ツチノコとスナネコの遺跡調査

クイック賄派

ツチノコと砂ネコの遺跡調査

「お前に頼みがある」

「あなたは…?」

「ツチノコだよっ! この前遺跡で会っただろっ!」


 さばくちほー。 

 一面砂だらけのこのちほーに住むフレンズは砂を扱うことに長けているやつが多い。普段は一人でパークの遺物調査を行っているオレであるが、今回はどうしても専門家の手が必要だった。そこでこの間たまたま遺跡にやってきたコイツに協力を依頼したというわけだ。

 ただ、どうもコイツには不安要素があるわけだが……


「いせき…? ああ、ボクんちの奥にあったおもしろ場所ですね! ……でもまぁ、騒ぐほどでもないか」

「お、お前、あれはなぁ! パークの過去を知るための貴重な……」

「ところでそのフード、どうなってるんですか? おめめがついててかわいー」

「聞けよっ!」


 熱しやすく、冷めやすい。そんな動物の時の特徴を性格として反映しているのが、このスナネコというフレンズらしい。興味を持ったらとことん調べずには気がすまないオレとはまるで正反対の性格だ。

 そんな厄介な相手を手懐けるために、オレが用意したのはジャパリパーク内で広く物々交換に用いられている、おなじみのアレだ。


「まあいい。お前、穴掘りが得意だったな。ジャパリマン3日分やるから、ちょっと手伝ってくれ」

「3日分ですか…?」

「わ、わかったよ! 1週間分やるからついてこい!」

「何だかわからないけど楽しそうなのでついていくことにするのです」


 正直面倒なやつだとは思ったが、フレンズ付き合いが苦手なオレには他に頼めるアテもないので仕方がない。知的好奇心を満たすためには背に腹は代えられないのだ。



「この地図によるとだな、このあたりにパークの遺物があるはずなんだ」

「砂しかありませんが」

「おそらく砂の下に埋まってるんだな。だからお前を呼んだ。ちょっと掘ってみてくれ」

「わかりました」


 さばくちほーの日差しはやたら強く、足元から砂の熱気が伝わってくる。下駄を履いていなかったら足の裏をやけどしていたかもしれないなと思いながら、オレは砂の専門家が穴掘りする様子を見守ろうとしたのだが……


「フッフフンフフンフフッフフンフフッフーン♪」

「ひぎゃー、ごほっごほっ、お前っ、こっちに砂を飛ばすな馬鹿やろーっ!」


 こいつは一旦集中しだすと周囲が目に入らなくなるらしい。フードの中に入り込んだ砂をかき出しながらオレは思わず文句を言った。


「おっ、あれはヒトコブラクダとフタコブラクダです」

「聞けよっ!」


 相変わらずの注意散漫っぷりに辟易としつつも、スナネコの掘った穴を眺めて感嘆を覚える。流石に砂漠に住むフレンズなだけあって、あの短時間に結構な量の砂が掻き出されていた。

 とその時、穴の底に光るものが目についた。あれはもしかして……!


「お? おわぁああーっ! こ、これはっ!」


 間違いない! この間遺跡で見つけたのと同じ形。これはかつてのパークで通貨として使われていたアレだ!


「きれいですね。何ですかこれ!?」

「ジャパリコインだ! やっぱりこの下には何か埋まってるぞ! うわっはー! 思った通り……」


 そこまで語ってふとわれに帰ると、キョトンとしてオレをみつめるスナネコの両目が目の前にあった。


「…ごほん、ということだから、引き続き発掘作業を続けてくれ」


 ああ、またやってしまった。興奮するといつもこうだ。顔が恥ずかしさで紅潮するのをさとられないようにうつむいて、オレは息を整えた。

 なんだかんだ言ってこいつの砂掘りは優秀だし、幸先のよい発見もあった。この調子で行けば日が沈むまでには何か出てくるのではないかと期待に胸が膨らむ。

 

「満足です」


 しかしオレのそんな期待をスナネコは唐突に打ち砕くのだった。


「お、おい! どこ行くんだお前っ まだ発掘作業が…!」

「遺物が見つかって満足です。疲れたので家に帰って休むのです」

「中途半端過ぎるだろっ!」


 そうだった。熱しやすく冷めやすいのがこいつの性格。

 しかし……どうして目の前に大発見が待ち構えているかもしれないこの状況で……満足して帰ることができるんだコイツはっ!


