各小説投稿サイト版あとがき

 ここから先、物語の核心に触れる記述があります。本編未読の方はご注意ください。


 『群青に失う』リマスター版を読んでくださり、誠にありがとうございます。

 この作品は、わたしが大学生だった二〇〇八年から二〇一〇年にかけて執筆した長編ノワールサスペンス小説です。執筆当時はmixiやmixiページで全文公開していました。

 完成してからは新作小説の執筆ばかりしていて、本作には全く触れていませんでした。ですが、その数年後に各小説投稿サイトの存在を知り、にわか物書きの活動拠点を新しく広げてみたいと思い、二〇一六年から本作のリマスター作業に取り組み始めました。

 新しい場で新しいことをやるなら、最初の作品は個人的にも思い入れの深い『群青に失う』にしよう。せっかくやるなら、完成当時よりさらにブラッシュアップした形のほうがいい。そう考えて、完成した本編に大幅な加筆修正を行いました。物語の根幹や展開は全く変えていませんが、明らかに不自然な表現や言い回し、誤字脱字や表記揺れは極力綺麗に直しています。

 わたしが『群青に失う』に手を加えるのは、これがきっと最後の機会となるでしょう。悔いのない形まで持っていくのに、予想以上の時間がかかってしまいました。ですが、得るものや気付きも多く、大変と言いつつもやり甲斐のある作業になりました。


 こちらでは、完成直後のあとがきには書き切れなかったことに触れてみます。

 本作の構想を具体的に練り始めたのは、恐らくぎりぎり十代の頃だったでしょうか。執筆時には表テーマ、裏テーマというのを作っていました。

 表テーマは「生きるとは? 死ぬとは? 罪とは? 罰とは? 記憶とは? 自分とは? 許すとは?」。要は物語の主軸です。何かを失った人たちの生き様を描きながら、それらのテーマを自分なりにとことん突き詰めてみたいと考えていました。

 対して裏テーマは「個人的に思う、サスペンス小説で外せない要素を全部つぎ込む!」。いわゆる趣味全開。キャラクターやシチュエーション、台詞や関係性など細部に至るまで、わたしのマニアックな好みを行き届かせました。

 どの場面のどこに、どんなテーマや萌えが隠れているのか。答え合わせは、読んでくださったあなたにお任せします。


 本編執筆を終えてから、早いもので十年の歳月が経ちました。当時大学生だったわたしは社会人になり、お金はないが時間はある生活から、最低限のお金はあるが時間がない生活へと変わりました。何度か職を変えたり、公私ともに何度も壁にぶち当たったりしながらも、最大の趣味であるにわか物書き活動は、今もちびちび続けています。

 この十年で、世界も姿を変えました。本編執筆当時、携帯電話はまだ折畳み式が主流で、連絡手段もメールか電話。LINEはまだなく、SNSも今ほど多種多様ではありませんでした。何もかもがまだ発展途上もしくは開発初期だったためか、インターネット上での作品公開も、少なくともわたしの周囲はおっかなびっくりやっていた人が多かったです。

 当時は各話が完成する度に原稿を印刷し、友人たちに回し読みのような形で読んでもらっていました。友達だからと遠慮することなく、いつも忌憚ない感想や意見をくれた彼女たちには、今も感謝の念が絶えません。

 インターネット上で公開を始めてからは、それまでにはなかった種類の刺激を頂戴する機会にも恵まれました。新しい読者の方々からイイネやコメントをいただいたり、ネットニュースにしていただいたり……。星の数ほどある投稿作品の中から本作を見つけてくださり、ただでさえ長すぎる作品を根気強く読んでくださって、本当に嬉しく思っています。顔や名前は知らなくても、あなたとの出会いはわたしの宝物です。


 おかげさまで『群青に失う』は、友人内ではありますが、概ね楽しんでもらえたようでした。ラストについては「へこんだ」「厳しすぎる」「これを救いと呼べるのか?」という感想もいただきましたが、個人的には執筆当初から決めていた結末で、最後までぶれることがなく書けたのでよかったなと思っています。「だって、あれ以外に他ある?」と言ったら「ひどい!」と全員に返されました。そ、そうか……。うむ。

 各小説投稿サイトから読んでくださった皆様はいかがだったでしょうか? よろしければご意見・ご感想をお聞かせください。

 また、作中に登場した杉原雪花と垣内亮太の関係性が友人内でものすごく好評で、それならばいっそ二人のその後も書いてみる……?ということで、スピンオフ小説も書いてしまいました。『忘れえぬ染め跡』といいまして、唯一のスピンオフ作品となります。今後連載予定ですので、よろしければそちらもぜひお付き合いくださいませ。


 お仕事と並行しながらの活動なので、なかなかまとまった時間が取れないのが口惜しいところではありますが、今後もにわか物書きは小説をひたすら書き続けていきます。今後も変わらぬお付き合いをいただけたらありがたいです。願わくば、書籍という形で皆様とお会いできる日が来たらいいなあ……。

 夢は膨らみます。歩みは人の数倍遅くとも、今後も夢に向かってぼちぼち頑張っていきます。また次の物語で、あなたとお会いできますように。



咲原 かなみ


二〇二一年八月八日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

群青に失う 咲原かなみ @peachan0414

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