ジュン・テイル
白く明け始めたシャマインの一階テラスで、紅茶と共に俺たちを迎えてくれた二人の反応は両極端だった。
つまり一人は、勇んで出陣した敗残兵に苦笑いを向ける姉ちゃんで。
もう一人は、戦勝チームへ祝いとばかりに抱き着いてチューしまくる半透明の美優ちゃん。
不気味な主から逃げ惑うチーム・ロワイヤルの面々。
羨ましいと思いたいのに思えない。
複雑な心境で、皮膚も肉もシースルーという妖怪に声をかけた。
「美優ちゃん、気持ち悪い。なんで骨と眼球だけくっきり見えてるのさ」
「お? 山田、それ聞いちまうか? 聞いちまうのか? そりゃあれだ! 沙甜のパンツから摂取できる成分、カルシウムだけなんだこれ!」
「びたいち入ってねーだろ、カルシウム」
例え入ってたとしても、目玉はカルシウムで出来てねえだろが。
「たはーっ! 下半身だけダンディーなおこちゃまは分かってねーなこれ! ミョウガと一緒! 大人んなったら分かっから、それまで待っとけよ、ダンディー!」
「下半身に話しかけるな。ダンディーになっちまうだろうが」
「ダンディーは朝からやんちゃ坊主か? やんちゃなくせに背ぇちっさ! 背伸びしてそれかよピンセット必須! 坊主だから坊主めくりか? めくっちまうか? 美優の番だからめくっちまうぞこれっ!」
「残念でした。坊主です」
「ぎゃはははははははは! 頭めくったら坊主がでたっ! おはようございますっ! 山田剥けました一袋五百円! ワンコイン気取ってんじゃねえぞこれっ! うけるっ!」
ああうるさい。
そして眼球丸見えの頭ガイコツがすげえ気持ち悪い。
徹夜明けの上に意気消沈してる体に、美優ちゃんはちょっと脂っこい。
もたれを起こし始めた胃を押さえながら変な生き物の横を素通り。
姉ちゃんの前まで行くと、頭を優しく撫でて疲れた心を癒してくれた。
「…………そんな顔しないでいいのよ。胸を張りなさい、フラダンスちゃん」
「一瞬で心がささくれ立ったわ! どいつもこいつもっ!」
「いい感じにすべっすべね」
ああもう、俺は部屋に帰る! 寝る!
そう思って踵を返すと、一歩進んだところで足を止めることになった。
張りつめた空気。
治人が、美優ちゃんへ首を下げている。
「お叱りを承知で、お願いがあります。……我々が手に入れたこの勾玉、紫丞沙那に譲渡したいのですが……」
「はぁ!? ふざけんな優男! 今度はどんな魂胆だ!」
「治人、俺も沙那と同じ気分だぜ。バカにしてんのかよ」
真剣に戦った結果を踏みにじるような話だ。
返答次第じゃ、またぶん殴って分からせなきゃなんねえ。
「にゃはははは! なんで頭下げてんだよ我が息子! お前がしたいように、好きにすりゃいいじゃん! 美優はいらねえぞ、そんなカタツムリ!」
いつもご機嫌な美優ちゃんが、これでもかと嬉しそうな顔を浮かべて治人に抱き着いて。
かと思えば、ひゃっほーとか叫びながら手すりを越えて道路へ飛び降りた。
服を着た半透明ガイコツが走り出す。
早朝の道のど真ん中を。
愉快そうな声をあげて。
両手を広げて駆けていく。
治人が自分に逆らったことが、よっぽど嬉しかったみてえだ。
……どうしてなのかは分からねえけど。
嬉しかったみてえだ。