「ボクは満足なのです」

「わ、わかった! ジャパリマン2周間分……いや1ヶ月分渡すから、最後まで掘ってくれ、な」

「ジャパリマンはもう十分あるからいいのです」


 な、なんだとコノヤロー!


「それでは」

「ちょっと待てお前―っ!」


「うぬぐぬぬ……」


 くぅ……これだから他人は嫌いなんだ。



「熱っ!」


 いざ自分で砂を掘ってみると、熱を持った砂を掘り出すという作業は予想以上に体力を消耗する事がわかる。

 

「ハァ…ハァ…」


 そもそもオレの身体は砂漠に適応するようにはできていない。脇にはスナネコが残して行った盛砂の山が馬鹿にしたようにオレを見下ろしていた。


「くそっ」


 体温調節の効かないぐったりとした身体を奮い立たせて、オレは再び砂に手を突っ込んだ。熱で指先に痛みが走る。


「どうしてそこまでするのですか?」


 幻聴が聞こえてきた。朦朧とした意識の中、オレは自分の行動原理を確認するように答えた。


「……知的好奇心、ってやつだ。オレたちフレンズはみなヒトをベースにして生まれた。そのヒトのために作られたのがこのパークだ。こうやって遺物を調べてれば、もしかしたら自分たちが何者なのか知る手がかりになるかも……」


「……って」


 そこにいたのはスナネコだった。


「ぴぎゃー、なんでお前いるんだよ! 帰ったんじゃなかったのか!」


 するとスナネコはちょっと意地悪な笑みを浮かべて答えた。


「あなたの砂掘りがあまりにへたっぴだったので面白くて」

「わ、悪かったな!」


 なんだコイツはからかう為に戻ってきたのかと一瞬呆れてしまったが、よくみるとそこにあったのは、紛れもないキラキラとした好奇心の眼差しだった。


「ジャパリマンはいいのです。あなたをみているとなんだか興味がわいてきました。何か出てくるまで掘ってみるのです」

「お前……」



「ごほっ、ごほっ!」


 扉を押し開くと、砂混じりの埃っぽい空気が肺に流れ込んできて思わずむせ返る。しかし次の瞬間目に入ってきたものにオレは歓喜の声をあげずにはいられなかった。


「ぅおっふおわっはっははー! すごいぞーっ! これはっ!」

「なんですかここは?」

「みやげものやだっ! パークを訪れたヒトのために、パーク所縁のいろんな物を置いてた場所だっ!」


 そこには図書館で見覚えがあるようなものから、まるで何に使うのか見当もつかないようなものまで、いろいろな『おみやげもの』が整然とならんでいた。


「わーっ、なにこれ!? 小さいフレンズ? かわいーっ」

「それはおそらくフレンズを模して作られたふぃぎゅあというやつだな。すごいぞ! 当時の状況が砂の下にそのまま埋まっていたんだ!」

「たのしーですね!」


 ふとスナネコと一緒に無邪気に騒いでいる自分に気づいて、照れた気持ちを隠すためにオレは少しあらたまって言った。


「あー、ごほん、今日は……その……お前の助けのお陰で、有意義な発見ができたな。感謝する」

「ボクも、あなたのお話が聞けて楽しかったのです。ツチノコは研究熱心で面白いですね」


 かぁ~~~~っ。


「どうして隠れるのですか?」

「う、うるさい! キシャー!」


 まぁ。


「オレも……知的好奇心、を共有できて、良かった。また、発掘の機

会があったら……頼んでも、いいか? なぁ~んて」


 こういうのも、たまには悪くないな。


「ふぅ、満足」

「聞けよっ!」

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ツチノコとスナネコの遺跡調査 クイック賄派 @quick_waipa

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