ツチノコにとってのスナネコ

黒白難民

第1話

バタンッ!

大きな音と共に遺跡内の照明が消えて、暗闇と化す。

「はぁ……またあいつの仕業か!」

ツチノコは呆れたように呟き照明が点くのを待った。数秒後、照明が点き辺りが明るくなり「君はこの地下迷宮から脱出できるかな?」とヒトを煽るようなアナウンスが流れ、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「ツチノコさん今日もクールですね〜」

振り向くと見慣れたスナネコの顔が見えた。

「お前は今日も楽しそうだな」

「そうですか〜?」

皮肉を言ったつもりなのだがどうやら皮肉とわかっていないようだ。

「で、今日は何しにきた。もうこの遺跡は行き尽くしたはずだ」

「今日はツチノコさんに会いに来たんですよ〜」

「はぁっ!?」

思わず首を可動域以上に動かしてしまう。

「だからツチノコさんに会いに来たんですよ〜」

「お前はっ……」

声が詰まって言葉が出なかった。顔が熱くなる。こいつはアライグマとフェネックのコンビと共にやってきて何故かあれから頻繁に遺跡にやってくるようになったのだ。

「それで、今日は何しに来たんだ。もう遺跡内は全部回ったはずだ」

そう、もう遺跡内はこいつと隅々まで回ったのだ。来るたびにいろいろなものに興味を持ち-まあ、これはオレも同じようなところがあるから強く言えないが-飽きる。それの繰り返しだ。勿論オレの方が疲れて回るのも止める時もあればあるしあいつの方が疲れて帰ることもある。だから時間がかかる。そしてやっと回り終わって楽になると思った翌日にこれだ。

「へへへ、今日はツチノコさんにぼくの家を紹介したくて来ました」

「家?」

「はい、ってことで早速行きましょ」

そう言うだけ言って手を取りすぐに踵を返し遺跡の入口に向かって歩いていった。

「おい!まだ何も言ってないぞぉ!?」



「はい、ここがぼくのお家です」

そうして紹介された場所は遺跡から出て10分程度歩いた先にある洞窟の中だった。

「なるほど……そういえばあの時家の奥って言ってたな…」

初めてあいつが来た時のことを思い出して納得する。当たり前といえば当たり前だが見渡す限り砂しかないと思っているとスナネコの鼻歌が聞こえてきた。スナネコの方を見てみるとどうやら砂を掘っているらしい。何をしているの訝しんでいると砂の中から袋が出てきた。

「ジャパリまんでも食べますか?」

どうやら袋に入ったジャパリまんを取り出していたらしい。

「いらん」

「まあまあ、遠慮しなくていいんですよ?」

身体を傾けて煽るように言ってくる。

「ならもらう」

流石に連続で断るような理由も思いつかないので素直に貰う。袋に入っていたためジャパリまんには砂一粒すらついておらず不快感もなくいつも通りの食感と味だ。

「どうですか?美味しいですか?」

「美味いがいつもとかわらん」

「あれ、そうですか?ぼくはいつもより美味しいと思いますよ」

「そうか?」

「だって、ツチノコさんと一緒に食べてますからね」

スナネコは笑顔で言った。

「〜〜〜〜〜〜〜!」

声が出ない。声にならない。身体が、顔が、全身が熱くなる。スナネコは不思議そうな顔をする、こいつはわかってるのか、いったい自分が何を言ったのかわかっているのか。そう思考を巡らしているとスナネコは突然閃いたように顔をかえ言った

「もしかして照れてるんですか〜?」

「お、おまえは、おま、何だこのヤロー!て、照れてなんか!」

「でも顔赤いですよ〜?」

「赤くない!」

「ふふふ、照れてるツチノコさんも可愛いですよ」

「なっ…………!」

もうダメだ、完全に慌てている、慌てているというか焦っている、いや照れいる?それはないはずだ、ペースが取り戻せない。熱が逃げない。フードのせいだろうか。いやそれ以外にも確実な要因があるはずだ、それが何かは知ってるがわからない、認められない。こいつは……と思いスナネコを見る。

「満足」

「はぁ?」

「満足です。今日も可愛いツチノコさんを見れて満足です。また、遊びましょ?」

そう言いスナネコは均された砂の上に寝転がり始めた。声をかけるよりも先に寝息を立て始めた。

「はぁ……」

大きなため息が漏れる。いつもこうだ。唐突にやってきて、人を-人ではないけど-弄んで勝手に飽きて帰っていく。どうにもペースが狂う、幸せそうに寝ているスナネコの顔を忌々しげに見る。すると寝床の隣に何かが描かれているのが目に入った。

「これは……?」

帽子を被った顔と大きな耳がある顔、乗り物、そしてフードを被った顔。前3つはおそらく前に遺跡にやってきたヒト達、じゃあその後のはなんだ、答えはすぐ、何よりも近くいる。

「全く、しょうがない奴だ」

そう吐き出し、スナネコの顔をもう一度一瞥し軽く微笑み、ツチノコは鼻歌を歌いながら遺跡に帰っていった。

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