どったんばったんろっじでおおさわぎ!

とあしき

第1話 怪奇! 謎の影再び!

 「怪しい影を見た?」

 「そうなんですけど! 廊下を歩いてたら外にまるで不気味な影が現れたり消えたりしてたんですけど!」


 ろっじに二羽のトキのフレンズが来たのはつい昨日の事だ。

 先日も似たような出来事があったのをふと思い出す。

 強がりながらもぷるぷると震えを隠せないショウジョウトキの様子に、つい自分の表情がいたずらっぽく歪んでしまうのを感じた。


 「……ここは怪奇現象で有名なろっじなんだよ。ここで眠ると夢の中に紫色のセルリアンが……」

 「ひぃ! じょ、冗談よね……?」

 「冗談なものか。つい先日も、君たちが見たような怪しい影を目撃した客がいてね、その影は夜な夜なろっじの中に現れては消え……現れては消え……」

 「うぅ……」

 「お、良い顔いただき。嘘嘘、冗談だよ。驚いた顔はいいネタになるからね」

 「な、なんだー……良かったぁ……」


 ホッと胸を撫でおろすショウジョウトキの表情をすかさずスケッチする。

 最近は巨大セルリアン騒ぎやらで色々あったからネタには困っていないけど、こうして怖がってる子の表情を見るのはやはりいい刺激になるね。


 「あれ? じゃああの影はなんだったの?」

 「ああ、それは……」


 ちらりと視線を向ければアミメキリンが目を輝かせてソワソワとしていた。

 ああ、なるほど。今度こそは推理を当てて見せると必死なのだろう。

 彼女は私のマンガの愛読者だ。彼女が華麗に推理を言い放つところは私も見て見たい。

 マンガのネタにもなるしね。探偵役は譲るとしよう。


 「ふっふっふ、その犯人は……! ずばり、ボスよ!」

 「ええー!?」

 「実は以前サーバルたちが止まった時にも似たような事が起こってね!」


 アミメキリンが自らの推理が的中しているという確信を持った表情で宣言する。

 私としても、彼女の推理は当たっていると思う。

 なにせ、以前これと全く同じような事件が起きているのだ。犯人も推理しやすい。

 ……しかし、トキ達が驚愕するのも無理からぬ話だろう。

 私も、ボスがあんなことを出来るだなんて知って随分驚いたものだ。

 しかし、今にして思えば彼女の推理力はとてつもなかったなぁ。自分自身なんて真っ先に推理対象から除外してしまいそうなのに。

 彼女たちがごこくちほーから帰ってきたら、漫画の参考にさせて貰おうかな?


 「もー。あんまりお客さんを怖がらせないでくださいね?」

 「ははは。ごめんごめん。こればっかりは職業病みたいなものだからさ」


 アミメキリンがトキ達に事のあらましを説明しているとアリツカゲラがジャパリまんを皿へと乗せ歩いてきた。

 もう随分とこのロッジにはお世話になっているし、彼女に迷惑をかけるのは私としても本意ではないのだ。次からはもう少し気を付けたほうが良いかもしれない。

 マンガを書き進める手を止め、ジャパリまんへと手を伸ばす。

 アミメキリン達の話もどうやら終わったらしく、三人でジャパリまんを美味しそうに食べている。 


 「全く! 脅かさないで欲しいんですけど! もぐもぐ」

 「おっと、美味しそうにジャパリまんを食べながら怒ってる顔もいいね。いただき」

 「……さっきの話なんだけど」


 唐突に、ジャパリまんを頬張る手を止め、今まで黙っていたトキが口を開いた。

 それもなにやら思いつめたような表情で。


 「なんだい?」

 「影の話」

 「ああ、だからそれはボスが……」

 「ボスはあの子がいないとミライさんを出せないんでしょ? 今日、あの子はいないわよ?」

 「……あ」


 空気が、凍った。


 「じゃ、じゃああの影はなんだったの!」

 「もしかしてセルリアン……?」

 「そんな……だってこの前はボスが……」


 皆が各々にパニックへと陥った。

 私も、恥ずかしながら恐怖で手が震えてジャパリまんを落してしまった。

 確かにトキの言うとおりだ。彼女たちはもうごこくちほーへ旅立ってこの場にはいないのだ。


 その夜、私達は同じ部屋に集まり眠った。

 セルリアンか、はたまた本物の怪奇現象か。

 しかしながらこう怖がっている子達で集まって眠るというのはなかなかマンガのネタになりそうじゃないかな?

 うんうん! いいね! 次のテーマはこんな感じで行こう!

 ……別に怖くて眠れないからマンガのネタを考えて恐怖を誤魔化しているわけでは無いよ?

 

 もっとも、翌日カメレオンがやってきて犯人だと発覚したのだが。

 なんでも、一度泊まって見たくてろっじの前に来たのだけど、ついつい、いつもの癖で隠密して先にろっじ内を探検していたそうだ。


 「驚かせてしまい申し訳ないでござる……」

 「いえいえそんなお気になさらず! ちょっと怖かったですけど、みんなで一緒に寝るのも楽しかったですしね」

 「う、うん。そうだね。ははは……」


 実は昨晩は一睡もできなかったと言う事は私の胸の内に秘めておこう。

 まったく、此処での日々は退屈しないね。本当に。

 マンガのネタも、尽きそうにない。

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