だから正面から来た車に跳ね飛ばされても、そうして笑ってるんだな。
「ってあほか!? はふーん♡ じゃねえ! 大丈夫か美優ちゃん!」
へらへら笑って手ぇ振ってるから平気か。
あー驚いた。
あわてて三バカが美優ちゃんの元へ駆けていく。
でも、治人はここにいたまま。
そして沙那の目の前、テーブルに勾玉を置いて楽しそうに微笑んだ。
「さて、魂胆についてだったね。……確かにあるよ。きみに恩を売っておけば今後の戦いで手加減してくれると思ってね。さあ、受け取ってくれ」
「…………ぜってぇウソだ」
「ふふっ、正解。ほんとは、君の罰が消えたら僕が有利になるだろうって魂胆さ」
有利? どういうことだ。
沙那と戦うには、罰が残ってた方が有利だろうが。
「やっぱな。……ウチの決意を舐めんな。他の男に触れる気なんかねえよ」
「……本当の魂胆は、それを君の口から聞きたかったんだ。我が好敵手さん」
何の話かさっぱり分からねえけど、舌打ちする沙那に微笑みかける治人の姿なんてもの見ちまったら肩から力が抜けた。
いつも通り。
昔っからの、いつも通りの二人の姿だ。
「よし、じゃあこれはウチのだ。だから、サタン様にやるよ!」
そう言って放られた勾玉が、朝日にキラキラ輝く放物線を描きながら姉ちゃんの両手に納まる。
「あらありがとう。…………ほんとにいいのね?」
姉ちゃんの問いに、清々しく頷く黒髪。
そんな沙那に、軽くため息をついた姉ちゃんがさらに語り掛ける。
「……しーちゃんは強いのね。あたしは罰を解除したくてたまらなかったのに」
「強かねぇよ。…………こうしてそこのバカだけに自分を縛り付けとかねぇと、不安になるってだけだ」
沙那がそう言って屋敷へ向かって駆け出すと、朱里ちゃんと花蓮も後を追った。
うーん、俺はどうしよう。
この二人に聞いたって、今のさっぱり分からねえやり取りが何なのか教えてくれないだろうし。
無い頭を捻って、頭を掻いてみる。
すると、無いのは髪だということに今更気付いて他の心配がすべて吹き飛んだ。
「…………ちきしょう、またハゲた。どうしろってんだよ」
「はははっ! 美優様も喜んでいらっしゃる。もうしばらくそのままでいてくれ」
「つめてえなてめえは。お前の毛もむしってやろうか?」
「できるものならね。その時は、全力で来てくれ」
そう言いながら……、いつもみてえに晴れやかに笑った治人は、手を振って別れを告げる。
一昨日までの騒ぎも無かったかのように。
そう言った意味では、ハッピーな結末なんだろうか。
「不器用な子ね。はなから自分を助けてくれたお礼って言えばいいじゃない」
「ん? …………ああ。勾玉、礼のつもりだったのか。だったら俺が貰うべきなんじゃねえの?」
「ダメよ、何度も言ってるじゃない。しー君は、そのタライともうしばらく一緒にいなさいな」
姉ちゃんが指差す先、遥か頭上で揺れる丸いシルエット。
それを眺めている間に姉ちゃんは姿を消していた。
……すべてが今まで通りに戻った朝。
嬉しさ半分、お前とはお別れしたいんだけど気分半分。
でも、まあ半分も幸せなんだ。
よきかなよきかな。
俺は満足な気持ちで大きく伸びをしながら、清々しく晴れた空を見上げて、
🐦がんっ!
