っていた。そんな2人の元へ、来訪者がやってくる。


「お2人とも、お久しぶりっす。先日の木のお礼を持ってきたっす」


 やってきたのはアメリカビーバー。その傍らには、プレーリードッグも居る。


「あぁ、貴方は……。どうですか? 住まいの方は」

「おかげさまで、立派なお家ができたっす! こちらのプレーリーさんにも、協力してもらったっすよ」

「初めまして! プレーリードッグであります!」

「どうも、アフリカオオコノハズクの……なんです?」


 歩み寄ってくるプレーリーを、訝しげに見る博士。


「ご挨拶であります!」

「? ……!?」


 プレーリーの両手が、博士の顔をがっしりと捉える。そして……。




「ところで、お2人はどうかしたんすか? 何やら困っていた様子だったっすけど」

「え? あぁ……我々は、ミキサーの調子が悪くて、困っていたです」


 プレーリーの"ご挨拶"により呆けていた博士たちが正気を取り戻す。

 博士たちは、目の前にある筒状の物体がミキサーであること、料理に使用する道具であること等を、簡単に説明してみせた。


「不思議な形であります。具体的には、どんな感じに使うでありますか?」

「主に、液体をかき混ぜるときに使うです」

「固体を入れて、粉々にすることもできるのですよ」

「お、恐ろしいであります!」

「それで、そのミキサーが動かない、っすか」

「そうです。これは火を使用しないので、我々でも料理ができるはずだったのですが……」


 表情こそあまり変わらないが、その様子からは、落胆の雰囲気がひしひしと伝わってくる。


「うーん、なんとかしてあげたいであります」

「俺っちも協力したいんすけど……、これを動くようにするのは無理そうっす」

「お家のように、我々で別に作ったりはできるでありますか?」

「役割はわかったんすけど、この"くるくる"の仕組みは作れそうにないっす。ここがなんとかなれば……」


 2人の話を聞いていた博士たちが、考え込むような格好をした。


「なるほど。代用できるものがあれば、あるいは、ですか」

「なるほど。こういった道具の作成は専門外でしょうが、我々の知恵を合わせれば、あるいは、かもしれないです」


 博士たちの様子が、若干明るくなった。


「よし。ついてくるです」




 4人がやってきたのは、物置らしき一室。


「ここには、各地から集めた様々な道具があるです」

「ここにあるものは、好きに使用してもらって構わないのです」

「中には動作を確認していないものもありますが……多分、使えるです」

「見事我々の悩みを解決できたら、先日の木の支払いはおあいこ、ということでいいのです」

「え、本当っすか?」

「おぉー! 張り切るであります!」


 プレーリーが勇んで道具へ向かい、ビーバーも後に続いた。


「面白そうな道具が沢山であります!」

「これ全部、ミキサー、のお仲間なんすかねぇ……。どういう風に使うのか、全然想像できないっす」

「……あ、これなんてどうでありましょう? あの"くるくる"に似ているであります。ちょっと大きめではありますが」


 プレーリーが取り出したのは、大きめの"くるくる"を持つ、かつて、扇風機と呼ばれていた道具だ。


「これ、どうやって使うんすか?」

「恐らく、これを繋ぎ、ここを押すです」


 扇風機に関する知識は持っていなかったのか、博士は慣れない手つきで操作する。動くことを確認し、すぐにスイッチを切る。


「"くるくる"が大きいっすから、全体を少し浅めにして……横向きにして固定すれば……よし、これなら使えそうっす」

「しかし、この形状だと、粉砕には期待できそうにないです」

「仕方ありませんね。粉砕は手作業で妥協するのです」

「かき混ぜに関しては、これで可能だと思うっす」

「……あれ? それって、わざわざ道具を使わなくてもいいのではありませぬか?」

「ダメです! 道具を使用してこそ、料理なのですよ」

「ふーん。料理とは奥が深いでありますな!」

「とにかく、さっさと作業に移るのです」




「……出来たのは、出来たですが」

「……とても、不格好な出で立ちなのです」


 4人で作り上げたお手製のミキサーは、木で作った箱の底に、扇風機を取り付けただけのものだ。箱の裏側には、動かないように固定された扇風機本体が、剥き身で見えている。


「不安は残りますが……」

「実際に試してみなければわからないと、我々はカレーから学んだのです」

「それじゃあ、早速試してみるっす」


 4人は傍らに用意していた材料を手にとり、爪で刻んだり、手ですり潰すなどして、好き放題に放り込んでいく。


「よくすり潰すですよ」

「手がベタベタであります!」

「そういえば、今作っている料理は、どういったものなんすか?」

「これはミックスジュースといって、様々な果汁を混ぜ合わせたものなのですよ」

「結構楽しくなってきたであります!」


 箱のちょうど半分辺りまで入れたところで、材料が底をつきた。


「よし。準備完了です。始めますか」

「ドキドキっす……」


 早速とばかりにスイッチを入れる。扇風機は勢い良く回り始め……巻き起こされた風は、容赦なく材料を吹き飛ばしていく。


「どわぁー! であります!」

「ま、まずいっす!」


 ビーバーが慌てて、傍にあった板で蓋をした。が、時既に遅し。


「ひ、ひどい目にあったであります……」


 ビーバーの被害は比較的軽微であったが、目の前に居たプレーリーは、巻き上げられたジュースをモロに被ってしまった。そんな惨状を尻目に、無傷の博士たち。


「い、いつの間に後ろへ!?」

「礼を言うですよ。プレーリー」

「助かったのです。壁役なのです」

「ひどいであります……」


 応急処置の蓋を抑えたまま混ぜ合わせること数分。そろそろ頃合いと、博士がスイッチを切る。


「それじゃあ、開けてみるっす」

「やはり、かなりの量が減っていますね。半分以上吹き飛ばされているです」

「出来は……急ごしらえにしては、よくやった方ではないかと。早速飲んでみるのです」


 博士たちが、手でジュースを掬い、口元へ運ぶ。ビーバーたちも、それに習った。


「美味しいであります!」

「美味しいっすねぇ」

「少し、いえ、結構ゴロゴロしますが」

「まぁ、第一歩としては悪くないのです」

「よくやってくれました。ビーバー、プレーリー。おかげで、我々も料理ができるようになったです」

「約束通り、木の支払いはもういいのです」

「俺っちたちも、博士たちに喜んでもらえてよかったっす」

「……それは、それとして」


 咳払いを1つ。味を占めた博士たちは早速、次の相談を始めるのだった……。

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お手製のミキサー ふぃじ @fiji

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