…………やっぱり今まで通りなんか嫌だと心から思いながら、鼻を押さえてのたうち回った。
朝露に濡れたテラスは、戦いの熱をあっという間に冷ましてしまい。
いつもと変わらぬ日常が始まったことを俺に教えてくれるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ウェヌス・アキダリアの食卓は白い朝を迎えていた。
いや、うそ。
寝起きの俺たちが食卓に集まった今は、もう昼を過ぎている。
朝方まで戦った俺たちへの敢闘賞として、姉ちゃんはずる休みの許可を与えてくれたのだ。
お言葉に甘えてぐっすり寝たから、寝起きだけど昼下がり。
そんな変な時間に寝たせいで頭はすっきりしないけど、とある事情で目だけは冴えている。
というのも、眠気覚ましに風呂へ向かうと、着替え中だった沙那のせいでタライをしこたま食らってすっかり目が覚めたのだ。
「てめえ、姫っ! ほんっと責任とれよな!」
「知らねえよ。風呂の札がはいってませーんになってたんだから、俺は何にも悪くねえはずだ」
珍しく、アイランドキッチンに椅子が四脚並べられ。
カウンター席のような形に納まるチーム・ヴィーナス。
カウンターの向こうでは、ゆるふわ髪にねじり鉢巻きをした姉ちゃんが大量の米を丸い桶に移している。
「あら、早速役に立った? しー君の為にあたしがこさえたハニートラップ」
「どういうことさ」
「はいってますーんって書いてあるの」
「勘弁してくれ。おかげで頭はタライのせいでコブだらけ。左ほっぺたは突発性ぶん殴り女のせいでパンパンに腫れちまった」
「誰がぶん殴り女だ!」
おお、セリフと行動のギャップな。
俺は無事だった右ほっぺたにスナップと電撃の利いた拳を貰って、椅子から転げ落ちることになった。
「こら、イチャイチャしないの」
「イタイイタイされてるだけだ!」
「敢闘賞として、豪勢なお祝いしてあげるから大人しくなさい」
おお、豪勢な祝い。
ならば大人しく従いましょうとも。
転げた椅子を直して腰かけながら、ふと考える。
……敢闘賞。
今日こそは勾玉を手に入れたと思ったのに。
結果が出なけりゃくたびれ損。
未だにあの渦の感覚、指に残ってるぜ。
俺は右の指を左手で撫でながら考えた。
あとちょっと早く暗号が解けてたら。
あとちょっと早く穴掘り現場に着いていれば。
そしてなにより、運さえあったなら。
たられば、かっこ悪い。
そんなこた分かってる。
でも俺、誰より圧倒的に運がないような気がする。
運命の女神の前髪、いつも真っ先に掴むのに。
大抵ヅラなんだもん。
運勢最低男の小さな願い。
腹はペコペコだけど、なんかこう、さっぱり寿司とか食いたいのに。
姉ちゃんは米に酢を振ってぱたぱた扇いだりしてるけど、ここで期待したらどうせしっぺ返しを食らうんだ。
みんなに醤油の入った小皿を渡してるけど、まだまだ信じられん。
手元にワサビを置いてるけど、まだまだ。
そして大量のガリをタッパーから取り出して……、おいおい、じゃあやっぱり!
「ああ、そうそう。メインディッシュの前に、美優から『ざまあみろ賞』ってのが届いてるからこれでもつまんでて」
「山積みのからあげーい!!! ほらな!? やっぱそうなんだよちきしょう!」
「なにが『ほら』なのよ、変態。あの半透明な深海人はあんたの担当なんだから、頑張ってそれを無くしなさい」
「ふざけんな! こんなの、せいぜい三つで限界だよ……」
文句を言いながらも一つ手に取ってしまう自分の腹ペコが憎い。
でも、一口かじるとさらなる文句が口をつく。
「三つも食えるとか! 調子に乗ってすんませんでした! あんこ出てきたっ!」
ひとつだって食いきれるか!
「いいじゃない雫流! 当たり!」
「
「…………姫の、ほんとに当たりみてぇだぜ」
そう言って俺を半目で見つめる沙那。
まったくだ、俺のは当たりだったんだな。
まあ、落ち込むなよ。
なんと声をかけたものか悩む俺の前を横切って、唐揚げの山に食いかけが一つ戻される。
そこから半分顔を出してるのはミニカー。
「こんな小学生のいたずらみたいなのじゃなくて。いいかげん腹減った」
「はいはい、準備できたわよ。その唐揚げ山はお腹壊すからわきによけといて」
おお、俺の前のことを世間ではわきって言うんだな。
「へいらっしゃい! なに握りやしょ!」
「まってましたサタン様! ウチはウニ! いくら! ボタンエビ!」
沙那が身を乗り出して大将に注文すると、巨大な冷蔵庫が開け放たれる。
そこに並ぶは大量の魚介類。
いやはや、姉ちゃん、やり過ぎ。
「うわ……。凄いわね。私は中トロと大トロを二つずつ」
「へい! 少々お待ちを!」
沙那の分をあっという間に握り終えた大将が、花蓮の注文に取り掛かる。
「ほら、朱里ちゃんも好きなの頼みなよ」
「すごいすごい! あたし、玉子とゆでだこ! あと、かっぱ巻き!」
「……朱里ちゃん。君は大人になったら、割り勘って言葉に気をつけなさい」
それ三つ足しても、二人の頼んだ一貫分にも届かねえだろ。
俺は桶からシャリを取って、その上に唐揚げを乗せてひとかじり。
🐦がんっ!
「何やってんだよ姫ぇ! あぶねえじゃねえか!」
そうな、こんなものでお恥ずかしい。
俺は素っ裸の美少女フィギュアが半分飛び出した唐揚げを山に戻した。
「まったく。変態は離れて食べなさいよ」
「うるせえよ花蓮。手を貸しやがれ」
「嫌よ」
寿司をナイフとフォークで食べてやがる花蓮の皿。
なんで米とマグロを別々の皿に乗せて食ってるんだよ。
「じゃあ、そのトロをよこせ」
「いやに決まって…………、へっくち」
くしゃみと共に、宙を舞う大トロ。
それが俺に向かって落ちて来る。
おお、奇跡!
慌てて席を立って、後ろに三歩、四歩。
口をああんと開けて上を向いたら、
「へっくち!」
マグロ。お口にイン。
フォーク。喉にオン。
「ごあああああ! フォーク! ちょっと喉に刺さったぞコラ!」
首を無防備にさせといてからの攻撃とか、計画的過ぎてびっくりするわ!
「だ、大丈夫だよな? 俺、生きてるよな!?」
「そんなの本人じゃないんだから分からないわよ」
「こら花蓮! ウチの姫いじめんじゃねえよ! ほれ、ウチの食わせてやる」
おお、友よ。
珍しく俺を庇ってくれた沙那がご機嫌そうにウニ軍艦を差し出してくる。
でも、てめえの箸から食えって?
「恥ずかしい。バカじゃねえの? それに怪しい。ワサビまみれなんじゃねえの?」
「グダグダうるせえ奴だな! てめぇ、ウチの寿司が食えねえってのか!」
一瞬でご機嫌急降下。
顎を掴まれてウニを口に押し込まれた。
「ぐばばばばばばばばっ! こ、呼吸が……っ!」
口を痺れさせてそんなの押し込むなバカ野郎!
どいつもこいつも! 俺を殺す気か!
「紫丞さんだっていじめてるじゃないの! やめてあげて!」
そう言って腕を引っ張る、俺の勇者様。
た、助かった!
でもさ。
「げほっ! ……い、いじめで済む問題か!? 下手すりゃ二回死んでるぞこれ!」
ほんと冗談じゃねえ。
口、喉関係は狙うなよ。
取り柄の頑丈さが生かせねえから。
ムッとした二人の暗殺者をよそに、朱里ちゃんが俺に箸を差し出してくれる。
おお、何と!
絶品海鮮を朱里ちゃんからあーんなんて!
「はい、がり!」
「それは海でも鮮でもないけどよっしゃー! あーん!」
まだシビれるアゴを全開に。
なんだか口から零れそうだから、舌を出す。
なんたるご褒美! ドキドキが止まらねえぜ!
🐦がんっ! がりっ!
「舌がガリとかだれうまああぁぁぁぁ!!!」
机をバンバン叩いて痛みを表現。
だから、口、喉関係は狙うなよ!
「やれやれ……、ほんとにいつも通りに戻ったわね」
「いでぇぇぇぇ。……ああ、ほんとにな」
いつも通りに戻って嬉しかったとか思った時期も、俺にはありました。
でも、よくよく考えたらこの酷い姿が日常なわけで。
即死と隣り合わせって現実はまったく変わらなくて。
苦笑いを浮かべた姉ちゃんが、まるで何事もなかったのかのように寿司を頬張る三人娘を見つめる。
そして、くすっと一つ笑みを零しながらポケットから勾玉を取り出した。
「……でも、もうすぐ世界は変わるわ。否応なしに」
暢気な三人の手が止まる。
そして彼女たちの見つめる先で、姉ちゃんが勾玉を口に添えると、パキリと一つ音が響いた。
螺旋に舞う光の粒。
輝きを発しながら、ゆっくり世界から消えていく勾玉。
そして、姉ちゃんに課せられた鎖の大部分が地に落ちた。
「これであとちょっと。もうすぐお父さんと会えるわよ」
嬉しそうな笑顔の影に、なにやら寂しさが垣間見える。
あの男と会うことに、世界が変わるという言葉に、まるで含みがあるようだ。
三人も、それぞれの表情で一つ頷く。
一人は、まるで隠された秘密を探るような目で。
一人は、なにか大きな決意を胸に。
そして、能天気に何度も頷いている勇者様は、きっと姉ちゃんの幸せだけを考えながら……。
「まあ、未来のことはともかく。とにかく今は、すべてが元通りってこと」
そうだな。
もろもろ納得はいかねえけど。
……ほんと、納得いかねえ。
姉ちゃんの言葉に溜息をついていたら、沙那がぽつりとつぶやいた。
「……そうでもねえぜ」
さっき俺の顎を掴んだ左手を、痛そうにさすってるけど。
「なんでてめえが痛がってるんだよ」
「何でもねえよ」
そう言うなり席を立ってキッチンを出て行こうとした沙那が、ぴたりと足を止めて朱里ちゃんへ振り返る。
「少なくとも、ウチは今まで通りって訳にはいかなくなったみてぇだからな。ウチのライバルと戦った六月。忘れられない物語。…………紅威。てめぇの物語はメイ・テイルだったか?」
「うん。……雫流が、あたしの罰を解除してくれた物語」
朱里ちゃんの返事を聞いて、なにやら考え始めた沙那。
どすどす俺の元に戻って来て、尻のポケットに突っ込んでいたルーズリーフを奪い取った。
「なにすんだよ」
「ウチのは、六月の物語。ジュンテイルだ。てめえが邪魔だけどな、赤毛猿」
なにやら書きなぐったページを開いて、俺の前に置く。
なんだこりゃ?
ジュ ン テイル
モンキイ
「…………姫。てめぇに暗号のプレゼントだ」
「いやいや、意味分からねえし」
「てめぇ、教会でウチに言った言葉、思い出せねえって言ってたよな」
「おお、まったく思い出せねえ」
厳密に言えば、こいつがなにやらこだわる言葉が思い出せねえだけだけど。
姉ちゃんに呼ばれてるのにめんどくせえ質問しやがった事だけはよく覚えてる。
ガキの頃の約束だ、大した意味なんかねえ。
『大人になったら結婚してやるよ』
なんて言葉。
それにこんな暗号押し付けてどうする気だよ。
……いや、そんなにっこり笑われてもさ。
「てめえがあの時に言ってくれた呪文、未だに効いてるんだよ」
「どういう意味だよ。それにこんなの、読めやしねえよ」
もう、暗号解読は昨日ので沢山だ。
面倒くさくてルーズリーフを丸めてポケットに押し込むと、沙那はため息を突きながらも楽しそうに姉ちゃんに話しかけた。
「……サタン様。暗号ってなぁ、いいもんだな」
「そうよ。……誰かの事を想って作った暗号は、宝石よりもキラキラ輝くの」
「ウチの作ったのも、輝いてるかな?」
「ええ。とっても」
そんな言葉に、見たこともないような笑顔になった沙那が、手をひらひらさせながらキッチンから出て行った。
……どういう意味だ?
ジュモン、いまだにキイテイル?
俺は首をひねりながら、沙那の皿から食いかけの寿司を一つ取る。
それを口に放ると、効き過ぎたワサビが口いっぱいに広がった。
……まるで沙那に触れられているみたいに。
いつまでもビリビリが消えることは無かった。
ジュン・テイル おしまい
ヒメコイじゅんている ~続々・毎朝五分の暗号解読/おやすみ前にラブコメディー~ 如月 仁成 @hitomi_aki
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